Pro Tools付属プラグインで楽曲制作を完結!|解説:永井聖一

Pro Tools付属プラグインで楽曲制作を完結!|解説:永井聖一

 こんにちは。永井聖一です。暑い日が続きますね。わが家ではペットのうさぎのために家中のエアコンのフィルターを洗い、室外機に日除けを付けたら冷却効率が急激に上がり、逆に人間が体調を崩しがちなこの頃です。動物ファースト。

AIR Xpand!2のループやサンプルをEQ IIIの楽器別プリセットで処理

 さて、Pro Tools担当になって早3回目ですが、正直なところ、よく考えたら自分が日常的に使用するAVID Pro Toolsの基本機能の部分は、2回でほぼ出尽くしたかもしれません……。これ以上何か特別な活用をしているわけではないので(ポジティブな言い方をすれば、それでもある程度のジャンルのデモや楽曲は作れます)、今回はPro Tools付属のプラグインのみで楽曲制作を完結させてみようと思います。

 ちょうどよくCM用の約30秒の映像に音楽を付けてほしいという依頼が届いたので、早速ビデオをインポートします。ファイル→インポート→ビデオの順で該当の映像を取り込むと、映像と音声を別のトラックに分けてくれます。

映像ファイルを、ファイル→インポート→ビデオの順で取り込むと映像と音声が別のトラックに分けて読み込まれる(実際の作業画面では映像トラック上に動画のサムネイルが表示される)

映像ファイルを、ファイル→インポート→ビデオの順で取り込むと映像と音声が別のトラックに分けて読み込まれる(実際の作業画面では映像トラック上に動画のサムネイルが表示される)

 この映像は後半にストーリーが展開する内容で、曲もそれに合わせて展開してほしい、とリクエストがありました。この条件下では、先に曲のおおよそのテンポを定め、クリックにより展開のガイドを作っておくことが非常に効果的です。

 トラック→クリックトラック作成、でクリックを作成し、映像と照らし合わせながらテンポと構成を決めます。今回は117BPMがちょうど良さそうでした。テンポが決まったら2小節の余白を作り、展開する場所にマーカーを振ります。

オーディオと映像のトラックの前に2小節の空白を作り(赤枠)、展開にマーカーを付ける

オーディオと映像のトラックの前に2小節の空白を作り(赤枠)、展開にマーカーを付ける

 次にリクエストに準じた曲調に合わせたリズム作りですが、僕の場合、イメージに近いサンプルのドラム・ループを貼ってからディテールを分解するパターンが多いです。普段は数あるサンプルのストックの中から、悶絶しながらエラスティックオーディオでタイムストレッチしたりピッチベンドしたりして、ほぼそのまま使える加工品を生成することもあるのですが、今回はPro Tools付属のAIR Xpand!2の“Loops”がとても便利なので、そこから引き出してみます。

 トラック→新規→ステレオインストゥルメントトラック、でトラック(DR_LOOP)を作成後、インサートにプラグイン→Instrument→Xpand!2を召喚。Xpand!2内のLoopsに大量のリズム・サンプルが入っているので、ノートに適当な小節数分のMIDIを挿入し、Pro Toolsをループ再生にし、上から順に探します。“009 PopHopGroove”がイメージに近かったので、こちらをベーシックに決めて全体に貼りました。

Pro Tools付属のAIR Xpand!2。ループ素材も豊富に収録されていて、今回の制作ではプリセット“009 PopHopGroove”を軸に進行した

Pro Tools付属のAIR Xpand!2。ループ素材も豊富に収録されていて、今回の制作ではプリセット“009 PopHopGroove”を軸に進行した

 このままだとさすがに物足りないので、ドラムのパーツも別々に作ります。Xpand!2内のDrumsに“+25 Kicks+Snards+Sides Menu”というサンプルがあり、とても良いボトム感なのでここからキックとスネアを選びます。

