Universal Audio LUNAのオーディオ/MIDI編集テク&Apollo併用のアドバンテージ|解説:青木征洋

オーディオ/MIDI編集テク&Apollo併用のアドバンテージ|解説:青木征洋

 こんにちは。作曲家/ギタリスト/エンジニアの青木征洋です。UNIVERSAL AUDIOのDAW、LUNAを紹介する本連載。第6回は、前回中途半端になってしまったLUNAでのオーディオ編集の利点やMIDIのレコーディング、UNIVERSAL AUDIOのオーディオ・インターフェースApolloと組み合わせたときの、LUNAの大きなアドバンテージについて触れていきたいと思います。

自然な仕上がりが期待できるオーディオ・クオンタイズ

 オーディオ録音については前回解説しましたが、録音が終わったオーディオは一般的なDAWと同じように、もしくはもう少し楽に編集できます。リージョンの切り貼りやコピー&ペースト、フェード処理は直感的に行えますし、クリップごとにゲインやピッチ、タイム・ストレッチのアルゴリズムも設定可能。

クリップのタイム・ストレッチ/タイム・コンプレッションを行うワープ・タイプには、5種類のアルゴリズムを搭載。ゲインやピッチも含め、クリップごとに設定できます

クリップのタイム・ストレッチ/タイム・コンプレッションを行うワープ・タイプには、5種類のアルゴリズムを搭載。ゲインやピッチも含め、クリップごとに設定できます

 また、リージョンを途中で切り分けた際、切れ目に自動でクロスフェードが入るようになっているため、ゼロ・クロス・ポイントを意識しなくてもノイズのリスクを回避できます。

 オーディオ・クオンタイズに関してはなかなかに優秀かもしれません。LUNAはインポート、または録音されたオーディオに対し自動的にトランジェントを検出し、ワープ・ポイントを設定。そして選択した範囲に対し、設定したノートの長さに応じてそのトランジェントをクオンタイズできます。

オーディオのワープは、トラック表示(赤枠)の中からViewモードを“WARPS”(白枠)に変更すると有効になります。検出されたワープ・ポイントに対して縦の線が入り、クオンタイズを行う様子

オーディオのワープは、トラック表示(赤枠)の中からViewモードを“WARPS”(白枠)に変更すると有効になります。検出されたワープ・ポイントに対して縦の線が入り、クオンタイズを行う様子

 このワープ・ポイントは自分でも自由に打て、特定のグリッドに向けてクオンタイズできるだけでなく、各ワープ・ポイントを自由に動かして思い通りのリズム補正を行うことも可能。長さを2倍にするなどの過度なタイム・ストレッチさえしなければ、クリップを細かくハサミで切って前後に移動させるよりも断然自然な仕上がりになります。

 そしてここが何より重要なのですが、タイム・ストレッチ処理は複数のトラックをグループ化などで同時選択し、それぞれに対して位相の問題を生じさせずに行うことができます。つまり、ドラムやストリングスのようなマルチマイキングで録音されたトラックに対して、各マイク・ポジションの位相の関係性を破壊することなくタイミングだけを修正できるのです。標準搭載されているDAWもありますが、比較的新しいDAWであるLUNAにも実装されているのは好感が持てます。

 また、LUNAではこうしたマルチトラックのクオンタイズにおいて特定のトラックの“PRIORITY”にチェックを入れると、どのトラックのトランジェントを優先的に処理するか選べます。例えば、ドラムをクオンタイズするときにキック、スネア、タムのトランジェントのみを基準に全体をクオンタイズし、オーバーヘッドやルーム・マイクのトランジェントは考慮しないようにできます。重要なトラックのトランジェントを目視で確認し、ドラム全体のクリップを切り分けて前後に動かす、といった面倒なドラム・エディットはもう必要ありません。

ドラム・チャンネルをグループ化した様子。黄色のトラックは上からキック、スネア(トップ)、スネア(ボトム)、タム、ハイハット、オーバーヘッド、アンビエンス(ステレオ)、アンビエンス(モノラル)で、赤枠の“PRIORITY”にてキック、スネア、タムのトランジェントに合わせて選択範囲内のドラム全体をクオンタイズするようにしています

ドラム・チャンネルをグループ化した様子。黄色のトラックは上からキック、スネア(トップ)、スネア(ボトム)、タム、ハイハット、オーバーヘッド、アンビエンス(ステレオ)、アンビエンス(モノラル)で、赤枠の“PRIORITY”にてキック、スネア、タムのトランジェントに合わせて選択範囲内のドラム全体をクオンタイズするようにしています

 MIDIのレコーディングについても見ていきましょう。インストゥルメント・トラックを作成し、インストゥルメントを選択したらMIDIキーボードを使って演奏できる状態になります。もちろん、MIDIクリップを作成してマウスでMIDIノートを入力したり、コントロール・チェンジの情報を書き込んだりすることもできますが、独立したピアノ・ロール・エディター画面はなくすべてプロジェクト画面のトラック上で入力する仕様です。

