MOTU Digital Performerによる効率的なフォルダ管理やオートメーション活用法|解説:中沢伴行

フォルダ管理から音量調整までミックスで使える便利機能|解説:中沢伴行

 こんにちは! アニメやゲームの楽曲を中心に制作をしている中沢伴行です。MOTU Digital Performer(以下、DP)の活用術を紹介している本連載、第3回はミックスがテーマです。ミックスはエンジニアにお願いすることも、自分で行うこともあります。ここでは自分でミックスする際のTipsをお伝えします。

フォルダ分けやグループ化でミックスに集中するための下準備

 今回は、TVアニメ『凪のあすから』の後期オープニング・テーマ「ebb and flow」を例にしていきましょう。

『ebb and flow』Ray(NBCユニバーサル)TVアニメ『凪のあすから』後期オープニング・テーマ作詞:川田まみ 作曲:中沢伴行編曲:中沢伴行、尾崎武士

『ebb and flow』
Ray
(NBCユニバーサル)
TVアニメ『凪のあすから』
後期オープニング・テーマ
作詞:川田まみ 作曲:中沢伴行
編曲:中沢伴行、尾崎武士

 まずは準備です。自分の場合、キック&ベース、リズム、FX、シンセ、ギター、ストリングスなどをバスでまとめるためにそれぞれAUXトラックを作り、エフェクトSEND用のAUXトラックも用意してしまいます。

「ebb and flow」のプロジェクト画面。歌はオケと別プロジェクトにしており、画面はオケのプロジェクトです。ミックスの作業をスタートさせる前に、各パートをバスでまとめ、SEND用のAUXトラックも作ってしまいます。さらに、分けたパートはフォルダにまとめ、色も付けて分かりやすくレイアウトしていきます

「ebb and flow」のプロジェクト画面。歌はオケと別プロジェクトにしており、画面はオケのプロジェクトです。ミックスの作業をスタートさせる前に、各パートをバスでまとめ、SEND用のAUXトラックも作ってしまいます。さらに、分けたパートはフォルダにまとめ、色も付けて分かりやすくレイアウトしていきます

 さらに各パートのトラックは、右クリックから“選択されたトラックで新規トラックフォルダを作成”でまとめ、さらに色分けして、見やすいレイアウトにしていきます。このトラックフォルダ機能は、▼をクリックするとフォルダを閉じたり開いたりできるので重宝しており、使わなかったパートやストックのパートもフォルダにまとめておいて、必要な場合は引っ張り出せるようにしています。

 次に、自分はギターのバッキングなど、同じフレーズを2trにして扱うケースが多いのですが、そういったトラックをグループ化します。

同じ素材のトラックを複数扱う場合や、複数のトラックのフェーダーを一括で制御したい場合はグループ化します。画面は同じフレーズのギターを2tr用意して、グループ化したところ。これによりパンなどで音の広がりを演出すことができます

同じ素材のトラックを複数扱う場合や、複数のトラックのフェーダーを一括で制御したい場合はグループ化します。画面は同じフレーズのギターを2tr用意して、グループ化したところ。これによりパンなどで音の広がりを演出すことができます

 これにより複数のトラックを一括で制御できるようになります。やり方としては、グループ化したいトラックを選択し、“新規トラックグループ”でまとめます。

新規トラックグループの設定画面。黄枠の表示枠で“カスタム”を選択することで、グループで一括してコントロールしたい項目をカスタマイズすることができます。筆者はボリュームフェーダーのリンクをグループ化するのが主な目的なので“ボリュームフェーダー”を選択することが多いです

新規トラックグループの設定画面。黄枠の表示枠で“カスタム”を選択することで、グループで一括してコントロールしたい項目をカスタマイズすることができます。筆者はボリュームフェーダーのリンクをグループ化するのが主な目的なので“ボリュームフェーダー”を選択することが多いです

 デフォルトのショート・カットは“⌘(WindowsはCtrl)+shift+G”です。ケース・バイ・ケースですが、自分の場合はフェーダーをリンクさせることがグループ化の目的になることが多いので、新規トラック・グループ設定画面の“カスタム”から“ボリュームフェーダー”を選択してグループ化します。