Xpand!2のDrumsから“+25 Kicks+Snards+Sides Menu”を選択。ボトム感が良かったため、キックとスネアを採用した

Xpand!2のDrumsから“+25 Kicks+Snards+Sides Menu”を選択。ボトム感が良かったため、キックとスネアを採用した

 ハイハット、シンバルも同じ要領で。こちらはDrumsの“41 Hi-Hats Menu”と“34 Cymbals Menu”から。ハイハット類はベロシティがずっと同じだと平坦になりすぎるので、自分で書きます。

ハイハットはXpand!2のDrums→41 Hi-Hats Menuから選択。平坦になりすぎないようにベロシティを手動で設定していく

ハイハットはXpand!2のDrums→41 Hi-Hats Menuから選択。平坦になりすぎないようにベロシティを手動で設定していく

 後半(マーカーB)から展開を、というリクエストなので、少し華やかにするためにタンバリンも入れました。同じくXpand!2の27 Percussion→11 Tambourine Menuで、今のドラム・トラックと相性が良いサンプルを選択します。ここでパーカッション系のちょっとしたギミック。まずはフラットなサンプル音源に文字通り“シズル感”を出すためにおなじみAVID EQ III→Hi-Hat→Add Sizzleをインサート。次に人力でタンバリンを振ったときの“シャーシャカシャーシャカ”を再現するために、AIR Dynamic Delayで符点8分を選択し、FEEDBACKとMIXを調整すれば、あたかも自分でレコーディングしたような雰囲気が作れます。

展開を付けるために入れたタンバリンの音作りとして、まずはシズル感を出すために、EQ III(画面右下)をインサートしてプリセットのHi-Hat→Add Sizzleを選択。続いて、人力でタンバリンを振ったときの質感を出すために、AIR Dynamic Delay(同右上)で符点8分を選択し、FEEDBACKを35%、MIXを35%に設定した

展開を付けるために入れたタンバリンの音作りとして、まずはシズル感を出すために、EQ III(画面右下)をインサートしてプリセットのHi-Hat→Add Sizzleを選択。続いて、人力でタンバリンを振ったときの質感を出すために、AIR Dynamic Delay(同右上)で符点8分を選択し、FEEDBACKを35%、MIXを35%に設定した

 すでにタンバリンはEQ済みですが、一通りリズムが出そろったところで、ドラム全体のバランスを取ります。EQ III内は“Hi-Hat”“Kick Drum”“Snare”のように、プリセットのフォルダが分かりやすく分類されているので、それぞれに適応したプリセットから選択すれば、大体間違いのない響きを作ることができて非常に便利です。見よう見まねでパンニングして、スタジオのドラムのような配置を作ります。

左から、ハイハット、シンバル、タンバリンのトラックにインサートしたEQ III。楽器の種類別に分かれたフォルダの中に各種プリセットが内蔵されている

左から、ハイハット、シンバル、タンバリンのトラックにインサートしたEQ III。楽器の種類別に分かれたフォルダの中に各種プリセットが内蔵されている

付属のチャンネル・ストリップやスプリング・リバーブで最終仕上げ

 ベースに移ります。基本的な要領は同じで、Xpand!2の25 Bassesを。少しアタックが強いプリセットの03 Pickin Stanley Bassを選び、Aにレイヤーされた音色のHard Finger Bassのみオンにするのが一番相性が良さそうでした。さらに立体感を出すためにEQ IIIでプリセットBass Guitar内のFender Soundを選択します。

ベースにインサートしたEQ III。プリセットのBass Guitarカテゴリーから、Fender Soundを選択して立体感を出した

ベースにインサートしたEQ III。プリセットのBass Guitarカテゴリーから、Fender Soundを選択して立体感を出した

 バッキングを色付けるためにオルガンも少し足しましたが、Xpand!2内のプリセットを微調整しただけなので省略。ある程度のイメージはすぐに表現できるのでXpand!2はとても助かります。

