sukekiyoのライブにおけるDigital Performerを使ったマニピュレート術|解説:匠

sukekiyoのライブにおけるDigital Performerを使ったマニピュレート術|解説:匠

 こんにちは、音楽家の匠です。作編曲家のほか、マニピュレーター、ギタリスト、ピアノニストとして活動しています。これから4回にわたり、僕の音楽制作やライブにおけるDigital Performer(以下DP)の活用術をお話ししていきます。どうぞよろしくお願いします。

チャンクのプレイリスト機能でライブ当日の全タスクを管理

 僕は所属するsukekiyoのライブでギター、ピアノを演奏しながらステージ上でマニピュレートも行っており、マニピュレートではよりシンプルにDPを使っています。初回はそちらを例に、DPの活用法を解説していきましょう。

 僕がDPを使いはじめたきっかけの1つは、チャンク機能があることです。曲=チャンクごとにテンポ情報などを簡潔に管理できるので、制作だけでなくライブのマニピュレートを行う際にも便利なんです。DP11からはチャンクにフォルダ/プレイリスト機能が実装されていて、これが素晴らしすぎます。ツアーの演奏候補曲をフォルダに入れておき、日程ごとのセット・リストやリハのメニューはプレイリストで管理するようにしています。

チャンクウィンドウ。チャンクは、プロジェクト単位でデータを管理できる機能。筆者はチャンクのプレイリスト機能でセット・リストや会場リハのメニューを管理しています。演奏候補曲はフォルダ分けし、曲名の後ろにテンポを表記&自身がメインで使う楽器により色分け。チャンク・キューを生かし、曲が終われば自動で次曲の頭にいくよう設定しています

チャンクウィンドウ。チャンクは、プロジェクト単位でデータを管理できる機能。筆者はチャンクのプレイリスト機能でセット・リストや会場リハのメニューを管理しています。演奏候補曲はフォルダ分けし、曲名の後ろにテンポを表記&自身がメインで使う楽器により色分け。チャンク・キューを生かし、曲が終われば自動で次曲の頭にいくよう設定しています

 その際、フォルダ/プレイリストのどちらで曲のデータを編集しても反映されるのが大変便利。セット・リストが3パターンあったとして、それぞれ通しリハの後に並べた曲順を変えなくて済みます。リハのたびに並べ替えていたらミスの原因にもなりますからね。それにマニピュレーターって、結構大きい現場でも大体1人じゃないですか……ほかのセクションは何人かいるのに(笑)。ヒューマン・エラーの防止も含め、あらゆることを1人で管理しなければならない中、この機能は助かります。僕の場合、1kHz信号を使ったPAチェックや開演前の回線チェックなども順番にチャンクに入れてあります。つまり、会場入りしてチャンクの上から順番にタスクをこなしていけば、やり忘れはないということになるのです。

実際のトラックウィンドウで解説 出力はV-Rackで一括管理

 続いて、ライブ用の楽曲データのトラックウィンドウを見ていきます。

ある楽曲のトラックウィンドウ。上からオート・スイッチャー用のドローン信号、クリック、FX、ギター……とフォルダと色で分けて配置。一番下は各メンバーが演奏した録音データの2ミックス。安定性を考慮し全トラックをスタート位置からマージしています。さらにオートリワインド(自動巻き戻し)はオン。これにより曲のスタート時にトラブルがあった場合も、止めて頭から再生可能です

ある楽曲のトラックウィンドウ。上からオート・スイッチャー用のドローン信号、クリック、FX、ギター……とフォルダと色で分けて配置。一番下は各メンバーが演奏した録音データの2ミックス。安定性を考慮し全トラックをスタート位置からマージしています。さらにオートリワインド(自動巻き戻し)はオン。これにより曲のスタート時にトラブルがあった場合も、止めて頭から再生可能です

 一番上はメイン・システムがトラブったときにサブシステムにオートで切り替えるためのドローン信号。次にクリックとボイス・カウントを入れてあります。クリックは4分と8分のアップ・ビートの各トラックを用意。変更したいときに瞬時に行き来できますし、曲中に4分と8分が混在する場合も可視化しやすいのがメリットです。ボイス・カウントがたくさん入っているのは、演奏ガイドの意味もありますが、照明やレーザーのスタッフにこの回線を送り、曲頭や場面転換のキッカケとして活用しているためです。

 下部にはミックス時のステム・データに加え、必要なパラデータや2ミックス音源をすべて流し込んでいます(この曲は比較的スッキリしているほう)。メンバーが演奏するトラックは本番では使いませんが、一番下のフォルダに2ミックスと一緒にまとめ、個人リハのときや全体リハに来られないメンバーがいるとき、データのバランスを取るときなど、多くの場面で使用します。リハ中に“あのフレーズ、録音時はどう弾いていたんだろう? どんな音色だった?”となったときにも必要です。

