こんにちは! アニメやゲームの楽曲などを中心にクリエイター活動をしている中沢伴行といいます。これから4回にわたって長年愛用しているDAWソフト、Digital Performer(以下DP)を、普段の制作でどのように利用しているのかをご紹介していきます。
DP歴25年!基本操作が変わらないのも魅力の一つ
まずは自分とDPとの出会いについて。自分が音楽制作に至る経緯は少し特殊で、学生時代にMSXというコンピューターでゲームが作りたくて、その延長で曲も作ろうと思い立ちました。そんないきさつのため楽器を演奏できるわけでもなく、MSXのBasicやMMLを使い、プログラミングするように音楽を作りはじめたのです。それから時を経た1990年代の終わりに、高瀬一矢さんが代表として率いる音楽クリエイター・チーム“I’ve”に参加してキャリアがスタート。高瀬さんが使っていたDAWがDPなのでした。自分は現在I’veから独立して活動していますが、DPの使い方の多くは師匠である高瀬さんから伝授いただいたテクニックです(高瀬さん、本当にありがとうございますっ!)。かれこれ25年ほどお世話になっているDAWでございます。
さて、そんな自分が普段DPをどのように使っているのか、過去の楽曲プロジェクトを例に見ていきます。今回の楽曲は、原作が20周年を迎えた『とある魔術の禁書目録』のアニメOPテーマ「PSI-missing」です。
こちらを参照しながら、DPの大きな魅力であるMIDIエディット機能の一部を紹介しましょう。「PSI-missing」は2008年の楽曲ですが、当時のプロジェクトを現バージョンでも難なく扱えるのがDPの強み。長年、基本的な操作が変更されていないためです。
打ち込みで重宝するステップレコード機能 鉛筆ツール“パラボラ”でMIDI CCを書く
最初はイントロのリード・シンセの打ち込み方法を取り上げます。自分はイントロから楽曲のイメージを作っていくことが多いです。「PSI-missing」は『とある魔術の禁書目録』の第1期、第1弾のOPということで、リード・シンセでインパクトを演出しようと、当時使用していたACCESS Indigo 2のノコギリ波の音色をメインにしました。そこに作品の世界から感じる怪しさや、何かが起こりそうな不穏なイメージも盛り込もうと、ROLAND TB-303系のレゾナンスが効いた怪しい音色を薄くレイヤーして雰囲気を作っています。
このリード・シンセのフレーズは、DPのステップレコード機能を使って打ち込みました。基本的には8分音符や16分音符に設定して、後からべロシティやデュレーションなどを整えていきます。このフレーズでは使っていませんが、コンピューターのキーボードのEnterキーを押せば休符も打ち込める、便利な仕様になっています。楽器があまり得意ではない自分にとって大変助かる機能で、当時から今に至るまで重宝しています。その後、リージョントランスポーズ機能で、オクターブを上げ下げして調整します。
またリードの音色の中には、うねりを出すためにフレーズの中で微妙にフィルター・カットオフを変化させているものもあります。
MIDIコントローラーでノブを回したニュアンスを忠実に再現すべく、リアルタイムで何度かレコーディングしてイメージにピッタリきたものをそのまま採用していますが、画面上で直接CCを書いていくことも多いです。描写する際の鉛筆ツールでは“パラボラ”をよく使います。
ベロシティやデュレーションは数値入力での設定が便利
次は、サビのシンセ・バッキングのエディット方法について。シンプルな裏打ちに16分音符を追加して、スピード感が出るイメージに仕上げました。
まずはMIDIキーボードの手打ちで簡単な裏打ちパターンを入力します。入力した裏打ちのMIDIノートを選択してクオンタイズした後、“ベロシティを変更”を呼び出し。ここではベロシティの変更方法をいろいろと選べます。今回は“設定...”から、“全てのベロシティを□に設定”を選択。空欄にはベロシティの値を入力できるようになっており、120に設定しています。
続いて、裏打ちの前に小さく16分音符を入れたい、と考えました。ここでは手弾きせず、MIDIエディット機能を使っています。command(WindowsではCtrl)+Aで全体を選択して、MIDIノート上でoption(WindowsではAlt)キーを押しながら横にずらすと一気にコピーされます。このとき、画面の右上にある“グリッドに吸着”をオンにして16分音符ぶん前にずらします。
そして、追加した16分音符はベロシティを小さくしたいので、先ほどの“ベロシティの変更”を用いるか、または画面の下段部分、ベロシティ表示から直接操作する場合も多いです。
さらにデュレーションも整えていきます。DPには、このデュレーションを数値で入力できる機能があり、制作の要となる欠かせない機能です。
まず目当てのMIDIノートを選択したら、ショートカット(command+テンキーのマイナス・キー“−”としてカスタム)でウィンドウを呼び出し、“設定...”を選びます。なお、MIDI分解能はデフォルトの、“4分音符につき480tick”にしていますが、最大値はおよそ10,000(9999.9999)tickとのことです。それから出音を聴きつつ長さを入力していきます。16分音符のフルは120tickですが、短くしたい場合は半分の60tick近辺から調整を始めることが多いです。サビのシンセ・バッキングは、最終的に40tickにしていますね。デュレーションには決まりがなく、音色や楽曲によって設定が必要なので、こういった微妙な部分をtick単位で細かく調整しながら作っていけるのがDPの大好きなところです。
チェンジ・べロシティ/デュレーションはさまざまな使い方があるため、また機会があれば紹介したいと思います。
さて、今回紹介した機能はDPの中でも、かなり基本的なものではありますが、同時に打ち込みの根本とも言える重要な部分とも考えています。DPはステップ・レコーディングや数値入力によるエディットが可能だったり、マウスで細かくニュアンスを書き込むことができたりと、楽器が苦手な方や初心者の方でも音楽制作が可能なところも魅力なので、興味を持ってもらえたらと思い取り上げてみました。皆さんもぜひDPに触ってみてください! ではまた次回~!
中沢伴行
【Profile】アニメ、ゲームの楽曲を中心に活動するクリエイター。過去に高瀬一矢氏率いるI’veに在籍し、川田まみのプロデュースも担当した。現在はフリーランスとして活動中。『とある魔術の禁書目録』『灼眼のシャナ』『Re:ゼロから始める異世界生活』『ひぐらしのなく頃に』『ヨルムンガンド』『凪のあすから』『あの夏で待ってる』など、多くのアニメ作品のテーマ曲を担当。アニソン・アーティスト、声優、VTuberなどの楽曲制作も行っている。
【Recent work】
『リンク~past and future~』
秋里コノハ(CV.古賀葵)
(ANIPLEX)
※TVアニメ『16bitセンセーション ANOTHER LAYER』EDテーマ
作詞:KOTOKO、作曲:折戸伸治、編曲:中沢伴行
MOTU Digital Performer
オープン・プライス
LINE UP
Digital Performer 11(通常版):オープン・プライス(市場予想価格:79,200円前後)
REQUIREMENTS
▪Mac:macOS 10.13以降
▪Windows:Windows 10 & 11(64ビット)
▪共通:INTEL Core i3または同等のマルチプロセッサー(AMD、Apple Siliconを含むマルチコア・プロセッサーを推奨)、1,024×768のディスプレイ解像度(1,280×1,024以上を推奨)、4GB以上のRAM(8GB以上を推奨)