“ギタリスト”永井によるPro Toolsでのシンプルなギター・データの作成方法|解説:永井聖一

“ギタリスト”永井によるシンプルなギター・データの作成方法|解説:永井聖一

 サウンド&レコーディング・マガジンをご覧の皆さま、こんにちは。永井聖一です。サンレコさんには何度かお世話になっていますが、このたび、Avid Pro Toolsのページを担当させていただくことになり、大変光栄に思います。

15年前からDAWはPro Tools一筋 トラックはステム/ギター/AUXでのみ色分け

 僕がPro Toolsを導入したのは15年ほど前、恐らくバージョン8でした。依頼されたCM音楽のデモを一人で完成させる必要が急発生し、スタジオとの互換性も考えて慌てて購入した記憶があります……。ここ10年の飛躍的な進化により、互換性がなくても簡単にデータ共有できる環境になりましたが、僕はPro Tools一筋。バンドや提供曲のデモ、依頼されたギター・トラックを手探りしながらPro Toolsで制作する日々です。しかし、そもそも自分のメイン“機材”はギター。ライブでの演奏を生きがいにする僕が、こんな永遠のDAWビギナーでもそこそこ形にできる使い方をチラ見せ……という感じでお付き合いいただければ幸いです。

 以前から自宅のDAWで録ったデータを正式に採用するケースはありましたが、コロナ禍を経たこの5年で、楽曲制作の方法は多様化しました。よりテクスチャーや解像度がハッキリした状態のデータをすべてリモートで完成させることが必要とされ、メンバーやエンジニアと直接コミュニケーションを取りにくい分“説得力のあるデータをDIYで完成させるスキル”も重要になりました。というわけで、ちょうど特急ギター案件が来たので、初回は僕の十八番である“Pro Tools上でのギター・データの制作”から始めます。

 まずPro Toolsを起動。自分でデモを制作するときは24ビット/48kHzで立ち上げますが、今回はトラック数もそこまで多くないので、依頼主から来たステムに合わせて32ビット/96kHzで作業します。オーディオ・インターフェースは長年UNIVERSAL AUDIO Apollo Twin X Duoです。

筆者の作業環境。オーディオ・インターフェースはUNIVERSAL AUDIO Apollo Twin X Duo、モニター・ヘッドホンはSONY MDR-M1ST、MIDIキーボードはNATIVE INSTRUMENTS Komplete Kontrol M32を使用

筆者の作業環境。オーディオ・インターフェースはUNIVERSAL AUDIO Apollo Twin X Duo、モニター・ヘッドホンはSONY MDR-M1ST、MIDIキーボードはNATIVE INSTRUMENTS Komplete Kontrol M32を使用

 ステムをインポート後、クリック・トラックが入っていない場合は自分で作成。書き出し位置は自分の場合、最初の音まで2小節は必ず空けます。あとは、曲調に準じて忘れずにマーカーを打っておきましょう。準備ができたら手始めにオーディオ・トラックを1つ作成します。後々トラックを重ねたくなるかもしれないので“NGI_EG1”と命名。トラック・メイカーが差し替えてほしいギターのサンプルまでくれた場合、その数に応じて複数のオーディオ・トラックを作ります。

 次にトラックの色分けです。色数が多いと目が疲れたり混乱してしまう僕のような人は、ステム/ギター/AUXでのみ色分けすることをお勧めします。ステムはデフォルトの青のまま、ギター・サンプルは緑、これから録るトラックは赤、AUXは黄色にします。

筆者は、トラック・カラーをステム/ギター/AUXで分類。ステムの各トラックはAvid Pro Toolsのデフォルト・カラーでもある青、ギターのサンプルは緑、レコーディング前のトラックは赤、AUXは黄色に設定している

筆者は、トラック・カラーをステム/ギター/AUXで分類。ステムの各トラックはAvid Pro Toolsのデフォルト・カラーでもある青、ギターのサンプルは緑、レコーディング前のトラックは赤、AUXは黄色に設定している

