Digital Performerを使ったストリングス・アレンジの作業効率を高めるTips 〜佐々木望(Soulife)が語る音楽制作

歌モノのストリングス・アレンジの作業効率を高めるTips|解説:佐々木望(Soulife)

 こんにちは。作編曲家、ギタリストの佐々木望です。歌モノ中心に楽曲制作をしたり、ギタリストとしていろんなアーティストの方のバックでギターを弾かせていただいたりしています。今月から2回に分けて、MOTU Digital Performer(以下DP)を使ったストリングス&ホーン・アレンジのTipsを紹介します。

ストリングスのアレンジはなるべくシンプルな音源でスタート

 僕が歌モノの楽曲でのストリングスやホーン&ブラスをアレンジする際の流れをお話しします。大前提として、クラシックとは違い、歌モノは“楽器は歌を引き立てるもの”というのが非常に大事です。ロックやポップスの歌モノの場合、弦、管以外にドラムやベース、ギター、キーボードやシンセが入ることが多いですが、その際は少なくともドラム、ベース、キーボードを入れた状態で弦や管のアレンジを行うのがいいと思います。なお、歌のシンセ・メロか仮歌は必ず入れましょう。楽器数が増えるほど(特に音階のある)楽器の鳴らし方が非常にセンシティブになるので、常に曲全体を見渡せるようにしておきます。

 そんなときに便利なのが、DPのトラックフォルダ。例えば弦管楽器系を1つのフォルダにまとめつつ、ほかの楽器もある程度フォルダ分けしておけば、フォルダ単位でのソロ&ミュートが非常にスムーズです。少し音楽的に不協だと感じた際、楽器別でフォルダごとに鳴らせるなど、確認も容易になります。

ストリングスやブラスの打ち込みやアレンジをする際、DPのトラックフォルダ機能が便利。ストリングスの各楽器を同じフォルダに収めておくことで、ストリングス・パートを一括でソロやミュートにすることができる。また、そのほかの楽器も適宜フォルダ分けしておけば、アレンジ中のプレビューもスムーズに行える。画面の赤枠がストリングスのフォルダ。その上のフォルダには、ピアノ、ドラム、ベースなどをまとめている

ストリングスやブラスの打ち込みやアレンジをする際、DPのトラックフォルダ機能が便利。ストリングスの各楽器を同じフォルダに収めておくことで、ストリングス・パートを一括でソロやミュートにすることができる。また、そのほかの楽器も適宜フォルダ分けしておけば、アレンジ中のプレビューもスムーズに行える。画面の赤枠がストリングスのフォルダ。その上のフォルダには、ピアノ、ドラム、ベースなどをまとめている

 ちなみに、弦、管のどちらも入る場合、個人的には弦から取り掛かることが多いです(もちろん絶対ではありません)。というわけで、まずは弦について、楽器の特徴と楽器構成を少しだけ紹介します。

 バイオリンのような大人数で鳴らす弦楽器は、アンサンブルの中において、基本的にそれぞれ単音で発音させると考えていいと思います。音域は広く、12連符や16連符のような速い奏法も得意です。また、これは弦楽器最大の特徴だと思いますが、音を伸ばしたままクレッシェンドやデクレッシェンドができます。管楽器も似たようなことは可能なものの、最小値から最大値までのデクレッシェンドは弦楽器特有でしょう。

 構成の基本は、1stバイオリン(1st vin)、2ndバイオリン(2nd vln)、ビオラ(vla)、チェロ(vc)の4弦。1st vlnと2nd vlnが4人ずつ、vlaとvcが2人ずつの人数構成がよく採用されますが、いろんなパターンがあります。基本的には高域の楽器の人数が多いです。

 アレンジは、美しく、音楽的にハーモニーが鳴ることが大事です(余談ですが、アレンジャー同士の会話の際、音楽的に鳴ることを“サウンドする”と表現することがあります)。

 DPでの作業では、アレンジを模索する段階ではまずハーモニーを作りたいので、このタイミングでは僕は本格的かつリッチな音源は使いません。本格的な音源はアタックが少し遅かったり、あらかじめビブラートがかかっていたりして、ラインが見えづらいケースがあるためです。なのでアレンジで一番重要なライン決めでは、シンプルな音源を選ぶといいでしょう。僕が普段最初に立ち上げる音源はREASON STUDIOS Reason付属サンプラーNN-XTのStrings Allというパッチです。

アレンジの初期段階では効率的にメロディ・ラインを作りたいので、なるべく癖がないシンプルな音源を使う。画面は筆者がラインを決める際に使っているREASON STUDIOS Reason付属のサンプラーNN-XT

アレンジの初期段階では効率的にメロディ・ラインを作りたいので、なるべく癖がないシンプルな音源を使う。画面は筆者がラインを決める際に使っているREASON STUDIOS Reason付属のサンプラーNN-XT