 このため、一般的なDAWのようにMIDIシーケンスをゼロから自分で書いていくことが想定されているかというと、そうではないのかなと。

MIDIデータは、プロジェクト・ウィンドウ上にピアノロールを表示。ベロシティやCCも併せて編集可能となっています

MIDIデータは、プロジェクト・ウィンドウ上にピアノロールを表示。ベロシティやCCも併せて編集可能となっています

 MIDIもオーディオと同じように“キーボードでバーチャル楽器(UAD Instrumentsなど)を演奏してレコーディングしていくもの”と考えたほうが違和感がないでしょう。レコーディングが終わったテイクに対してタイミングやベロシティを微調整するくらいなら、ストレスなくできると思います。となると、オーディオ以上に問題となるレイテンシーですが、LUNAでインストゥルメントを録音する際、前回紹介したオーディオI/OのApolloと組み合わせた場合のみ、ARM機能を使えば低レイテンシーで録音できます。

赤枠のARM(Accelerated Realtime Monitoring)ボタンを有効にすれば低レイテンシー状態に。通常は赤丸のRECボタンが、ARM機能使用時は二重赤丸になります

赤枠のARM(Accelerated Realtime Monitoring)ボタンを有効にすれば低レイテンシー状態に。通常は赤丸のRECボタンが、ARM機能使用時は二重赤丸になります

複雑なプラグイン・チェインでも低レイテンシーで録音可能

 さて、ここからはApolloがLUNAの実力をいかに引き出すかを紹介していきます。ApolloでLUNAを使うアドバンテージは大きく分けて次の4つです。

 ①より大きなUAD-2 DSPプラグイン・チェインを使える

 ②録音待機状態のトラックのUAD DSPプラグインを低レイテンシーで使える

 ③録音待機状態にしたトラックのUADxエフェクトが自動的にUAD DSPエフェクトに切り替わり、録音待機状態を解除するとUADxエフェクトに戻る

 ④I/O設定が楽

 LUNAをApolloモードで使うには設定画面でCore AudioモードではなくApolloモードを選択します。初期バージョンではApolloでしか使うことができなかったので、どちらかというとCore Audioモードの方が古参ユーザーには物珍しい機能ではあります。

HARDWARE設定画面。“AUDIO DEVICE”の項目で“APOLLO”を指定するとApolloモードになります(赤枠)

HARDWARE設定画面。“AUDIO DEVICE”の項目で“APOLLO”を指定するとApolloモードになります(赤枠)

 UAD-2 DSPプラグインは通常1つのチャンネルに対して1つのDSPコアで処理を行うため、単一トラックにたくさんインサートするとほかのコアのリソースが余っていてもアラートが出てしまうことがあります。しかし、ApolloでConsoleやLUNAを使っていれば複数のDSPコアの処理をペアリングして1つのチャンネルに対して割り当てられるため、より複雑なプラグイン・チェインを作った状態でも低レイテンシーでのレコーディングを楽しめます。

“CHANNEL DSP PAIRING”(赤枠)で、DSPをペアリングする数量を設定可能。Apolloラックマウント・モデルでは最大4つ(デフォルトでは2つ)のDSPを、Apollo Twinでは最大2つ(デフォルトでは1つ)のDSPをペアリングできます。これにより、複雑なプラグイン・チェインでも低レイテンシーでのレコーディングが可能です

“CHANNEL DSP PAIRING”(赤枠)で、DSPをペアリングする数量を設定可能。Apolloラックマウント・モデルでは最大4つ(デフォルトでは2つ)のDSPを、Apollo Twinでは最大2つ(デフォルトでは1つ)のDSPをペアリングできます。これにより、複雑なプラグイン・チェインでも低レイテンシーでのレコーディングが可能です

 ただし、このDSPのペアリングを行うとLUNAの中で使えるバーチャル・チャンネルの数が減少します。バーチャル・チャンネルを使うとセッション内のチャンネルやバスの出力を別のチャンネルの入力に接続してプリントすることが簡単にできるため、自分のやりたいワークフローに応じた設定にしてください。特に問題がなければデフォルト設定のままで大丈夫です。

 そしてここからがApolloとLUNAの一番のマリアージュであるUAD-2 DSPプラグインとUADxプラグインを使ったストレスフリーな低レイテンシー・レコーディングの紹介!というところで文字数がいっぱいになってしまったので続きはまた次回に。引っ張ってしまってすみません。次回はApolloの強みの続きと、LUNAでのミキシングの流れをご紹介できればと思います。

 

青木征洋

【Profile】作編曲家/ギタリスト/エンジニア。代表作に『ストリートファイターV』『ベヨネッタ3』『戦国BASARA3』などがある。自身が主宰し、アーティストとしても参加するG5 Project、G.O.D.では世界中から若手の超凄腕ギタリストを集め、『G5 2013』はオリコンアルバム・デイリーチャート8位にランクイン。またMARVEL初のオンライン・オーケストラ・コンサートではミキシングを務める。

【Recent work】

『salvia』
Nornis
(Altonic Records)

 

 

 

UNIVERSAL AUDIO LUNA

Universal Audio LUNA

LINE UP
LUNA:無償|LUNA Pro Bundle:63,840円*|LUNA Creator Bundle:95,840円*|LUNA Analog Essentials Bundle:95,840円*|LUNA API Vision Console Emulation Bundle:111,840円*
*いずれもbeatcloud価格

REQUIREMENTS
▪Windows:Windows 10およびWindows 11をサポート・テスト中
▪Mac:macOS 10.15/11/12/13以降、Intel Quad Core I7以上のプロセッサー、Thunderbolt1/2/3、16GB以上のRAM、SSDのシステムディスク推奨、サンプルベースのLUNA Instruments用SSD(APFSフォーマット済みのもの)、iLokアカウント(iLok Cloudもしくは第2世代)以降のiLok USB Keyでライセンスを管理

製品情報

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