Digital Performerサンプル活用術 〜ストレッチオーディオ&クオンタイズ・ガイド(解説:佐々木望)

ワンショットから和音ループまでサンプルを活用した楽曲制作|解説:佐々木望(Soulife)

 こんにちは。作編曲家/ギタリストの佐々木望です。僕は今、あるアーティストのツアーにサポート・ギタリストとして同行することになり、リハの日々で忙しくさせていただいております。仕上がりは上々で本番が待ち遠しいです。さて、今回はDigital Performer(以下DP)でのサンプルの活用法を紹介します。

テンポ合わせからクオンタイズまでストレッチオーディオをフル活用

 SpliceやLoopcloudなどのサブスクリプション・サービスのおかげもあり、サンプルを使った楽曲制作が以前に比べて容易になった昨今。DPにも、サンプルを楽曲に取り込むためのさまざまなツールが用意されています。一口にサンプルといってもいろいろな種類がある中で、まずはリズムのワンショット系サンプルの活用法から紹介いたします。

 ドラム(特にキック、スネア、ハイハット)の音色選びは、どんなジャンルにおいても非常に重要な作業です。僕の場合、まず暫定の音色のサンプルを選んでDP付属のサンプラーModel 12などを立ち上げ、MIDIでリズム・パターンを打ち込み、終わったら音色選びに入ります。パターンをループ再生しながらModel 12に別のサンプルをドラッグ&ドロップすると音色が変更されるので、パターンに合いそうなサンプルを順番にドラッグ&ドロップしていきセレクトします。“これだ”という音が見つかるまで時間がかかりますが、この作業は大事なのでじっくり選びます。

 キック、スネア、ハイハットの3点が決まったら、そのパターンに16分音符や8分音符で刻むパーカッションやハイハットのループを重ねることが多いです。もちろん楽曲次第ですが、サビの派手さを高めたいときや、楽曲のノリを強めたいときに有効です。その際、SpliceやLoopcloudなどは、専用のサンプル検索プラグインを立ち上げればDPと仮想でつなぐことができ、曲のBPMに追従させながらループを探せるので非常に便利です。

筆者が活用しているサンプル音源がダウンロードできるサブスクリプション・サービスSplice。Splice内からダウンロードできるアプリSplice Bridge(赤枠)を使えば、DPをはじめさまざまなDAWとSpliceを連携させることができ、キーやテンポを変更してサンプルの鳴り方を確認できるのが便利。なお、Loopcloudには、Loopcloud SoundsというDAWとの連携プラグインがある

筆者が活用しているサンプル音源がダウンロードできるサブスクリプション・サービスSplice。Splice内からダウンロードできるアプリSplice Bridge(赤枠)を使えば、DPをはじめさまざまなDAWとSpliceを連携させることができ、キーやテンポを変更してサンプルの鳴り方を確認できるのが便利。なお、Loopcloudには、Loopcloud SoundsというDAWとの連携プラグインがある

 曲に合いそうなループが見つかったらDPに読み込むのですが、読み込んだだけでは曲とループのBPMが合っていません。ここで便利なのが、DPのストレッチオーディオ機能です。

オーディオトラックの“ストレッチ”を有効にしておくと、BPM情報が書き込まれたサンプルであれば楽曲のBPMに自動的に追従させることができる。筆者は制作時、すべてのオーディオ・トラックのストレッチを有効にして作業している

オーディオトラックの“ストレッチ”を有効にしておくと、BPM情報が書き込まれたサンプルであれば楽曲のBPMに自動的に追従させることができる。筆者は制作時、すべてのオーディオ・トラックのストレッチを有効にして作業している

 各オーディオのストレッチ・モードを有効にすると、テンポ情報が書き込まれているループであれば曲のBPMに追従します。まれにテンポ情報が書き込まれていない素材もありますが、その際はオーディオ・メニューからサウンドバイトテンポを設定することで、そのサンプルにBPM情報を書き込めます。

 ストレッチオーディオの良い点は、曲のBPMを変更したくなった場合、ストレッチ・モードを有効にしておくことですべてのオーディオのBPMが一括でマスターのBPMに追従するところ。僕の場合、制作の初期段階ではすべてのオーディオのストレッチ・モードを有効にしておき、何度かBPMを変更しながら聴き比べをすることが多いです。

 BPMが合ったらグルーヴの調整です。テンポが合っても、曲とループのスウィング(ハネ感)の具合がマッチしないこともあると思います。その際は、ループにクオンタイズをかけましょう。僕はクオンタイズのスウィング値を何パターンか試してノリが合いそうなところを探り、最終的には聴いて判断しています。

