Pro Toolsで効率化する音楽制作術:トラック管理からSoundFlow活用まで 〜解説:Nao'ymt

トラック管理からショートカットまで作業効率化のTips|解説:Nao'ymt

 あらためまして、これまで三浦大知さんや安室奈美恵さんなどに楽曲を提供し、今年プロ・キャリア25周年を迎える音楽家のNao'ymtです。私もアーティストとして定期的に楽曲をリリースしており、プロデューサー兼アーティストとしてAvid Pro Toolsをどう制作に取り入れているかお話しできればと思います。第2回は、お勧めのTipsをお届けします。

トラック名におけるマイ・ルール プラグインにも対応する検索機能

 まずはトラックの管理方法についてお話しします。皆さんは、トラックの名前をどのように付けていますか? “Kick”“Bass”“Synth Pad”など、すぐに判別できる音は名前を付けやすいですが、“これって何だ?”と思うような音もあります。例えば、ポコポコと鳴る、実際には存在しないパーカッシブな音のトラック名を“Percussion 1”などにすると、トラックが増えるにつれて“どんな音だっけ?”と分からなくなることがあります。特に50trを超える場合、整理整頓しておかないと余計な手間が増えてしまいます。そこで私は、トラック名に2つのマイ・ルールを設けています。

 1つ目は、“聴いたまま”です。先ほどの音の例では、“Pokopoko”などと付けるでしょう。もう1つのルールは、“音のイメージ”を付ける方法です。先ほどの音であれば、“Abuku”とでも名付けましょうか。私は頭に浮かんだ映像から音楽を作るので、後者のようにミックスの際にすぐそのシーンを思い出せるよう、情景や物の名前を付けることが多いです。

 例えば、三浦大知さんに提供した「綴化」という楽曲では、“天まで伸びる梯子”という歌詞の部分で使用した音に“Hashigo”と付け、ひらひらと花びらが舞う様子を表現した音には、そのまま“Hanabira”と付けました。

筆者が三浦大知さんに提供した「綴化」の編集ウィンドウ。クリップに表示されたトラック名を見ると、“Kusakage”“Goshinrei”など、楽器や音の名前とは思えない名前を付けているのが分かります。このように、筆者は抽象的な音のトラック名の場合、“頭の中のイメージ”を言葉にして付けることが多いです

筆者が三浦大知さんに提供した「綴化」の編集ウィンドウ。クリップに表示されたトラック名を見ると、“Kusakage”“Goshinrei”など、楽器や音の名前とは思えない名前を付けているのが分かります。このように、筆者は抽象的な音のトラック名の場合、“頭の中のイメージ”を言葉にして付けることが多いです

 ほかにも、トラックを整理する際によく利用する機能があります。1曲の中で複数のキックを重ねたり、セクションごとに異なるキックを使用することがよくあります。そのような場合、“control+shift+S”(WindowsはStart+Shift+S)でポップアップする検索フィールドを使います。検索窓に“Kick”と入力することで“Kick”が含まれるオブジェクトが一覧できるので、目的のトラックに素早くアクセスできます。この検索機能はトラックに限らずプラグインの検索もできるため、大変便利です。

control+shift+S(WindowsはStart+Shift+S)で立ち上がる検索フィールド。画面は“Kick”で検索をかけたところ。“Kick”が含まれるオブジェクトが一覧でき、フィールド内から選択&実行が可能です

control+shift+S(WindowsはStart+Shift+S)で立ち上がる検索フィールド。画面は“Kick”で検索をかけたところ。“Kick”が含まれるオブジェクトが一覧でき、フィールド内から選択&実行が可能です

よく行う作業や工程はSoundFlowでショートカット化

 私は、よく行う作業やPro Toolsの操作をマクロ&スクリプト化してキーボードなどにアサインできるSOUNDFLOW APS SoundFlowというアプリを使用し、ショートカットで操作しています。中でも一番重宝しているのは、トラックにインサートしているプラグインやセンドをコピー&ペーストするショートカットです。例えばバックグラウンド・コーラスが30trあるとして、そのうちの1つをEQ IIIやDynamics IIIで音作りしたとします。その設定をほかの29trにコピーしたいとき、通常はOptionを押しながら一つ一つプラグインをドラッグするか、コピー元のトラックを右クリックして“Save Track Preset”で名前を付けて保存し、残りの29trを選択後、“Recall Track Preset”で先ほどのプリセットを適用する、という手順を踏む必要があります。私は後者をショートカット化し、“control+command+C”でトラック・データのコピー、“control+command+V”でペーストできるようにしています。