 Pro Tools(DAW)上でどこまで音色を完成させるかは、先方のリクエストや状況によって異なりますが、僕はほぼ決め打ちで録音します。本筋から逸れますが、僕の作業では、基本設定としてApolloの前にマルチエフェクターのNEURAL DSP Quad Cortex(以下QC)を挟んでいます。

左下に組んでいるのは、Apolloの前段に通しているマルチエフェクターのNEURAL DSP Quad Cortex

左下に組んでいるのは、Apolloの前段に通しているマルチエフェクターのNEURAL DSP Quad Cortex

 QCには自分の所有するギター・アンプ(1965年製FENDER Pro Reverb Amp)をキャプチャーしたシミュレーターが入っていて、耳慣れた自分の音に近いので、最近はQCを起点に音作りを始めます。ステレオ・アウトもできるので、オーディオ・トラックもステレオです。大は小を兼ねる理論。

録り音の輪郭の強度はEQ IIIで調整 ハモの追加や別パターンの試行錯誤も直感的

 芯となる音作りが完了したら、ミックス画面でほかのトラックと大体のバランスを合わせて録音します。

マルチエフェクターでの音作りが完了したら、ミックス画面でほかのトラックとのバランスを合わせてNGI_EG1(最右列)に録音する

マルチエフェクターでの音作りが完了したら、ミックス画面でほかのトラックとのバランスを合わせてNGI_EG1(最右列)に録音する

 今回の場合、本来なら一本で完結しそうなカッティングなので、テイクは録り置きせず、集中力があるうちにcommand+Z(アンドゥ、Windowsの場合はCtrl+Z)で納得いくまで録り直します。1カ所録り終えたら、先ほど作ったマーカーに沿って、同じフレーズの場所は優先して録ってしまいましょう。時間がない場合は複製して貼ってもいいと思います。

曲の展開に合わせて打ったマーカー(赤枠)を基準に、最下段のギター用トラック“NGI_EG1”へレコーディングを行う

曲の展開に合わせて打ったマーカー(赤枠)を基準に、最下段のギター用トラック“NGI_EG1”へレコーディングを行う

 作業していく中で、中盤のギターは音色を変えて、サンプルよりもテクスチャーを立体的にしたくなったので、オーディオ・トラック“NGI_EG2”を追加で作りました。ギターのピックアップとコンプの種類を変えて録音してから“NGI_EG1”と音量をそろえます。

中盤のギターで音色を変えるため、オーディオ・トラック“NGI_EG2”(最下段)を作成。ギターのピックアップとコンプの種類を変えて録音し、“NGI_EG1”と音量をそろえた

中盤のギターで音色を変えるため、オーディオ・トラック“NGI_EG2”(最下段)を作成。ギターのピックアップとコンプの種類を変えて録音し、“NGI_EG1”と音量をそろえた

 大体のテイクが完成したら、一度モニターに集中して、やや録り音の輪郭が弱い場合はPro Tools付属のEQ IIIでほかのトラックとなじませます。ギター・トラックの数が多い場合、パンニングで位置を決める作業も同時に行います。

録り音の輪郭が弱く感じるときは、Pro Tools付属のAvid EQ IIIでほかのトラックとなじませる。ギター・トラックが多い場合は、パンニングをしながら位置を決める作業も同時に行っていく

録り音の輪郭が弱く感じるときは、Pro Tools付属のAvid EQ IIIでほかのトラックとなじませる。ギター・トラックが多い場合は、パンニングをしながら位置を決める作業も同時に行っていく

 バランスを調整するうちに“NGI_EG2”に少し広がりが欲しくなってきたので、AUXトラックを登場させます。プラグインのディレイやリバーブはメモリーや配合率がデリケートなので、AUXで走らせるのがお勧めです。UNIVERSAL AUDIO Pure Plate Reverbでアンビエンスを少し足し、AIR Phaserを薄くかけてユニークな立体感を出しました。

