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Studio Oneで別のDAWと曲作りの過程を共有する方法|解説:磯野好孝(Emerald)

Studio Oneと異なるDAWで曲作りの過程を共有する方法|解説:磯野好孝(Emerald)

 Emeraldのギタリスト、磯野好孝です。私たちEmeraldは、通算3枚目で7年ぶりとなるアルバム『Neo Oriented』をリリースしたばかりです。今回は、その制作過程を振り返りつつ長年愛用しているPreSonus Studio One Proについてお話ししたいと思います。

クラウド・ストレージのファイルをソングから読みにいく

 今回のアルバム制作は従来と異なり、一部のドラムやベースのレコーディングを除き、ほとんどの作業を各メンバーの自宅スタジオで完結させました。コロナ禍を機に整備した自宅環境のおかげで、レコーディング・スタジオで制作した過去作と比べてもそん色ないクオリティを実現できたのは大きな進歩です。ミックスやマスタリングは、いつもお世話になっているエンジニアの方にお願いしましたので、ここではアレンジやレコーディングをどのように進めたか、お話しできればと思います。

 Emeraldは、メンバー6人全員が作曲やアレンジをするバンドです。しかし各自のDAWが異なり、さらにそれぞれの習熟度にも差があるため、統一するのが難しい状況です。個人的には、DAWを統一できれば理想的だと考えていましたが、メンバーそれぞれが長年かけて構築してきた制作環境を簡単に変えるのは難しく断念しました(DAWprojectフォーマットが広まり、どのDAWでもプロジェクト・データがシェアできるようになることを期待しています。ちなみに、Studio Oneはバージョン6.5から対応しています!)。

 現在は、各DAWのプロジェクトを垣根なく共有することができないため、メンバー間では全トラックをWAVに書き出してやり取りするしかありません。しかし、この方法だと誤ったデータを参照してしまうトラブルが発生しがち。古いデータを基にアレンジを進めてしまった場合、その作業が無駄になることもあります。こうした悲劇を避けるためにも、データ管理の仕組みを整えることが課題でした。

 これに対処するため、私たちはクラウド・ストレージを活用し、楽曲制作のフロー(①作曲、②プリプロ、③レコーディング)に合わせたフォルダー構成と運用ルールを策定しました。各フェイズのフォルダーには“提案”と“確認済み(工程によってメインまたはFIXとネーミング)”の2種類のサブフォルダーを作成。

オンライン・ベースで楽曲を構築していくための仕組み。作曲、プリプロ、レコーディングという3つの工程に対してフォルダーが用意され、各フォルダーには“提案”と“メイン”または“FIX”の2つのサブフォルダーがスタンバイ。“メイン”または“FIX”に入ったものが、実際に採用される

オンライン・ベースで楽曲を構築していくための仕組み。作曲、プリプロ、レコーディングという3つの工程に対してフォルダーが用意され、各フォルダーには“提案”と“メイン”または“FIX”の2つのサブフォルダーがスタンバイ。“メイン”または“FIX”に入ったものが、実際に採用される

 まずは提案にアイディアをアップし、承認されたものを確認済みに移すというルールです。また、ファイル更新時には日付をファイル名の先頭に付けて管理することにしています。これにより、最新のデータを常に正確に追跡できるようにしています。

 また、Studio Oneが確認済みフォルダーを読みにいくよう設定しておけば、メンバーが何らかのファイルを更新したときに“行方不明のファイルを検索”という機能で古いファイルから新しいバージョンに差し替えることが可能。この機能は、ソング(ほかのDAWで言うところのプロジェクト)を開いたときにポップアップとして立ち上がります。

Studio Oneのソングは、指定したロケーションに存在するファイルを読みにいって、それを曲に反映させる仕組み。ソングを閉じている間に、バンド・メンバーの誰かがロケーション内のいずれかのファイルを新しいバージョンに更新していたら、次にソングを立ち上げたときに画面のようなポップアップが立ち上がり、“行方不明のクリップ”(以前はソング内にあったが現在は存在しない音)があることを伝えてくれる(黄枠)。このとき右側の“ファイルを検索”ボタンを押すと、任意のロケーションから目的のファイルを探せるので、新しいバージョンを選択すれば差し替えが完了する

Studio Oneのソングは、指定したロケーションに存在するファイルを読みにいって、それを曲に反映させる仕組み。ソングを閉じている間に、バンド・メンバーの誰かがロケーション内のいずれかのファイルを新しいバージョンに更新していたら、次にソングを立ち上げたときに画面のようなポップアップが立ち上がり、“行方不明のクリップ”(以前はソング内にあったが現在は存在しない音)があることを伝えてくれる(黄枠)。このとき右側の“ファイルを検索”ボタンを押すと、任意のロケーションから目的のファイルを探せるので、新しいバージョンを選択すれば差し替えが完了する

ドラムのグルーヴを聴き比べ!“64分音符ずらし”などの手法

 Emeraldでは、楽曲のグルーヴを検討する際、まずドラムとベースのアレンジを決定します。このプロセスは主に、私がImpact XTでドラムを打ち込み、高木陽(ds)と藤井智之(b)とディスカッションしながら進めます。