 Xpand!2だけでほぼ土台が完成。ジャンルにもよりますが、シンプルなロック/ポップスならデモとして申し分ないクオリティになると思います。ただ、生ギターを入れればさらに……といったところなので、ギターをフィーチャーします。

 早速、リズム2ch(GTR_L、GTR_R)、リード(GTR_SOLO)を録りました。すべてPro Tools内と言いながら、シミュレーターは他社製(UNIVERSAL AUDIO Fender '55 Tweed Deluxe)でごめんなさい。程良いクランチの状態で録れましたが、トラックに混ぜると少し埋もれ気味だったので、Channel StripのプリセットElec Guitarでギター全体を持ち上げます。

ギター全体を持ち上げるために使用したChannel StripのプリセットElec Guitar。その後段ではEQ IIIやAIR Spring Reverbをインサートして調整していく

ギター全体を持ち上げるために使用したChannel StripのプリセットElec Guitar。その後段ではEQ IIIやAIR Spring Reverbをインサートして調整していく

 これだけでもシミュレーター特有のパサパサ感がかなりなくなりますが、まだ中域が渋滞していて分離が悪く聴こえたので、EQ IIIのElectric Guitarカテゴリーからそれぞれのトラックで相性の良いプリセットを選択。ダイナミクスは十分に稼げたので、パンを振ってAUXトラックを作成し、AIR Spring Reverbで空間を広げました。

 なんだかPro Toolsを使いはじめた頃の、純正プラグインだけでデモが完成したような達成感がありますね。最後に、新規トラックとしてマスターフェーダーを作成し、音量に余裕があることを確認したら、プラグインの選択画面でDynamicsカテゴリーからMaximをインサート。音圧を上げ、より説得力を持たせます。なお、Maximは輪郭がつぶれる場合もあるのでケースに応じての使用をお薦めします。

新規トラックとしてマスターフェーダーを作成。音量に余裕があることを確認したら、プラグインの選択画面でDynamicsカテゴリーからマキシマイザーのMaximを選んでインサート。音圧を上げることでより説得力を持たせる

新規トラックとしてマスターフェーダーを作成。音量に余裕があることを確認したら、プラグインの選択画面でDynamicsカテゴリーからマキシマイザーのMaximを選んでインサート。音圧を上げることでより説得力を持たせる

 データに不備がないと確認したら、ファイル→バウンス、Vコンに合わせてMOV.フォーマットを選択し、映像に合わせたデモ音源の完成。採用されることを願っていてください!

 

永井聖一

【Profile】作曲家/ギタリスト。相対性理論のギタリストとしての活動のほか、さまざまなミュージシャンへの楽曲提供やプロデュース、ライブ・サポートも務める。2023年からTESTSET、QUBITのメンバーとしても活動中。ライブ情報:<TESTSET>10/20(日)自主企画ワンマン・ライブ『TESTSET LIVE 2024』@Zepp Shinjuku

【Recent work】

『Good Bye Kamisama』
QUBIT
(BETTER DAYS / NIPPON COLUMBIA)

 

 

 

Avid Pro Tools

AVID Pro Tools

LINE UP
Pro Tools Intro:無料|Pro Tools Artist:15,290円(年間サブスク版)、30,580円(永続ライセンス版)|Pro Tools Studio:46,090円(年間サブスク版)、92,290円(永続ライセンス版)|Pro Tools Ultimate:92,290円(年間サブスク版)、231,000円(永続ライセンス版)

REQUIREMENTS
Mac
▪macOS Sonoma 14.4.5、最新版のmacOS Monterey 12.7.x または Ventura 13.6.x
▪M3、M2、M1あるいはINTEL Dual Core i5より速いCPU
Windows
▪Windows 10(22H2)、Windows 11(23H2)
▪64ビットのINTEL Coreプロセッサー(i3 2GHzより速いCPUを推奨)
※上記は2024年7月時点

製品情報

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