MIDI CCの設定はラインと音色を決めてから

 ラインを決める際は、弦だけを聴きながらアレンジすることに加え、ときどきメイン・ボーカルと合わせて聴いたり、全体のアレンジと混ぜて聴いたりすることも大事です。シンセ・メロも打ち込んであれば、不協だと感じたときにMIDI画面で視覚的に確認できます。

赤のMIDIノートがストリングスの各楽器のもので、青のMIDIノートがシンセで打ち込んだ歌メロのもの。歌メロをシンセなどで打ち込んでおけば、歌と楽器のメロディの関係が画面のように視覚的に確認できる

赤のMIDIノートがストリングスの各楽器のもので、青のMIDIノートがシンセで打ち込んだ歌メロのもの。歌メロをシンセなどで打ち込んでおけば、歌と楽器のメロディの関係が画面のように視覚的に確認できる

 さらに、弦もパートごとに色分けすると、より視認性が高まります。弦アレンジのちょっとしたポイントとして、まず4声だけで聴いたときに奇麗に鳴っているかは重要です。せっかく4声もあるので、なるべく音楽的に鳴るように配置してみてください。上下のレンジを離したり近づけたりすると、緊張と緩和を演出できます。また、時にはユニゾンで鳴らすとグッと締まってきます。慣れてくると、その辺りの演出もできるようになると思います。

 そうしてラインが決まったら、本格的な音源に差し替えます。差し替えたら強弱を付けましょう。ベロシティに加え、エクスプレッションやモジュレーション、ボリュームも非常に重要です。音を伸ばしたままのクレッシェンドやデクレッシェンドはモジュレーション、強弱のニュアンスはエクスプレッションで表現します。

フォルテ(=強く)やピアノ(=弱く)といった強弱のニュアンスを表現する際は、エクスプレッションを入力する(画面下のピンク色のところ)。エクスプレッションやモジュレーションなどのMIDI情報を書き込むとき、筆者はフィジカル・コントローラーで入力し、マウスを使って微調整を行うことが多い

フォルテ(=強く)やピアノ(=弱く)といった強弱のニュアンスを表現する際は、エクスプレッションを入力する(画面下のピンク色のところ)。エクスプレッションやモジュレーションなどのMIDI情報を書き込むとき、筆者はフィジカル・コントローラーで入力し、マウスを使って微調整を行うことが多い

 ボリュームだけだと弦を弾く強弱まで表現できないことが多いですが、MIDI情報を書き込むとグッと生っぽくなります。歌モノの場合サビにピークがあることがほとんどなので、A、Bメロは少し数値を抑えめにするといいでしょう。僕がMIDI情報を書き込む際はフィジカル・コントローラーで入力することが多いですが、微調整はマウスでも行います。

 ちなみに、入力するMIDI情報が増えてくると画面上の情報も増えて視認しづらくなりますが、表示フィルターを使えば、表示したいデータだけ選べるのが便利です。

打ち込み時、上の画面のようにMIDIコントロール・チェンジの表示項目が多くなり視認性が悪いときは、“表示フィルター”(右画面赤枠)で設定を行おう。表示フィルターでは、任意の項目のみを表示させたり、表示させたくない項目を消したりすることができる。上の画面からモジュレーションとエクスプレッションのMIDI情報を消したのが右の画面。必要な情報のみを表示できるので作業効率が高まる

打ち込み時、上の画面のようにMIDIコントロール・チェンジの表示項目が多くなり視認性が悪いときは、“表示フィルター”(右画面赤枠)で設定を行おう。表示フィルターでは、任意の項目のみを表示させたり、表示させたくない項目を消したりすることができる。上の画面からモジュレーションとエクスプレッションのMIDI情報を消したのが右の画面。必要な情報のみを表示できるので作業効率が高まる

 今回は以上です。次回は管楽器のアレンジと、DPのアーティキュレーションマップについてお話しできればと思います。

 

佐々木望(Soulife)

【Profile】 作編曲家/ギタリスト。音楽ユニットSoulifeで2006年アーティスト・デビュー。2011年に遊助の「一笑懸命」にて作編曲家としてのキャリアをスタートして以降、数々のアーティストへの楽曲提供を行う。また、ギタリストとしても多数の楽曲やライブに参加。これまでの代表曲はKing & Prince「シンデレラガール」、欅坂46「二人セゾン」、CMジングルとして「ソニー損保」など。

【Recent work】

『Kimito』
Lienel
(SDR)

 

 

 

MOTU Digital Performer

オープン・プライス

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LINE UP
Digital Performer 11 通常版:88,000円前後|Digital Performer 11 クロスグレード:71,500円前後|Digital Performer 11 アカデミック:71,500円前後|Digital Performer 11 アップグレード:35,200円前後
※オープン・プライス(記載は市場予想価格)

REQUIREMENTS
Mac:macOS 10.13以降
Windows:Windows 10 & 11(64ビット)
共通:INTEL Core i3または同等のマルチプロセッサー(AMD、Apple Siliconを含むマルチコア・プロセッサーを推奨)、1,024×768のディスプレイ解像度(1,280×1,024以上を推奨)、4GB以上のRAM(8GB以上を推奨)

製品情報

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