Studio One最新版“Pro 7”の新機能を普段の工程に沿って試してみた|解説:磯野好孝(Emerald)

Studio One最新版“Pro 7”の新機能を普段の工程に沿って試してみた|解説:磯野好孝(Emerald)

 Emeraldのギタリスト、磯野好孝です。私たちEmeraldは、この8月に3枚目/7年ぶりとなるアルバム『Neo Oriented』をリリースしました。今回はアルバム収録曲「消えた陽炎」のアレンジ検討段階を振り返りつつ、Studio One Pro 7の注目機能を見ていきます。

ループ・ベースの新機能ランチャーを曲の構成作りに応用

 去る10月にStudio One待望の最新バージョンStudio One Pro 7がリリースされました。これまで以上に制作を効率化する新機能が多数搭載されており、今後の制作がさらに快適になることを実感しています。

 Emeraldは、メンバー6人全員が作曲やアレンジをするバンドです。また、各メンバーが制作した“デモ・トラック”(曲の素案)は、本番の楽曲を構成するパーツとして分解/再構築されることがほとんどです。そういったことを見越して、最初からは曲の構成を作り込まず、2パターンくらいの簡単なスケッチとしてメンバーに共有されます。

 デモ・トラックから楽曲全体の構成をまとめる“粗編集”は、私がよく担当する作業の一つです。通常、トラックが並んだタイムライン上で編集しますが、分解/再構築のような大掛かりな編集作業をしているとデータを見失うことがあります。そうした問題を防ぐために、先代のStudio One 6 Professionalではアレンジトラックという機能を使っていました。

 Studio One Pro 7では、より直感的に操作できるランチャー機能が追加されています。

今回は、曲中の各トラックを8小節単位に切り分け、ランチャー(画面右のエリア)にコピーしてみた。ランチャーの縦軸は曲の場面を表す意味で“シーン”と呼ばれ、そこに切り分けられてできたセルが並ぶ。シーンもセルも再生ボタンを装備し、個別にループ再生が可能

今回は、曲中の各トラックを8小節単位に切り分け、ランチャー(画面右のエリア)にコピーしてみた。ランチャーの縦軸は曲の場面を表す意味で“シーン”と呼ばれ、そこに切り分けられてできたセルが並ぶ。シーンもセルも再生ボタンを装備し、個別にループ再生が可能

 ランチャーは、曲中のオーディオ/インストゥルメント・トラックを1小節や数小節といった短い単位(セル)に区切って、ループとして扱える機能。セルの縦方向の積み(縦軸)はシーンと呼ばれ、セルもシーンもループ再生可能です。ランチャーはライブ・パフォーマンスを想定した機能だと思いますが、個人的には粗編集で非常に使いやすいと感じます。今回は「消えた陽炎」のアレンジ検討段階のソング・データを使い、試してみました。

 本曲のデモ・トラックには、ボーカルの中野陽介が構成込みで考えた鼻歌が入っていたので、まずは全体をプレビューしながら8小節単位でトラックを切り出し、ランチャーに保存しました。保存されてできたセルを一つ一つ再生することで、楽曲全体の構成のイメージが自然と広がっていきます。次にシーンプレイリスト機能を使って、各シーンの仮の並びをチェックします。

シーンを並べ替えることで、曲構成の試行錯誤が行えるシーンプレイリスト(画面上のエリア)

シーンを並べ替えることで、曲構成の試行錯誤が行えるシーンプレイリスト(画面上のエリア)

 プレイリストの内容はランチャーからタイムラインにドラッグ&ドロップで移せるため、ある程度構成が固まったらタイムラインに戻してアレンジを進めます。この機能のおかげで、従来のタイムライン上での作業よりも、構成全体を直感的に把握できるようになりました。

Spliceのサウンド・ライブラリーがStudio Oneから直接使える

 粗編集の後は、それぞれの担当パートにアレンジを任せますが、時折“こんなプレイを入れてほしい”というアイディアが浮かぶことがあります。そうした場合は、スケッチ的なアレンジ提案を入れることが多いです。鍵盤を使えるメンバーは即座にスケッチを描きますが、私の場合はギター以外の楽器を演奏できないため、オンラインのサウンド・ライブラリー・サービスSpliceを活用することがほとんど。実際、スケッチがそのまま採用されることも少なくありません。

