Pro Tools活用術|MIDI編集・クオンタイズの極意と時短テクニック

オーディオ感覚で編集できるMIDI関連のTips|解説:Nao'ymt

 これまで三浦大知さんや安室奈美恵さんなどに楽曲を提供し、今年プロ・キャリア25周年を迎えるNao'ymtです。私もアーティストとして定期的に曲をリリースしており、本連載ではプロデューサー兼アーティストとしてAvid Pro Toolsをどう制作に取り入れているかお話ししています。今月は、Pro ToolsでMIDIを打ち込む際に便利な機能を紹介します。

イベント操作ウィンドウで詳細にクオンタイズを設定

 まずは簡単なピアノのフレーズを打ち込みます。オーディオと同じく、MIDIもテイクをプレイリストにためておけるのが便利です。プレイリストの複製を繰り返し何度か同じようなフレーズを打ち込んでいき、テイクを聴き比べ、気に入ったテイクをコンピングします。

ピアノのMIDIトラック。オーディオのプレイリスト機能同様に、MIDIプレイリストにテイクを保存しておけるのが便利。一番上のトラックが、下の3つのプレイリストから気に入ったテイクをコンピングして作ったクリップ

ピアノのMIDIトラック。オーディオのプレイリスト機能同様に、MIDIプレイリストにテイクを保存しておけるのが便利。一番上のトラックが、下の3つのプレイリストから気に入ったテイクをコンピングして作ったクリップ

 次に、MIDIエディタ画面、もしくは下部DockのMIDIエディタを開き微調整します。Pro Toolsでは、Optionキーを押しながらマウスなどのスクロール・ホイールを回すことで横方向にズームできますが、縦方向はMIDIとオーディオでキー・コマンドが異なります。MIDIの場合、Option(WindowsはAlt)+Shift+Command+スクロールで縦方向のズーム、Control (WindowsStart)+Shift+Command+[(JISキーボードは@)でリセットできます。

 初めに、クオンタイズを適用しましょう。クオンタイズをかけるかどうかは、曲調や楽器の特性によって判断が分かれます。例えばキックやベースなどの低域はタイミングのズレがグルーヴに大きく影響し、時に音が濁る原因にもなるため、特に目的がない限りは、クオンタイズを強めにします。一方、ピアノやストリングス、シンセのリフなどは、わずかなズレが重なることで厚みが生まれるため、積極的にはかけません。ズレを生かしたままタイミングを整えたい場合はMIDIをオーディオ化し、手動でエディットすることもあります。

 Pro Toolsには、自然さを残したままクオンタイズする方法があります。Option(WindowsはAlt)+0でEvent Operations Window(イベント操作ウィンドウ)を開き、人間らしいズレを残すため、“Strength”(強さ)を50%程度に設定しました。

Option(WindowsはAlt)+0のショートカットで立ち上がるEvent Operations Window(日本語設定ではイベント操作ウィンドウ)のクオンタイズメニューでは、グリッドやスウィング、指定範囲のみ適用/除外といった詳細の設定ができる。ここではStrength(強さ)を50%辺りに設定することで、“自然さ”を生かしている

Option(WindowsはAlt)+0のショートカットで立ち上がるEvent Operations Window(日本語設定ではイベント操作ウィンドウ)のクオンタイズメニューでは、グリッドやスウィング、指定範囲のみ適用/除外といった詳細の設定ができる。ここではStrength(強さ)を50%辺りに設定することで、“自然さ”を生かしている

 さらに、“Offset”を調整することで、クオンタイズ後のノートの位置をtick単位でずらせます。例えばフレーズが走り気味の場合は後ろにずらし、疾走感を出したい場合などは前のめりにノリを調整できます。また、“Exclude Within”(指定範囲内を除外)では、“ticks”で指定した範囲のノートをクオンタイズ対象から除外できるため、細かいニュアンスを保持しながら大きくタイミングがずれたノートだけを整えることが可能です。

指定したノートの抽出や分割など制作をスムーズにするMIDI機能

 イベント操作ウィンドウには、ほかにも便利な機能が多数あります。その1つが“Select/Split Note”(ノート選択/分割)です。特にオーケストレーションを行う際に役立ちます。例えば、ピアノで弾いた4声の和音をストリングスのカルテットとして各パートに分けたいときに、作業がスムーズに進みます。ピアノのMIDIクリップを開き、Select/Split Noteで“Pitch”の“Top”を1に設定し、“Action”をクリップボードにコピーするように指定します。次に、左のトラックリストから1stバイオリンのクリップを開きペーストすれば、トップノートだけを簡単に複製できます。そのままトランペットやフルートなどにもペーストして、メロディ・ラインを強化してもいいでしょう。

