Dos Monosのラッパー/ビート・メイカーの荘子itです。Dos Monosの最新アルバム『Dos Atomos』に収録されている「KIDS」の制作の原点となったのは、2022年に代官山ティーンズ・クリエイティブで行ったワークショップでした。10人くらいの子供たちにトラック・メイクを教えるイベントで、その場でサンプリングした素材を組み合わせて曲にしたのです。そこで、今回はそのプロジェクト・ファイルを元に、セッションビューを使ったトラック・メイクの方法を紹介します。
ハードウェア・サンプラーのような感覚でループを軸にしたトラック・メイクが可能
Ableton Liveには2種類の画面表示があり、時間軸に沿って進行する“アレンジメントビュー”と、ループ素材やワンショットなどのクリップを自由に並べて演奏や制作ができる“セッションビュー”が用意されています。
自分の使い分けとしては、曲の土台となるビートをループ中心で作るときはセッションビュー、映像作品の音楽などで展開がある程度決まっていて、最初から全体像を見据えて作る場合はアレンジメントビューで始めることが多いです。
セッションビューでは、フレーズをたくさんためて、ビートを流しながら音の面白さを吟味しつつ、いろいろな音を合わせていく作り方ができます。これは、ヒップホップのトラック・メイクでよく使われるAKAI PROFESSIONAL MPCやROLAND SP-404などのサンプラーを使ったビート構築の感覚に近いので、ヒップホップのトラック・メイカーでLiveユーザーが多いのも、そのような作り方に特化している側面があるからだと思います。
先述のワークショップでは、子供たちが選んだ音やフレーズをサンプリングして、素材としてストックしていきました。例えば、カチンコみたいな音のクラップを取り込んでみたり、ギターのフレーズをチョップしたり、シンセサイザーの刻みをサンプリングしてパーカッションっぽい感じで使えるようにピッチを落としたり、人間の声とロボット・ボイスのピッチを大きく下げてレイヤーしたり……という具合です。
ここでも活躍するのが、前回紹介したワープ機能です。「KIDS」では、このときにサンプリングしたキックを引き伸ばして作った“ドーン”という音が使われています。
これは、リリースの短い普通のキックを元に作った音なのですが、ピッチを+11と極端に上げて、ワープをオンにして再生速度を1/4倍くらいに引き伸ばすことで、リリース部分に癖のある音になっています。この曲ではドラムを別途レコーディングしたのですが、その生ドラムの上に先ほどのキックをレイヤーすることで、拍の頭にインパクトがある音にできました。
セッションビューの良いところは、実際の制作で使うか使わないかは別として、とりあえずストックしておけるところ。メインで使わなかったとしても、曲中で“ちょっと展開を付けたいんだよな”と思ったときに、作りためたものを引っ張り出して使えたりもするので、重宝しています。
ワークショップでサンプリングした素材は「KIDS」の完成版でも幾つか使っています。例えば、没 a.k.a NGSの最初のバースのフック前のあおりっぽいところでちょっと怪しい雰囲気を出すためにロボット・ボイスを使ったり、TaiTanのセカンド・バースで奇天烈な雰囲気を出すのに機械音を使っていたりしているので、ぜひ聴いて探してみてください。
セッションビューの再生情報をアレンジメントビューへ記録していく
では、セッションビューでの制作方法の話に戻ります。ここまでで紹介したようにいろいろなクリップを集めたら、まずはビートを打ち込みます。その後、ビートをループ再生したままの状態で、上モノなどサンプリングしたネタのクリップを重ねて再生し、ハマるかどうかを試していき、合いそうなものがあれば組み合わせていきます。順番としては、まずはメインになりそうな音を選び、それを基準にしてビートに音を足したり、ほかのネタを重ねたりしていく流れです。
このとき、素材によってテンポは違うと思いますが、必ずしもBPMを合わせる必要はなく、BPMが違う素材を重ねてループすることで、途中で切れてしまう感じが逆に面白かったりもします。特に、前回紹介したサックスのフレーズなどのテンポが揺れるような素材であれば、そのようにしています。一方で、拍がはっきりしているような音であればテンポに合わせることが多いですね。
続いて、セッションビューで展開を作っていきます。セッションビューの右端に用意されたシーンローンチボタン(再生ボタン)を押すと、選択した列に並んだクリップをすべて同時再生することができます。
シーンセクションごとに、ビート抜きのシーン、ビートが入ってくるシーン、上モノを1個足したシーン……というように展開を作っていきます。クリップの並び順がまばらなのはそのためで、どのクリップを組み合わせて流すかをループ再生しながら試して、配置を並び替えていきます。
ここまでできたら、プロジェクト画面上部の録音ボタンを押した状態で、それらの展開をシーンごと順番に再生し、アレンジメントビューへ録音していきます。
その際、各シーンをどれぐらい聴いたら飽きるか確認しながら、“とりあえずバースはこんな感じで、次の展開はこうで……”と、自分的に気持ち良い展開になるように、3分ぐらいライブ演奏を録音していきます。こうすることで、セッションビューという名前の通り、セッションしていくパフォーマンス的な作り方ができるのです。自分で作ったフレーズのマッシュアップをライブ的に楽しみながら試して練っていくこともあります。
その作業を経て曲が横軸に並びだしてからは、最終調整までアレンジメントビューで進めていきます。これが、セッションビューから始めるトラック・メイクの流れです。
これと逆に、アレンジメントビューで出来上がった曲をまたセッションビューに並べてライブ・セットを作ることもできますね。その場合は、ライブ・セット用のプロジェクト・ファイルを用意して、1曲を1つのクリップとしてアサインして並べていきます。セッションビューにクリップとして並べるのは、2ミックスはもちろん、ステムで書き出して並べると、より細かなパフォーマンスが可能です。トラックを2つ用意して曲を交互にかけていけばDJもできます。
これで僕の全3回の連載は終了となります。ぜひ皆さんもオリジナリティのあるLiveの使い方を探ってみてください!
荘子it
【Profile】1993年生まれ。トラック・メイカー/ラッパー/ギタリスト。2019年に1stアルバム『Dos City』でデビューしたヒップホップ・クルーDos Monosを率い、全曲のトラックとラップを担当。イギリスのblack midi、米アリゾナのInjury Reserveや、台湾のIT大臣オードリー・タン、小説家の筒井康隆らとの越境的な共作曲も多数。2024年からのDos Monos第2期はロック・バンドとして活動することを宣言し、大友良英らが参加した最新作『Dos Atomos』が発売中
【Recent work】
『Dos Atomos』
Dos Monos
(Dos Monos)
Ableton Live
LINE UP
Live 12 Intro:11,800円|Live 12 Standard:52,800円|Live 12 Suite:84,800円
REQUIREMENTS
▪Mac:macOS 11以降、intel Core i5もしくはApple Silicon、Core Audio準拠のオーディオインターフェースを推奨
▪Windows:Windows 10(バージョン22H2)/11(バージョン22H2以降)、intel Core i5(第5世代)またはAMD Ryzen、ASIO互換オーディオハードウェア(Link使用時に必要)
▪共通:3GB以上の空きディスク容量(8GB以上推奨、追加可能なサウンドコンテンツのインストールを行う場合は最大76GB)