 ここでTips! そんな際に役立つのが、聴きたい場所を選択→option(Windowsではalt)+スペースのショートカット。選択した部分のみが再生されます。

波形の聴きたいところを選択してoption(Windowsではalt)+スペース・キーを押せば、選択したところのみ再生可能。これは筆者がよく使う機能で、範囲選択時にcommand(WindowsではCtrl)を押すとより詳細な範囲指定もできます。パート単体のプレビューはもちろん、複数パートの同時再生もでき、アレンジを確認する際にも便利です

波形の聴きたいところを選択してoption(Windowsではalt)+スペース・キーを押せば、選択したところのみ再生可能。これは筆者がよく使う機能で、範囲選択時にcommand(WindowsではCtrl)を押すとより詳細な範囲指定もできます。パート単体のプレビューはもちろん、複数パートの同時再生もでき、アレンジを確認する際にも便利です

 これは複数のトラックの関係性を確認するときにも便利です。ソロ再生だと、ひとしきり打ち合わせで確認したあと、リハ再開時にソロのままになっていた、なんてことになりかねません。

 メンバーの演奏トラックは、本番時のCPU負荷を減らすため、最終リハの時点で非アクティブにします。このとき間違えてライブで使うトラックまで非アクティブにしないためにも、一番下のフォルダにまとめているのです。生ドラム以外のループ系のリズム・トラックなどは、ドラマーとよく相談して出すものを決めます。ギターは、ライブ機材での再現が難しいものは録音時のエフェクト成分だけを流し、ライブで実際に弾く音と混ぜます。コーラス・トラックは事前にレベル調整をしますが、どうしても生歌との調和になるので、アウトの回線を分けPAエンジニア任せにしています。

 そして会場でソトオトを確認し、PAエンジニアと相談のうえ細かいレベルとパンニングを決定します。シーケンスはなるべくライブ中にPAエンジニアがフェーダーを触らずに済むよう心がけます。また、どの曲も全出力をV-Rackに設定した各バスに送り、一括して出力をオーディオI/Oにアサインします。

各曲の出力をすべてV-Rackに作ったいずれかのバスに送り、一括でオーディオI/Oのアウトに設定。これにより急なオーディオI/Oの変更にも即座に対応可能になります。筆者の場合は各センドにヘッドホン出力をアサインして、最小限の機材でセルフ・チェックできるようにしています

各曲の出力をすべてV-Rackに作ったいずれかのバスに送り、一括でオーディオI/Oのアウトに設定。これにより急なオーディオI/Oの変更にも即座に対応可能になります。筆者の場合は各センドにヘッドホン出力をアサインして、最小限の機材でセルフ・チェックできるようにしています

 ライブが終わってラインやエアーの録音を確認したら、シーケンスのバランスが気になった曲は2ミックスをDPに取り込んでチェック。バランスを微調整した後、また次の会場リハで確認。ツアーや連日のライブではこの繰り返しです。それでも気になることはスマホのメモでもいいですが、絶対に目に入るようにプロジェクトノートに記しておくのも手。時間は限られるので、DPに情報を入れ込んで、頼れることはなるべく頼りましょう。

サイドバー上にメモ画面を表示させ、自由にテキストを書き込むことができるプロジェクトノート機能。気になったことがあれば、どんどんテキストで残しておきましょう!

サイドバー上にメモ画面を表示させ、自由にテキストを書き込むことができるプロジェクトノート機能。気になったことがあれば、どんどんテキストで残しておきましょう!

 今回はライブのマニピュレートを中心に、システマチックな内容を紹介しました。ご清覧ありがとうございました。ではまた次回。

 

【Profile】山口県下関市出身。作曲家、マニピュレーター、ギタリスト、ピアニスト。DIR EN GREY、hide with Spread Beaver、YOSHIKIをはじめ多くのアーティストのレコーディングやライブをサポートしているほか、さまざまなシーンへの楽曲提供も行っている。メンバーとして所属するsukekiyoではギターとピアノを担当し、2023年に結成10周年を迎えた。定期的に自身のソロ・コンサートも開催している。

【Recent work】

『EROSIO』
sukekiyo
(FWD)

 

 

 

MOTU Digital Performer

オープン・プライス

f:id:rittor_snrec:20211027135559j:plain

LINE UP
Digital Performer 11(通常版):オープン・プライス(市場予想価格:88,000円前後)

REQUIREMENTS
Mac:macOS 10.13以降
Windows:Windows 10 & 11(64ビット)
共通:INTEL Core i3または同等のマルチプロセッサー(AMD、Apple Siliconを含むマルチコア・プロセッサーを推奨)、1,024×768のディスプレイ解像度(1,280×1,024以上を推奨)、4GB以上のRAM(8GB以上を推奨)

製品情報

関連記事