Pro Tools活用ガイド 〜三浦大知『Horizon Dreamer』制作をNao’ymtが解説

プラグインからコーラス編成まで三浦大知への提供曲を解説|解説:Nao'ymt

 これまで三浦大知君や安室奈美恵さんなどに曲を提供し、今年プロ・キャリア25周年を迎えるNao'ymtです。私もアーティストとして定期的に曲をリリースしており、本連載ではプロデューサー兼アーティストとしてAvid Pro Toolsをどう制作に取り入れているかお話ししています。最終回となる今月は、大知君に歌っていただいた「Horizon Dreamer」がどのように作られているのかを紹介します。

ベースは帯域ごとに個別で音作り ギター系は合計22本の編成

 まずはビートを見ていきます。キックは主に3種類重ねています。1つはアグレッシブでパンチのあるメインのキック。そこに生ドラムのアンビ・マイク的な、少し奥に広がるキック。さらに、SEQUENTIAL Tempestから録音した少しひずんだ電子音的なキックです。それぞれFABFILTER Pro-Q 3で不要な帯域を処理し、PLUGINS THAT KNOCK Knockでパンチを出します。

キックに使用したドラム向けマルチエフェクト・プラグインのPLUGINS THAT KNOCK Knock。「Horizon Dreamer」のキックは3種類のキックを重ねており、それぞれ不要な帯域をEQ処理した後にKnockを通してパンチを付加している

キックに使用したドラム向けマルチエフェクト・プラグインのPLUGINS THAT KNOCK Knock。「Horizon Dreamer」のキックは3種類のキックを重ねており、それぞれ不要な帯域をEQ処理した後にKnockを通してパンチを付加している

 サブキックはメイン・キックをトリガーに、WAVESFACTORY Trackspacerでマスキングを軽減。そしてバスにUNIVERSAL AUDIO UADプラグインの1176 Rev.Aを挿し、3つのキックをのり付けします。

 スネアとタムはBFD BFD3で打ち込みました。真空管プリアンプをモデリングしたKUSH AUDIO Omega Transformer Model 458Aでタムをドライブさせた後、微調整してバスにまとめ、リバーブのUNIVERSAL AUDIO Sound City Studioで空間を演出しています。

 ベースはSEQUENTIAL OB-6とMOOG Sub 37という2種類の実機のシンセを使用しました。ラインはほぼ同じですが、OB-6はアタック感を、Sub 37はサステインを長めにしてボディ感を強調し、それぞれの役割を分けています。音作りにはFABFILTER Saturn 2を使用し、中低域には太さを加えるために真空管系、高域には柔らかくするためにテープ系のサチュレーションを選びました。

SEQUENTIAL OB-6、MOOG Sub 37という2種類の実機のシンセで構築したベースには、それぞれFABFILTERのアンプ・シミュレーターSaturn 2を使用。中低域には真空管系、高域にはテープ系のサチュレーターを選択した

SEQUENTIAL OB-6、MOOG Sub 37という2種類の実機のシンセで構築したベースには、それぞれFABFILTERのアンプ・シミュレーターSaturn 2を使用。中低域には真空管系、高域にはテープ系のサチュレーターを選択した

 パーカッションは、シェイカーやタンバリンを演奏したり、Tempestを使ったりしてグルーヴを作りました。バスにはOEKSOUND Spiffを用い、アクセントを強調しています。

パーカッションに使用したOEKSOUND Spiffは、パラメトリックEQのような画面で周波数ごとにトランジェントの調整ができるプラグイン。今回はパーカッション類を送ったバス・トラックに用い、boostモード(トランジェントを強調するモード)でアクセントを際立たせている

パーカッションに使用したOEKSOUND Spiffは、パラメトリックEQのような画面で周波数ごとにトランジェントの調整ができるプラグイン。今回はパーカッション類を送ったバス・トラックに用い、boostモード(トランジェントを強調するモード)でアクセントを際立たせている

 ギターは手持ちのTAYLORでガイドを弾いた後、川相賢太郎さんにお願いしてしっかり弾き直していただきました。アコギ19本、DOBROギター2本、バンジョー1本のアレンジです。VALHALLA DSP Valhalla DelayやU-HE Colour Copyを使い、いわゆるEar Candy (耳を引きつける音)を演出しています。

 ピアノは中低域のアルペジオにCINESAMPLES Piano In Blue、高域のきらびやかなタッチにSPITFIRE AUDIO Hans Zimmer Pianoを使用しました。シンセ・パートはほとんどOB-6とNOVATION Summit。ぼほ実機から録音したので、キー・チェンジが必要になっていたら、だいぶ危なかったですね……。

