こんにちは。作曲家/ギタリスト/エンジニアの青木征洋です。UNIVERSAL AUDIOのDAW、LUNAを紹介する本連載。第6回は、前回中途半端になってしまったLUNAでのオーディオ編集の利点やMIDIのレコーディング、UNIVERSAL AUDIOのオーディオ・インターフェースApolloと組み合わせたときの、LUNAの大きなアドバンテージについて触れていきたいと思います。
自然な仕上がりが期待できるオーディオ・クオンタイズ
オーディオ録音については前回解説しましたが、録音が終わったオーディオは一般的なDAWと同じように、もしくはもう少し楽に編集できます。リージョンの切り貼りやコピー&ペースト、フェード処理は直感的に行えますし、クリップごとにゲインやピッチ、タイム・ストレッチのアルゴリズムも設定可能。
また、リージョンを途中で切り分けた際、切れ目に自動でクロスフェードが入るようになっているため、ゼロ・クロス・ポイントを意識しなくてもノイズのリスクを回避できます。
オーディオ・クオンタイズに関してはなかなかに優秀かもしれません。LUNAはインポート、または録音されたオーディオに対し自動的にトランジェントを検出し、ワープ・ポイントを設定。そして選択した範囲に対し、設定したノートの長さに応じてそのトランジェントをクオンタイズできます。
このワープ・ポイントは自分でも自由に打て、特定のグリッドに向けてクオンタイズできるだけでなく、各ワープ・ポイントを自由に動かして思い通りのリズム補正を行うことも可能。長さを2倍にするなどの過度なタイム・ストレッチさえしなければ、クリップを細かくハサミで切って前後に移動させるよりも断然自然な仕上がりになります。
そしてここが何より重要なのですが、タイム・ストレッチ処理は複数のトラックをグループ化などで同時選択し、それぞれに対して位相の問題を生じさせずに行うことができます。つまり、ドラムやストリングスのようなマルチマイキングで録音されたトラックに対して、各マイク・ポジションの位相の関係性を破壊することなくタイミングだけを修正できるのです。標準搭載されているDAWもありますが、比較的新しいDAWであるLUNAにも実装されているのは好感が持てます。
また、LUNAではこうしたマルチトラックのクオンタイズにおいて特定のトラックの“PRIORITY”にチェックを入れると、どのトラックのトランジェントを優先的に処理するか選べます。例えば、ドラムをクオンタイズするときにキック、スネア、タムのトランジェントのみを基準に全体をクオンタイズし、オーバーヘッドやルーム・マイクのトランジェントは考慮しないようにできます。重要なトラックのトランジェントを目視で確認し、ドラム全体のクリップを切り分けて前後に動かす、といった面倒なドラム・エディットはもう必要ありません。
MIDIのレコーディングについても見ていきましょう。インストゥルメント・トラックを作成し、インストゥルメントを選択したらMIDIキーボードを使って演奏できる状態になります。もちろん、MIDIクリップを作成してマウスでMIDIノートを入力したり、コントロール・チェンジの情報を書き込んだりすることもできますが、独立したピアノ・ロール・エディター画面はなくすべてプロジェクト画面のトラック上で入力する仕様です。
このため、一般的なDAWのようにMIDIシーケンスをゼロから自分で書いていくことが想定されているかというと、そうではないのかなと。
MIDIもオーディオと同じように“キーボードでバーチャル楽器(UAD Instrumentsなど)を演奏してレコーディングしていくもの”と考えたほうが違和感がないでしょう。レコーディングが終わったテイクに対してタイミングやベロシティを微調整するくらいなら、ストレスなくできると思います。となると、オーディオ以上に問題となるレイテンシーですが、LUNAでインストゥルメントを録音する際、前回紹介したオーディオI/OのApolloと組み合わせた場合のみ、ARM機能を使えば低レイテンシーで録音できます。
複雑なプラグイン・チェインでも低レイテンシーで録音可能
さて、ここからはApolloがLUNAの実力をいかに引き出すかを紹介していきます。ApolloでLUNAを使うアドバンテージは大きく分けて次の4つです。
①より大きなUAD-2 DSPプラグイン・チェインを使える
②録音待機状態のトラックのUAD DSPプラグインを低レイテンシーで使える
③録音待機状態にしたトラックのUADxエフェクトが自動的にUAD DSPエフェクトに切り替わり、録音待機状態を解除するとUADxエフェクトに戻る
④I/O設定が楽
LUNAをApolloモードで使うには設定画面でCore AudioモードではなくApolloモードを選択します。初期バージョンではApolloでしか使うことができなかったので、どちらかというとCore Audioモードの方が古参ユーザーには物珍しい機能ではあります。
UAD-2 DSPプラグインは通常1つのチャンネルに対して1つのDSPコアで処理を行うため、単一トラックにたくさんインサートするとほかのコアのリソースが余っていてもアラートが出てしまうことがあります。しかし、ApolloでConsoleやLUNAを使っていれば複数のDSPコアの処理をペアリングして1つのチャンネルに対して割り当てられるため、より複雑なプラグイン・チェインを作った状態でも低レイテンシーでのレコーディングを楽しめます。
ただし、このDSPのペアリングを行うとLUNAの中で使えるバーチャル・チャンネルの数が減少します。バーチャル・チャンネルを使うとセッション内のチャンネルやバスの出力を別のチャンネルの入力に接続してプリントすることが簡単にできるため、自分のやりたいワークフローに応じた設定にしてください。特に問題がなければデフォルト設定のままで大丈夫です。
そしてここからがApolloとLUNAの一番のマリアージュであるUAD-2 DSPプラグインとUADxプラグインを使ったストレスフリーな低レイテンシー・レコーディングの紹介!というところで文字数がいっぱいになってしまったので続きはまた次回に。引っ張ってしまってすみません。次回はApolloの強みの続きと、LUNAでのミキシングの流れをご紹介できればと思います。
青木征洋
【Profile】作編曲家/ギタリスト/エンジニア。代表作に『ストリートファイターV』『ベヨネッタ3』『戦国BASARA3』などがある。自身が主宰し、アーティストとしても参加するG5 Project、G.O.D.では世界中から若手の超凄腕ギタリストを集め、『G5 2013』はオリコンアルバム・デイリーチャート8位にランクイン。またMARVEL初のオンライン・オーケストラ・コンサートではミキシングを務める。
【Recent work】
『salvia』
Nornis
(Altonic Records)
UNIVERSAL AUDIO LUNA
LINE UP
LUNA:無償|LUNA Pro Bundle:63,840円*|LUNA Creator Bundle:95,840円*|LUNA Analog Essentials Bundle:95,840円*|LUNA API Vision Console Emulation Bundle:111,840円*
*いずれもbeatcloud価格
REQUIREMENTS
▪Windows:Windows 10およびWindows 11をサポート・テスト中
▪Mac:macOS 10.15/11/12/13以降、Intel Quad Core I7以上のプロセッサー、Thunderbolt1/2/3、16GB以上のRAM、SSDのシステムディスク推奨、サンプルベースのLUNA Instruments用SSD(APFSフォーマット済みのもの)、iLokアカウント(iLok Cloudもしくは第2世代)以降のiLok USB Keyでライセンスを管理