 また、トラック整理の工程でソフト・シンセなどのMIDIトラックをオーディオ化していくのですが、このときによく使うのが、同じトラックに別のテイクを録音できるテイク機能です。本来はレコーディング時におけるテイク管理のための機能だと思いますが、ちょっと違った使い方をしています。筆者はミックス時、よく“エフェクトをどうするか?”で悩むのですが、コンピューターのメモリ容量を節約するため、エフェクトをかけたMIDIデータをオーディオ化すると、エフェクトをかける前の状態に戻すことができなくなります。そんなとき、テイク1にエフェクトを外した素材、テイク2にエフェクトをかけた素材を入れておけば、エフェクトをかけ直すことが容易になります。ハードウェア音源でサウンドを作った場合も同様に2つのテイクを用意しています。それによりエンジニアにミックスをお願いする際もドライ/ウェットのどちらも対応でき、相談しながら作業することができます。

軽くて便利なプラグインの中でとりわけ重宝しているTrim

 ここからは、ミックスの工程で行う、ボーカルのオートメーションに関するトピックをピックアップしていきます。以前、師匠であるI’veの高瀬一矢さんがボーカル・トラックにとても細かくオートメーションを書いているのを見てその理由が分からなかったのですが、自分でも歌モノのミックスをするようになって分かるようになりました。ボリュームやエフェクトをオートメーションでコントロールすることで、より聴きやすくしたり、各楽器の表情を演出したりできます。方法としては、ボリュームなど各トラックに書くオートメーションは鉛筆ツールで手書きし、リバーブなどのエフェクトはAUXトラックに書いていきます。なお、「ebb and flow」はエモーショナル感を演出するため、ところどころボーカルのリバーブ量をオートメーションで変化させています。

 最後に、ミックスでよく使うプラグインも紹介します。DP付属のプラグインはどれも非常に軽く、たくさんのトラックに挿してもストレスを感じません。特にParaEQ、Auto Pan、Phaser、Delay、リバーブのEVerbなどに加え、ゲインやパンの調整ができるTrimをよく使います。

DP付属のTrimは、L/Rそれぞれ独立してパン、レベル、位相の調整ができるプラグイン。筆者はミックスの最終段階でTrimの“ゲイン”に数値を直接入力してレベルの微調整を行っています

DP付属のTrimは、L/Rそれぞれ独立してパン、レベル、位相の調整ができるプラグイン。筆者はミックスの最終段階でTrimの“ゲイン”に数値を直接入力してレベルの微調整を行っています

 ミックスの最終段階になってくると、0.2〜0.7dB前後の細かなボリュームを調整したくなることがあります。このときフェーダーを何度も動かしているとだんだん基準が分からなくなってきてしまうので、基準の音量はフェーダーで決めてしまい、微調整はTrimのゲインに数値を入力して行うことが多いです。Trimをバイパスすれば瞬時に基準の音量に戻って聴き比べできるので、重宝しています。

 このように、オートメーションを書いたりプラグインを使ったりしながらサウンドをまとめていき、出来上がったらバウンスするか、外部のサミング・ミキサーやアウトボードを通して2ミックスを作るわけです。

 今回、半分くらいはミックスの準備のことを述べましたが、準備は非常に大切です。トラックを整理して見やすいレイアウトを作っておくと、サウンドに集中できるのです。DPのUIは硬派な感じなので初心者の方には難しく感じるかもしれませんが、シンプルかつ非常に整理されているので、ミックスでも大変使いやすいと感じています。それでは、また次回!!

 

中沢伴行

【Profile】アニメ、ゲームの楽曲を中心に活動するクリエイター。過去に高瀬一矢氏率いるI’veに在籍し、川田まみのプロデュースも担当した。現在はフリーランスとして活動中。『とある魔術の禁書目録』『灼眼のシャナ』『Re:ゼロから始める異世界生活』『ひぐらしのなく頃に』『ヨルムンガンド』『凪のあすから』など、多くのアニメ作品のテーマ曲を担当。アニソン・アーティスト、声優、VTuberなどの楽曲制作も行っている。

【Recent work】

『SNIPER』
Sifar
(Appearance)
作詞:川田まみ 作曲:中沢伴行 編曲:中沢伴行、尾崎武士

 

 

 

MOTU Digital Performer

オープン・プライス

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LINE UP
Digital Performer 11(通常版):オープン・プライス(市場予想価格:79,200円前後)

REQUIREMENTS
Mac:macOS 10.13以降
Windows:Windows 10 & 11(64ビット)
共通:INTEL Core i3または同等のマルチプロセッサー(AMD、Apple Siliconを含むマルチコア・プロセッサーを推奨)、1,024×768のディスプレイ解像度(1,280×1,024以上を推奨)、4GB以上のRAM(8GB以上を推奨)

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