ループと曲のBPMをそろえた後は、クオンタイズ設定画面でスウィング値を調整しながら“ハネ具合”も合わせていく

ループと曲のBPMをそろえた後は、クオンタイズ設定画面でスウィング値を調整しながら“ハネ具合”も合わせていく

ピアノなどの和音のループはMIDIに変更して編集

 次に、音程のある楽器などのサンプルを曲に取り入れる方法です。音程があるサンプルはキーの問題もあり、リズム系に比べて使いにくさを感じている人も多いと思います。しかし、自分からは出てこないアイディアや、打ち込みでは出せないフィーリングが欲しいケースもあるので、僕は積極的に使用しています。

 まずは比較的取り入れやすい、モノフォニック系のサンプルの活用法です。僕がよく使うのは、リード・シンセやホーン&ブラス系、ストリングスなどの4~8小節くらいのフレーズのループが多いです。しかし、お気に入りのループが見つかっても、大抵はキーもBPMも曲に合ってはいません。BPMの合わせ方は先ほど説明した通りですが、DPはキーも簡単に変更できます。例えば曲のキーがDmで、使いたいループのキーがEmの場合。そのときはトラックの“Transpose”に−2と入力するだけでキーが合います。

オーディオ素材のキーを曲のキーと合わせる際は、移調させたいトラックの“Transpose”を選択し(赤枠)、その横に数字を入力すれば即座に変更できる

オーディオ素材のキーを曲のキーと合わせる際は、移調させたいトラックの“Transpose”を選択し(赤枠)、その横に数字を入力すれば即座に変更できる

 また、1カ所だけノートを変えたくなることもあると思います。その際はピッチを表示して変えたいノートだけ変えることもできますが、MIDIのノート変更とは違い、ストレッチ幅が大きいと音が濁ってしまうケースもあるので、それはサンプル次第でしょう。

 ポリフォニック系のサンプル(ピアノのコードなど)の際は、BPMとキーの合わせ方はモノフォニック系と同じですが、少しだけコードを変えたい場合はかなり大変です。そんなときは、エディット・メニュー内の“Copy Audio to MIDI”で、サンプルをMIDIデータに変換しましょう。

エディット・メニューから“Copy Audio to MIDI”機能にアクセスすることで、オーディオ・データをMIDIに変換することが可能。画面は、上のオーディオをMIDIに変換したところ。コードのループをMIDIに変換すれば、コードの一部を編集したり音色を差し替えたりする際に便利

エディット・メニューから“Copy Audio to MIDI”機能にアクセスすることで、オーディオ・データをMIDIに変換することが可能。画面は、上のオーディオをMIDIに変換したところ。コードのループをMIDIに変換すれば、コードの一部を編集したり音色を差し替えたりする際に便利

 サンプル自体をそのまま使えるわけではありませんが、MIDIデータに変換することで、音色もコードも自由に変更できるようになります。サンプルのオイシイところだけ抜き出して曲に取り入れる際に有効です。

 というわけで、今回は以上になります。来月もよろしくお願いいたします!

 

佐々木望(Soulife)

【Profile】作編曲家/ギタリスト。音楽ユニットSoulifeで2006年アーティスト・デビュー。2011年に遊助の「一笑懸命」にて作編曲家としてのキャリアをスタートして以降、数々のアーティストへの楽曲提供を行う。また、ギタリストとしても多数の楽曲やライブに参加。これまでの代表曲はKing & Prince「シンデレラガール」、欅坂46「二人セゾン」、CMジングルとして「ソニー損保」など。

【Recent work】

『PLANET』
Little Glee Monster
(ソニー)

 

 

 

MOTU Digital Performer

オープン・プライス

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Digital Performer 11 通常版:88,000円前後|Digital Performer 11 クロスグレード:71,500円前後|Digital Performer 11 アカデミック:71,500円前後|Digital Performer 11 アップグレード:35,200円前後
※オープン・プライス(記載は市場予想価格)

REQUIREMENTS
Mac:macOS 10.13以降
Windows:Windows 10 & 11(64ビット)
共通:INTEL Core i3または同等のマルチプロセッサー(AMD、Apple Siliconを含むマルチコア・プロセッサーを推奨)、1,024×768のディスプレイ解像度(1,280×1,024以上を推奨)、4GB以上のRAM(8GB以上を推奨)

製品情報

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