 Impact XTはStudio Oneに標準搭載されているドラム用サンプラーで、各パッドにオーディオ・ファイルを割り当てられます。スタジオで録る予定の楽曲では、ドラムの生音に近いファイルを割り当ててアレンジを進めます。

 ドラムの打ち込みでは“Choke”機能が役立ちます。

ドラム用サンプラーImpact XTのChoke機能は、パッドをトリガーしたときに、前に鳴らしたパッドの余韻をミュートできるというもの。パッドを選択して、Choke欄(黄枠)のプルダウンを見ると数字が出てくるので、例えばオープン・ハイハットとクローズ・ハイハットの2つのパッドを同じ数字にすれば、クローズが鳴った瞬間にオープンが鳴りやむヒューマンなフレーズを再現できる

ドラム用サンプラーImpact XTのChoke機能は、パッドをトリガーしたときに、前に鳴らしたパッドの余韻をミュートできるというもの。パッドを選択して、Choke欄(黄枠)のプルダウンを見ると数字が出てくるので、例えばオープン・ハイハットとクローズ・ハイハットの2つのパッドを同じ数字にすれば、クローズが鳴った瞬間にオープンが鳴りやむヒューマンなフレーズを再現できる

 あるパッドが発音した後に次のパッドが発音すると、先に鳴ったパッドの余韻がミュートされるというもので、例えばハイハットのオープンとクローズを同じChokeグループに設定しておくと、リアルなプレイを再現できます。そして、Impact XTではプリセットのキットも非常に充実しており、私が特に気に入っているのはUrbanic Producer Packに含まれるクラップ音です。これは大半の楽曲で使う万能素材で、Emeraldのグルーヴを形作る上で重要な要素の一つです。最終段階では、藤井健司(manipulator、cho)が音色を細かく調整してくれます。

 Emeraldのグルーヴを形成する上で、重要なテクニックの一つがクオンタイズ設定の使い分けです。ブラック・ミュージック的な心地良い“ハネ”(跳ね)を表現するために、クオンタイズ値を“16分3連(3連シャッフル)”や“64分音符ずらし”などに調整します。

64分音符ずらしは、16分ウラにある音を64分音符ぶんだけ後ろにズラしてグルーヴを変化させる技。上の画面はスクエアなドラム・フレーズで、下のほうは64分音符ずらしを施したバージョン。黄枠で示したノートが64分音符、後ろに移動している

64分音符ずらしは、16分ウラにある音を64分音符ぶんだけ後ろにズラしてグルーヴを変化させる技。上の画面はスクエアなドラム・フレーズで、下のほうは64分音符ずらしを施したバージョン。黄枠で示したノートが64分音符、後ろに移動している

 例えば、アルバム2曲目「in the mood」では、グルーヴを追求する過程で何度も試行錯誤を重ねました。今回は同曲の制作に使った素材でスクエア、3連シャッフル、64分音符ずらしの3種類の音源を用意してみましたので、よろしかったらご試聴ください。楽曲によって異なるクオンタイズ設定を用いることで、同じリズムでも異なる雰囲気を生み出すことができます。

 Emeraldの音楽は、メンバー全員のクリエイティブな試行錯誤とテクノロジーの進化が融合して生まれます。ここでお話しした内容が、皆さんのお役に立てれば幸いです!

 

磯野好孝(Emerald)

【Profile】新時代のシティポップを提示するバンド=Emeraldのギタリスト。Emeraldは2011年の結成で、2024年には7年ぶりのフル・アルバム『Neo Oriented』を発表。リード曲「ストレンジバード」がラジオ各局でパワー・プレイ。収録曲「in the mood」のテレビ東京『モヤモヤさまぁ~ず2』7〜9月度EDテーマ採用に加え、TOWER RECORDSの「NO MUSIC, NO LIFE」への掲出、東京キネマ倶楽部でのアルバム・リリース・ワンマン・ライブを成功に収めるなど、14年目となる現在も着実に活動の幅を広げている。

【Recent work】

磯野好孝(Emerald)
『Neo Oriented』
Emerald
(Maypril Records)

 

 

 

PreSonus Studio One Pro

PreSonus Studio One Pro

LINE UP
Studio One Pro 7:28,000円|Studio One Pro 7 クロスグレード/アカデミックバージョンアップ/アップグレード:21,000円|Studio One Pro+ 6 MONTH:14,000円|Studio One Pro+ 12 MONTH:26,000円
※いずれもダウンロード版
※オープン・プライス(記載は市場予想価格)

REQUIREMENTS
Mac:macOS 12.4以降(64ビット版)、INTEL Core i3プロセッサーもしくはAPPLE Silicon(M1/M2/M3チップ)
Windows 10(64ビット版)、INTEL Core i3プロセッサーもしくはAMD A10プロセッサー以上
共通:8GB RAM(16GB以上推奨)、40GBのストレージ、インターネット接続(インストールとアクティベーションに必要)、1,280×768pix以上の解像度のディスプレイ(高DPIを推奨)、タッチ操作にはマルチタッチ対応ディスプレイが必要

製品情報

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