 Studio One Pro 7にはSpliceの素材検索機能が組み込まれ、さらに使いやすくなりました。トラックをSpliceブラウザーにドラッグ&ドロップするだけで、トラックに合った素材を自動で見つけてくれます。

タイムラインから画面右下のSpliceブラウザーに任意の素材をドラッグ&ドロップすると、マッチング度の高い素材がオートに検索される仕様だ

タイムラインから画面右下のSpliceブラウザーに任意の素材をドラッグ&ドロップすると、マッチング度の高い素材がオートに検索される仕様だ

 また、キーやBPMが異なる素材も、それらが調整された状態でトラックに反映されるため、アイディア・スケッチ段階で大いに役立ちます。

Studio One Pro 7のSplice素材検索機能でサジェストされた声ネタを入れた「消えた陽炎」

2ミックスを4つの要素に分ける“ステムの分割”機能

 新機能と言えば、AIベースの“ステム分割”というのも搭載されました。2ミックスの音源データをボーカル、ドラム、ベース、その他の4つのトラックに分割できるというもので、これを使えば既存の楽曲から気に入ったフレーズを抽出して、スケッチとして使用することも可能です(Spliceのロイヤリティフリー素材と違い、そのまま使うことが難しいのであくまでスケッチとして使います)。

2ミックスをボーカル、ドラム、ベース、その他の4つのトラックに分割できる機能“ステム分割”の画面。分割したいオーディオ・トラックを右クリックし、“オーディオ>ステムを分割”と選択すればアクセスできる

2ミックスをボーカル、ドラム、ベース、その他の4つのトラックに分割できる機能“ステム分割”の画面。分割したいオーディオ・トラックを右クリックし、“オーディオ>ステムを分割”と選択すればアクセスできる

 例えば「消えた陽炎」では、Spliceで見つけた女性ボーカルの素材をスケッチとして使用し、そのまま本採用となりました。もし、そのスケッチが私の中でイメージしていたシャーデー(Sade)の楽曲からのサンプリングだったとしたら、アレンジの方向性は変わっていたかもしれません。そういったことを考えると、アイディア・スケッチがほかのメンバーに与える影響は非常に大きく、今後はSpliceを使うか、サンプリングを使うかを慎重に選びたいと考えています。

 Emeraldの音楽は、常にテクノロジーとクリエイティブな試行錯誤の融合から生まれます。Studio One Pro 7の新機能を活用しながら、さらに進化したサウンドをお届けしていきます。どうぞお楽しみに。

 

磯野好孝(Emerald)

【Profile】新時代のシティポップを提示するバンド=Emeraldのギタリスト。Emeraldは2011年の結成で、2024年には7年ぶりのフル・アルバム『Neo Oriented』を発表。リード曲「ストレンジバード」がラジオ各局でパワー・プレイ。収録曲「in the mood」のテレビ東京『モヤモヤさまぁ~ず2』7〜9月度EDテーマ採用に加え、TOWER RECORDSの「NO MUSIC, NO LIFE」への掲出、東京キネマ倶楽部でのアルバム・リリース・ワンマン・ライブを成功に収めるなど、14年目となる現在も着実に活動の幅を広げている。

【Recent work】

磯野好孝(Emerald)
『Neo Oriented』
Emerald
(Maypril Records)

 

 

 

PreSonus Studio One Pro

PreSonus Studio One Pro

LINE UP
Studio One Pro 7:28,000円|Studio One Pro 7 クロスグレード/アカデミックバージョンアップ/アップグレード:21,000円|Studio One Pro+ 6 MONTH:14,000円|Studio One Pro+ 12 MONTH:26,000円
※いずれもダウンロード版
※オープン・プライス(記載は市場予想価格)

REQUIREMENTS
Mac:macOS 12.4以降(64ビット版)、INTEL Core i3プロセッサーもしくはAPPLE Silicon(M1/M2/M3チップ)
Windows 10(64ビット版)、INTEL Core i3プロセッサーもしくはAMD A10プロセッサー以上
共通:8GB RAM(16GB以上推奨)、40GBのストレージ、インターネット接続(インストールとアクティベーションに必要)、1,280×768pix以上の解像度のディスプレイ(高DPIを推奨)、タッチ操作にはマルチタッチ対応ディスプレイが必要

製品情報

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