上の画面が4声のピアノのコードで、下の画面がEvent Operations Window(イベント操作ウィンドウ)のSelect/Split Note(ノート選択/分割)機能でピアノのトップコード(赤枠)のノートをバイオリンのクリップにコピーしたところ。オーケストレーションなど、複数の楽器を使う制作の際に便利

上の画面が4声のピアノのコードで、下の画面がEvent Operations Window(イベント操作ウィンドウ)のSelect/Split Note(ノート選択/分割)機能でピアノのトップコード(赤枠)のノートをバイオリンのクリップにコピーしたところ。オーケストレーションなど、複数の楽器を使う制作の際に便利

 なお、MIDIエディタではベロシティやモジュレーション・ホイールなどのMIDIコントロール情報を複数表示できるので、トラックリストでトラックを行き来しながら、ドラムだったらハイハットとパーカッションのベロシティの動きを寄せたり、オーケストラであればモジュレーションやCCに設定したビブラートの動きなどを各楽器でそろえることができます。

Pro ToolsのMIDIエディタでは、画面の下部にベロシティやサステイン、モジュレーション・ホイールといった情報のコントローラーパネルを複数同時に表示することができる。画面は、ピアノロールの下に3つのコントロール情報を表示させたところ。この視認性の高さも魅力

Pro ToolsのMIDIエディタでは、画面の下部にベロシティやサステイン、モジュレーション・ホイールといった情報のコントローラーパネルを複数同時に表示することができる。画面は、ピアノロールの下に3つのコントロール情報を表示させたところ。この視認性の高さも魅力

 また、ハイハットを打ち込む際に、数小節にわたり打ち込んだロングノートを“Separate Notes”の“On Grid”から、設定したグリッドに基づき自動的に分割できます。前回紹介したSoundFlowでキーコマンドと組み合わせるとより効率的ですが、Pro Toolsの基本操作だけでも迅速に行えます。ハイハットを1つ打ち込み、Command+dでグリッド単位で複製していくほうが速い場合もあります。さらに、Option(WindowsはAlt)と↑↓キーを押すことで、ノートを上下に複製できます。

 楽曲のキーを変更したい場合、オーディオトラックをエラスティックモードにしてからMIDIトラックも含めてすべて選択後、イベント操作ウィンドウの“Transpose”ですべてを一度に変更することができます。

Event Operations Window(イベント操作ウィンドウ)のTransposeメニューでは、MIDIトラックと、エラスティックモードのオーディオトラックのキーを一括で変更可能。画面では、MIDIクリップ(青)、オーディオクリップ(紫)のキーを同時に設定している

Event Operations Window(イベント操作ウィンドウ)のTransposeメニューでは、MIDIトラックと、エラスティックモードのオーディオトラックのキーを一括で変更可能。画面では、MIDIクリップ(青)、オーディオクリップ(紫)のキーを同時に設定している

 ほかにも便利な機能として、リアルタイムプロパティを使用すれば、トラック全体のMIDIプロパティをまとめて調整可能です。例えば、1/16でクオンタイズし、“DLY”で全体のタイミングを少し後ろにずらし、ベロシティの振れ幅を少し狭めるという処理もすぐにできます。

 現在、MIDIとオーディオを同じ感覚で編集できる環境は整っていますが、同じ画面に同時に表示できるようになれば、さらに快適になるのではないかと思います。最終回は、私が三浦大知さんに提供した曲をもとに、Pro Toolsのセッションを解説します。お楽しみに。

 

Nao'ymt

【Profile】1998年にR&Bコーラス・グループJINEを結成。2004年よりプロデュース業を本格的に始め、三浦大知や安室奈美恵、lecca、AIなどの楽曲を手掛ける。自身の名義でエレクトロニクス/アンビエントの楽曲を制作、発表している。

【Recent work】

『Fifth Light』
Nao'ymt
(YMT Productions Inc.)

 

 

 

Avid Pro Tools

AVID Pro Tools

LINE UP
Pro Tools Intro:無料|Pro Tools Artist:15,290円(年間サブスク版)、30,580円(永続ライセンス版)|Pro Tools Studio:46,090円(年間サブスク版)、92,290円(永続ライセンス版)|Pro Tools Ultimate:92,290円(年間サブスク版)、231,000円(永続ライセンス版)

REQUIREMENTS
Mac:macOS 15.1、最新版のmacOS 14.7.x/13.6.x/12.7.x、M3/M2/M1あるいはINTEL Dual Core i5より速いCPU
Windows:Windows 10(22H2)/11(23H2)、64ビットのINTEL Coreプロセッサー(i3 2GHzより速いCPUを推奨)
共通:15GB以上の空きディスク容量
*上記はPro Tools 2024.10時点

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