“NGI_EG2”に立体感を出すために使ったプラグイン。UNIVERSAL AUDIO UADプラグインのPure Plate Reverb(画面左)で、アンビエンスを付加した後に、AIR Phaser(同右)を薄くかけた

“NGI_EG2”に立体感を出すために使ったプラグイン。UNIVERSAL AUDIO UADプラグインのPure Plate Reverb(画面左)で、アンビエンスを付加した後に、AIR Phaser(同右)を薄くかけた

 欲が出てきたので“NGI_EG1”の後半のフレーズにもハモを。トラックを複製して“NGI_EG1_Hm”とすれば簡単に録音できます。

 実は、最終チェック中に“NGI_EG2”のフレーズをもう1パターン試したくなり、同一トラック内に新規で“NGI_EG2.01”を立ち上げて録音、比較したのですが、結局不採用にしました。このあたりの直感的な作業のしやすさ、時系列の自由な横断は、Pro Toolsのとても頼もしい部分だと思います。

 さて、ギターのアンサンブルが完成したので、バウンスします。今やクリック一つでオフライン・バウンス、しかもパンニングとボリュームも反映できる時代になりました。先方にこちらの意図がハッキリ伝わるように、ラフ・ミックスと同じバランスで送りましょう。

ミックス バウンスの設定画面。先方にこちらの意図がハッキリ伝わるよう、ラフ・ミックスと同じバランスで書き出していく

ミックス バウンスの設定画面。先方にこちらの意図がハッキリ伝わるよう、ラフ・ミックスと同じバランスで書き出していく

 気づけば3時間も経たずに、1曲分のギター・データができました(原稿がなければ1時間)。

 以上、駆け足ですが“ギタリスト永井による、Pro Toolsを使ったとてもシンプルなギター・データの作成方法”でした。この後にフレーズのダメ出しや音色の追加リクエストが届くこと、自主的にリテイクすることも多々ありますが、基本的に要領は同じです。スタジオまで重装備で自走してヘトヘトになっていた時代より、遥かに効率が上がったと言っても過言ではないでしょう。例えば、半日でOKテイクが欲しい(という無茶振りに応えること)なんて15年前は不可能でした。

 次回は“サンプルを探すだけで1週間かかる、作曲家永井によるデモ制作編(仮)”でもお送りしようと思います。

 

永井聖一

【Profile】作曲家/ギタリスト。相対性理論のギタリストとしての活動のほか、さまざまなミュージシャンへの楽曲提供やプロデュース、ライブ・サポートも務める。2023年からTESTSET、QUBITのメンバーとしても活動中。ライブ情報:<TESTSET>7月19日『LIQUIDROOM 20th ANNIVERSARY』@LIQUIDROOM、8月16日『SONICMANIA』@幕張メッセ <QUBIT>7月14日『Join Alive』@いわみざわ公園

【Recent work】

『コンタクト』
QUBIT
(BETTER DAYS / NIPPON COLUMBIA)

 

 

 

Avid Pro Tools

AVID Pro Tools

LINE UP
Pro Tools Intro:無料|Pro Tools Artist:15,290円(年間サブスク版)、30,580円(永続ライセンス版)|Pro Tools Studio:46,090円(年間サブスク版)、92,290円(永続ライセンス版)|Pro Tools Ultimate:92,290円(年間サブスク版)、231,000円(永続ライセンス版)

REQUIREMENTS
Mac
▪macOS Sonoma 14.4.x、最新版のmacOS Monterey 12.7.x または Ventura 13.6.x
▪M3、M2、M1あるいはINTEL Dual Core I5より速いCPU
Windows
▪Windows 10(22H2)、Windows 11(23H2)
▪64ビットのINTEL Coreプロセッサー(I3 2GHzより速いCPUを推奨)
※上記は2024年4月時点

製品情報

Avid Pro Tools

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