こんにちは。作曲家/ギタリスト/エンジニアの青木征洋です。UNIVERSAL AUDIOのDAW、LUNAを紹介する本連載。第8回は、ミックス関連機能の続きと、LUNAでミキシングを行う際、最初にやっておくとよいことをご紹介します。また、UADエフェクトでミックスするときと、そのほかのエフェクト(主にデジタル・エフェクト)でミックスするときの意識の違いについても触れられればと思います。
楽器のグループごとにバスを構築することでミックスの管理がとても楽に
まずはサイドチェイン機能について。キックとベースのすみ分けの文脈で頻出するサイドチェイン機能ですが、LUNAにもバージョン1.4で追加されています。サイドチェイン入力を受け取る側のチャンネルにあるUTILITY欄で信号を送る側のチャンネルを選択し、INSERTS欄でサイドチェインに対応したコンソールやプラグインを選べばOK。TRIMでサイドチェイン入力のレベルを調節でき、Sボタンを押せばサイドチェイン入力だけを聴くこともできます。
サイドチェインを使うときは、基本的にサイドチェイン入力を受け取る側のトラックの音作りをしたいはずなので、レベルの調整やルーティングの設定のために信号を送る側のチャンネルをミキサー画面内で探していじる必要がないのは直感的でストレスが少ないと感じます。
また、ここで個人的に便利だなと思ったのが、受け取る側のチャンネルをソロにしたときもサイドチェイン入力がちゃんと反映されていること。このおかげで、ステムを書き出すときでも正しくサイドチェインが適用された音を簡単に書き出すことができます。DAWによっては、受け取る側のチャンネルをソロにするとサイドチェイン入力が入ってこなくなることもあるのです。
いろいろと機能面でリッチになってきたLUNAですが、残念ながらVCAフェーダーは現時点では実装されていません。あるととても便利な機能なのでぜひ追加してほしいところです。AUXにまとめて音量をコントロールすればいいじゃないかという意見もありますが、それだとバス・プロセスの後でレベルが変わってしまうので、VCAでバス・プロセス前の音量を操作するのとはまた別の話になるのです。
こうしたLUNAの機能を生かしてミックスを行う場合、ある程度初期の段階でやっておいたほうがよい設定や音作りが幾つかあります。まず最初に行うべきなのがバスのルーティング。前回ご紹介したミキサーのSPILL設定を生かすため、またサミング設定を自由に行うために、楽器のグループごとにAUXを作ってまとめるような意識でバスを構築すると、ミックスの管理がとても楽になります。
このとき積極的にバス・プロセスを行わなかったとしても、ただ通過するだけのAUXにまとめておくだけでも結構便利です。“一度に視認したいトラック”という単位でバスにまとめていくことを考えると、これは“Track Visibility”(トラックの表示/非表示設定)の設定の一環とも言えるかもしれません。
バスが構築できたら、ミックス全体に影響を及ぼすサミングの拡張機能はHR(ヘッドルーム)も含めて先に設定してしまうのが望ましいと思います。なぜなら、ミックスの最後にここを触ると全体の印象が崩れてしまうからです。ある意味トップダウン・ミキシング的な考え方かもしれません。
同様の理由で、テープ・エミュレーションやコンソールの設定も各トラックのキャラクターに大きな影響を及ぼすので、最初に使うか使わないかを決めてしまうのがよいと思います。どんな質感のミックスに仕上げるかは、なるべく最初に確定させてしまいましょう。
この時点で何も触っていないのにかなり音が変わっていますが、あとはほかのDAWと同じようにミックスを進めていけばOKでしょう。Solo Safeの設定やトラックのグループ化、マーカーの設定、トラックのカラーリングなど、好みに応じてセッションをカスタマイズできます。トラック・グループの管理はどこかで見たような画面構成ですね。
拍子抜けするほど普通にミックスできると思いますが、一点だけ気を付けていただきたいことがあります。遅延の大きなネイティブのプラグインでチェインを組むと、LUNAが遅延補正を早々に諦めてしまうのでご注意を。例えば、ミックス・バスに重量級のプラグインをたくさん使うと、バウンス時に波形の始点がジャストから遅れてしまうことがあります。
UADエフェクトを使用すると角の取れたミックスに仕上がるのが面白い
さて、せっかくLUNAでミックスするのであればUADエフェクト主体で行うことをお勧めしたいと個人的には思っているのですが、多機能なエフェクトや音がクリアなもの、またはインテリジェント系のプラグインを使うことに慣れている人の場合、少しミックスの意識を変える必要があります。
具体的にどういった点が違うかと言うと、UADエフェクトは基本的にアナログ・ハードウェアの忠実な再現を目指しているものが多いため、処理の自由度に制約がかかりがちです。例えば、EQであればバンド数が少なかったり周波数ポイントが固定だったり、カット/ブースト量がステップになっていたり。コンプレッサーであればアタック/リリース・タイム/レシオがステップ式だったり、スレッショルドの設定がなく、INPUTやOUTPUTのみでのリダクションのコントロールが求められたりといった具合です。
そうした“大雑把な”処理を行っても、シグナル・パスで次々と非線形の影響が加算されていって、最終的になんとなく角の取れたミックスに仕上がるのがLUNAの面白いところだと思います。
欲を言えば、どんなDAWでどんなツールを使っても同じ印象の音になることが望ましいですが、LUNA+UADエフェクトでのミックスは、少なくとも私の環境では割と違う結果に結び付きがちです。
これはほかのDAWで作業したときにも共通して言えるのですが、“浮動小数点演算が〜”や“精度が〜”といった測定上の微小な差異の話ではなく、純粋なワークフローの差で音に変化が生じるのは不思議なことだなといつも思います。
今回は、LUNAのサイドチェイン機能の説明や、LUNAで実際にミックスを行う際に意識すると良いことについて触れてきました。次回は、LUNAの環境設定やコントロール・サーフェスとの統合など、土台の部分の説明ができればと思っています。
青木征洋
【Profile】作編曲家/ギタリスト/エンジニア。代表作に『ストリートファイターV』『ベヨネッタ3』『戦国BASARA3』などがある。自身が主宰し、アーティストとしても参加するG5 Project、G.O.D.では世界中から若手の超凄腕ギタリストを集め、『G5 2013』はオリコンアルバム・デイリーチャート8位にランクイン。またMARVEL初のオンライン・オーケストラ・コンサートではミキシングを務める。
【Recent work】
『salvia』
Nornis
(Altonic Records)
UNIVERSAL AUDIO LUNA
LINE UP
LUNA:無償|LUNA Pro Bundle:57,450円*|LUNA Creator Bundle:86,250円*|LUNA Analog Essentials Bundle:86,250円*|LUNA API Vision Console Emulation Bundle:100,650円*
*いずれもbeatcloud価格(2024年8月7日現在。価格は為替レートによって変動)
REQUIREMENTS
▪Windows:Windows 10およびWindows 11をサポート・テスト中
▪Mac:macOS 10.15/11/12/13/14以降、Intel Quad Core i7以上のプロセッサー、Thunderbolt1/2/3、16GB以上のRAM、SSDのシステムディスク推奨、サンプルベースのLUNA Instruments用SSD(APFSフォーマット済みのもの)、iLokアカウント(iLok Cloudもしくは第2世代)以降のiLok USB Keyでライセンスを管理