Digital Performer活用術|ライブ・マニピュレーションのコツ

テンポ変更から曲間の調整まで ライブ・マニピュレートのTips|解説:匠

 こんにちは、音楽家の匠です。Digital Performer(以下DP)の活用法を紹介してきた連載も、今回が最後となりました。最終回は、ライブ・マニピュレートにおけるDPのTipsです。

テンポが重要なライブではストレッチ・オーディオを活用

 ライブ・マニピュレートについては初回でも紹介しましたが、僕の場合、上からざっくりとバックアップ切り替え用ドローン信号、クリック、リズム、FX、ベース、ギター類、シンセ類、ボーカルといった具合にグループで色分けしてトラックを並べています。

筆者がライブ・マニピュレーションを行うときのDPのデータ。トラックはクリック、リズム、FX、ベース、ギター類……といった具合にグループで色分けして並べています

筆者がライブ・マニピュレーションを行うときのDPのデータ。トラックはクリック、リズム、FX、ベース、ギター類……といった具合にグループで色分けして並べています

 ライブのリハを行う際、まず気になるポイントはテンポです。音源としては最適なテンポでも、ライブ演奏ではちょっと遅い、速いと感じることはよくあります。そこで重宝するのがストレッチ・オーディオ機能。トラック名の右にあるSTCをオンにすることで、テンポ・チェンジにオーディオ・トラックが瞬時に追従する機能です。

オーディオ・トラックのSTCをオンにすれば(赤枠)、ストレッチ・オーディオ機能が有効になり、シーケンスのテンポにシンクさせることができます

オーディオ・トラックのSTCをオンにすれば(赤枠)、ストレッチ・オーディオ機能が有効になり、シーケンスのテンポにシンクさせることができます

 ただし、実行する際に注意点があります。まず、各オーディオの現在のテンポがDPに正確に認識されているかを、“サウンドファイル情報”の“テンポ”で確認します。

サウンドファイル情報で、オーディオ・データの現在のテンポを確認しているところ。“テンポ”(赤枠)に表示されるので、STCを入れる前に、正しいテンポがDPに認識されているかをチェックしておきましょう

サウンドファイル情報で、オーディオ・データの現在のテンポを確認しているところ。“テンポ”(赤枠)に表示されるので、STCを入れる前に、正しいテンポがDPに認識されているかをチェックしておきましょう

 これが正確でなければ、STCを入れた瞬間にトラックのサイズが変わるなどして、えらいことになります。問題がある場合は、頭からマージすることで解消されます。全トラック(ドローン信号は除く)を同じ範囲(曲のエンド・タイムなど)でマージしておくといいでしょう。サウンドバイトが作成され、現在のテンポが正しく表示されます。またすべてを頭からマージすることで、テンポ・チェンジ時のエラーなどにもすぐに気付くことができます。

 準備が整ったら、必ずチャンクで“シーケンスの複製を作成”を実行し、オリジナル・テンポのシーケンスは残しておきましょう。あとは簡単、全トラックのSTCをオンにしてスライダーやコンダクターでテンポを変えれば、瞬時に追従してくれます。もちろん曲の途中でのテンポ・チェンジにも対応します。リハに関してはほぼこれで問題なく対応できるでしょう。

 テンポが決定したら、必要に応じてインスト・トラックの再書き出しなど行いましょう。僕の場合、テンポ・チェンジがありそうな曲はあらかじめ±2BPMのデータを作りますが、全曲はなかなかできません。リハ中にテンポ変更に時間を費やしていると元のテンポ感も忘れてしまうので、ストレッチ・オーディオ機能の瞬足ぶりにはとても助けられています。

 続いて、間奏の4小節ほどを回数を決めずにリピートするケースを紹介します。テンポはキープしたい、リピート間もリズムのループは走っていてほしい、リピート後もDPと同期していたい、という場合ですね。

 まずは、リピートしたい範囲の小節を打ち込んで、メモリーサイクルをかけます。“リピート終わり”のタイミングの合図をボーカリストなどからもらったら、メモリーサイクルを解除して次のセクションへと復帰します。このとき僕がよくやるのは、別トラックでミュートしていたボイス・カウントを、復帰のタイミングでオンにすること。ボイス・カウントはダブル・カウントにすることが多く、最初の“1、2”を聴いたドラマーがフィルをたたいて復帰するようにします。これはマニピュレーターも一緒に演奏していることを実感する場面です。