左画面の一番上のトラック(Vo 33)のプラグインの設定を、ほかのトラックにコピーしたところ(右画面)。このとき、通常はコピー元のトラックを右クリック→“Save Track Preset”(日本語設定では“トラックのプリセットを保存…”)を選択→名前を付けて保存→コピー先のトラックを選択→“Recall Track Preset”(日本語設定では“トラック プリセットをリコール”)選択という工程が必要ですが、筆者はPro Toolsの操作をマクロ&スクリプト化してキーボードやコントローラーにアサインできるアプリSoundFlowでショートカットを作り、自動化しています

左画面の一番上のトラック(Vo 33)のプラグインの設定を、ほかのトラックにコピーしたところ(右画面)。このとき、通常はコピー元のトラックを右クリック→“Save Track Preset”(日本語設定では“トラックのプリセットを保存…”)を選択→名前を付けて保存→コピー先のトラックを選択→“Recall Track Preset”(日本語設定では“トラック プリセットをリコール”)選択という工程が必要ですが、筆者はPro Toolsの操作をマクロ&スクリプト化してキーボードやコントローラーにアサインできるアプリSoundFlowでショートカットを作り、自動化しています

 また、“control+command+I”でインサートのみ、“control+command+S”でセンドのみをペーストできるようにもしました。さらに、クリップゲインラインでブレスを8dB下げたいとき、ブレスの箇所を選択後にショートカット・キーを押すことで、“選択箇所を切り出し、クリップゲインを−8dBに設定、さらに前後にフェードをかける”という作業も自動化しています。複雑な工程の設定にはコードを書く必要がありますが、SoundFlowにはテンプレートがそろっているため、それを改変することで望む結果が得られるかもしれません。

 最後に、トラックマーカーについてお話しします。トラックマーカーは、トラックのコメント欄に書き切れないことや、箇所ごとにメモを残したいときに便利です。特に、劇伴などの制作では構成が複雑になり、また多方面からリクエストが来ることもありますので、“More Low”“Add Delay”など、忘れないようマーカーに書き留めておくことが有効です。紙に書くこともありますが、複数のプロジェクトを同時に進めていると、どこに何を書いたのか忘れてしまうこともありますから、セッション内に情報をまとめて見落としを防ぎます。共同制作でセッションの受け渡しがある場合などは、リード・ボーカルのトラックに歌詞を入力するのも1つの方法かもしれません。

トラックマーカーで歌詞を表示させたボーカル・トラックのクリップ。トラックマーカーの色やテキストの内容は、メモリーロケーション・ダイアログで詳細な設定を行うことができます

トラックマーカーで歌詞を表示させたボーカル・トラックのクリップ。トラックマーカーの色やテキストの内容は、メモリーロケーション・ダイアログで詳細な設定を行うことができます

 トラックマーカーを使用するには、トラック横の+ボタンか、キーボードのEnterキーを押して新規メモリーロケーション・ダイアログを開きます。ダイアログのName欄に書き留めたい言葉を入力し、ロケーションを“Track”に設定します。ショートカット・キー“shift+U”を使えば、マーカーの表示をトグルできます。

 トラックの整理整頓こそが、良いミックスへの近道……なのかもしれません。次回は、MIDI機能についてお話ししたいと思います。

 

Nao'ymt

【Profile】1998年にR&Bコーラス・グループJINEを結成。2004年よりプロデュース業を本格的に始め、三浦大知や安室奈美恵、lecca、AIなどの楽曲を手掛ける。自身の名義でエレクトロニクス/アンビエントの楽曲を制作、発表している。

【Recent work】

『Placebo』
Nao'ymt
(YMT Productions Inc.)

 

 

 

Avid Pro Tools

AVID Pro Tools

LINE UP
Pro Tools Intro:無料|Pro Tools Artist:15,290円(年間サブスク版)、30,580円(永続ライセンス版)|Pro Tools Studio:46,090円(年間サブスク版)、92,290円(永続ライセンス版)|Pro Tools Ultimate:92,290円(年間サブスク版)、231,000円(永続ライセンス版)

REQUIREMENTS
Mac:macOS 15.1、最新版のmacOS 14.7.x/13.6.x/12.7.x、M3/M2/M1あるいはINTEL Dual Core i5より速いCPU
Windows:Windows 10(22H2)/11(23H2)、64ビットのINTEL Coreプロセッサー(i3 2GHzより速いCPUを推奨)
共通:15GB以上の空きディスク容量
*上記はPro Tools 2024.10時点

製品情報

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