4本構成のメイン・ボーカルは録りためていき最後にコンピング

 最後は大知君の歌です。マイクはいつもSONY C-800Gを使用しています。リード・ボーカルは4本で、バース、コーラス、ブリッジ、アドリブに分けています。

「Horizon Dreamer」のメイン・ボーカルは4trで構成している。画面はそれぞれのクリップで、上からバース、コーラス、ブリッジ、アドリブのもの。ブリッジに書かれたオートメーションはセンド・ディレイのためのもの

「Horizon Dreamer」のメイン・ボーカルは4trで構成している。画面はそれぞれのクリップで、上からバース、コーラス、ブリッジ、アドリブのもの。ブリッジに書かれたオートメーションはセンド・ディレイのためのもの

 大知君との作業は楽しくて、アドリブで次から次に素晴らしいフレーズやシャウトが飛び出してくるので、ライブを観ているかのように興奮して、“いえーい!”なんて叫んでしまいます。完全に役得です。そうして歌っていただいた素材を組み立てます。前回紹介したように、複製のトラックにどんどんテイクを録りため、エンジニアさんと最後にコンピング作業をしてまとめます。

 ユニゾンは4本です。コーラスとブリッジは丸ごとユニゾンを重ねていて、バースはポイントごとに重ねます。“朝も夜も”という歌詞の部分のオクターブ下の声は、ユニゾンを歌っていただいたものを、SOUNDTOYS Little AlterBoyでオクターブを下げました。

曲中の“朝も夜も”の歌詞のところのオクターブ下の声は、ユニゾンの素材をSOUNDTOYS Little AlterBoyでピッチを下げて作成した

曲中の“朝も夜も”の歌詞のところのオクターブ下の声は、ユニゾンの素材をSOUNDTOYS Little AlterBoyでピッチを下げて作成した

 バックグラウンド・ボーカルはオクターブ、ハイ、ローの3パート構成です。R&B曲はコーラス命なので、左右2本ずつ4本重ねて厚くしますが、ポップ・ソングの際は2本にしています。

 コーラスの合唱は大知君を含め8名。各2パート×4本です。それぞれ異なる場所で録音したため雰囲気の異なる声が集まり、“誰かがどこかで水平線を目指し旅をしている”という曲のテーマにぴったりになりました。このようにトラック数が大量でも、Pro Toolsはフォルダやグループ分けが簡単かつ視覚的です。さらにコメント機能も併用すれば、迷うことはありません。ちなみに、合唱コーラスを録るときは“キャラクターを作って歌い分ける”のが私の定番です。今回は“ハルク”になりきって歌ったりしました(雰囲気です)。バースやブリッジも、オクターブ、ハイ、ロー、ウイスパーなどを重ねて構成しています。

「Horizon Dreamer」のコーラスをまとめた編集ウィンドウ。各2パート×4本というたくさんのトラックながら、Pro Toolsはグループ分けが簡単で、かつ視覚的にも分かりやすい。なお、“NAO HULK”というトラックが、本文に記載したハルクになりきって歌ったトラック

「Horizon Dreamer」のコーラスをまとめた編集ウィンドウ。各2パート×4本というたくさんのトラックながら、Pro Toolsはグループ分けが簡単で、かつ視覚的にも分かりやすい。なお、“NAO HULK”というトラックが、本文に記載したハルクになりきって歌ったトラック

 Pro Toolsは今でこそ気軽に使えるようになりましたが、昔は個人で導入するのが難しく、仕事が軌道に乗りはじめて思い切って購入したことを今も覚えています。それからはもう、編集はスムーズだし、ミックスはやりやすいしで、ずっと愛用しています。ボーカルの編集とミックスは必ずPro Toolsで行います。ありがとうPro Tools! 短い間でしたが、連載へのお付き合いありがとうございました! またどこかでお会いしましょう。皆さまも、良い音楽制作ライフを。

 

Nao'ymt

【Profile】1998年にR&Bコーラス・グループJINEを結成。2004年よりプロデュース業を本格的に始め、三浦大知や安室奈美恵、lecca、AIなどの楽曲を手掛ける。自身の名義でエレクトロニクス/アンビエントの楽曲を制作、発表している。

【Recent work】

『Horizon Dreamer』
三浦大知
(エイベックス)

 

 

 

Avid Pro Tools

AVID Pro Tools

LINE UP
Pro Tools Intro:無料|Pro Tools Artist:15,290円(年間サブスク版)、30,580円(永続ライセンス版)|Pro Tools Studio:46,090円(年間サブスク版)、92,290円(永続ライセンス版)|Pro Tools Ultimate:92,290円(年間サブスク版)、231,000円(永続ライセンス版)

REQUIREMENTS
Mac:macOS 15.1、最新版のmacOS 14.7.x/13.6.x/12.7.x、M3/M2/M1あるいはINTEL Dual Core i5より速いCPU
Windows:Windows 10(22H2)/11(23H2)、64ビットのINTEL Coreプロセッサー(i3 2GHzより速いCPUを推奨)
共通:15GB以上の空きディスク容量
*上記はPro Tools 2024.10時点

製品情報

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