黄色のサウンドバイトがボイス・カウント。“リピート終わり”の合図でメモリーサイクルとボイス・カウントのミュートを解除します

黄色のサウンドバイトがボイス・カウント。“リピート終わり”の合図でメモリーサイクルとボイス・カウントのミュートを解除します

“曲間なし”のセトリのときのチャンクのまとめ方

 続いては、ライブ時に間髪入れずに次の曲へとすぐに移りたい場合を紹介します。

 各楽曲をチャンクで管理するDPでは、曲間の空きを詰めるために複数のチャンクを1つにまとめる必要があります。ここでも必ずつなぐ曲はすべて“シーケンスの複製を作成”を実行し、オリジナルを残すことを忘れずに。

 例として、153BPMの楽曲Aと128BPMの楽曲Bをつなぐとしましょう。曲のテンポ情報は、スライダーではなく、コンダクターで管理することが前提です。まず、Aのエンド・タイムが187小節だったので、Bのスタートを187小節に移動させます。このとき187小節よりも前のテンポ情報や拍子情報は消しておきます。それからチャンクで再びAを選択して開いた状態で、BのチャンクをドラックしてAのトラックウィンドウ下の余白にドロップ。

楽曲Bのチャンク(赤枠)を、楽曲Aのトラックウィンドウ下(矢印の先)にドラッグ&ドロップ。ドロップする先は、楽曲Aのエンド・タイム(ここでは187小節)です

楽曲Bのチャンク(赤枠)を、楽曲Aのトラックウィンドウ下(矢印の先)にドラッグ&ドロップ。ドロップする先は、楽曲Aのエンド・タイム(ここでは187小節)です

 するとAのトラックウィンドウ下に187小節から始まるBが追加されます。

楽曲A/Bを同じシーケンスに収めたところ。赤枠が楽曲B。Aの余韻があるうちにBの演奏を始める場合においても、Bをテンポ情報ごとスタート位置を前にずらせば、AのテンポのままBを再生してしまうなどのトラブルが防げるのでお勧めです

楽曲A/Bを同じシーケンスに収めたところ。赤枠が楽曲B。Aの余韻があるうちにBの演奏を始める場合においても、Bをテンポ情報ごとスタート位置を前にずらせば、AのテンポのままBを再生してしまうなどのトラブルが防げるのでお勧めです

 これでA/Bは同じシーケンス内に収まるので、あとは曲間を空けたり詰めたりすればOKです。Aの余韻があるうちにBを始めるケースもあると思いますが、その際もBの頭をテンポ情報ごと前に持っていき、そこにAのおしりが入り込んでいるほうがトラブルは少ないでしょう。こうしてベストな曲間を見つけましょう。

 ここまで4回にわたり連載してきました。イメージ着想のMIDIの打ち込みから始まり、完成後のライブでお客さんに伝えるときのサポートに至るまでを、DPはスムーズに、一手に担ってくれます。スピーディであるからこそ、自分の体の一部になり得ます。データとは言え、そこに記録されるものは制作者の息吹であり、意志や魂です。それらをインプットし、最後に適切にアウトプットしてくれるDPは、僕にとって音楽の大事な相方です。みなさんもぜひ、その利便性を感じてみてください。ご清覧ありがとうございました。

 

【Profile】山口県下関市出身。作曲家、マニピュレーター、ギタリスト、ピアニスト。DIR EN GREY、hide with Spread Beaver、YOSHIKIをはじめ多くのアーティストのレコーディングやライブをサポートしているほか、さまざまなシーンへの楽曲提供も行っている。メンバーとして所属するsukekiyoではギターとピアノを担当し、2023年に結成10周年を迎えた。定期的に自身のソロ・コンサートも開催している。

【Recent work】

『The Devil In Me』
DIR EN GREY
(FIREWALL DIV.)

 

 

 

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オープン・プライス

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LINE UP
Digital Performer 11 通常版:88,000円前後|Digital Performer 11 クロスグレード:71,500円前後|Digital Performer 11 アカデミック:71,500円前後|Digital Performer 11 アップグレード:35,200円前後
※オープン・プライス(記載は市場予想価格)

REQUIREMENTS
Mac:macOS 10.13以降
Windows:Windows 10 & 11(64ビット)
共通:INTEL Core i3または同等のマルチプロセッサー(AMD、Apple Siliconを含むマルチコア・プロセッサーを推奨)、1,024×768のディスプレイ解像度(1,280×1,024以上を推奨)、4GB以上のRAM(8GB以上を推奨)

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