Dos Monosのラッパー/ビート・メイカーの荘子itです。僕の音楽制作は、常にAbleton Liveと共にあり続けてきました。最初に手に入れたのはオーディオ・インターフェースに付属していたLive 8体験版。それ以降Liveを使い続け“まずはLive付属デバイスで音を出す”という考えが根付いています。そこで、連載初回は、付属インストゥルメントでの音作りを紹介。5月にリリースしたDos Monosの最新アルバム『Dos Atomos』の収録曲でも相当な数を使っています。
ギターや鍵盤は使わずにAPPLE MacBook Proのみでアイディア出し
最初に紹介するのは10曲目の「ATOM」です。僕のバースから始まる曲で、バック・トラックで流れるギターのメイン・リフには、付属インストゥルメントTensionのプリセットNylon Old Guitarを使いました。
ExcitatorのタイプはPlectrumを選択。その右のProtrusionノブを動かすと、かなり荒々しい変化がもたらされます。デバイス名から考えて、本来はナイロン・ギターの自然な鳴りを再現するためのパラメーターだと思いますが、Protrusionの値が50%近くなると明らかに現実離れしたような音になって面白いです。その右のStiffnessは弦をミュートするような効果が得られます。
そのほか、画面右のDamperをオンにすると音色が一変。右下は楽器の共鳴を再現するBodyセクションで、ピアノやギター、バイオリンなど楽器の種類とサイズ感が選べ、弦鳴りとボディ鳴りのブレンド具合を調整できるStr/Bodyも搭載されています。「ATOM」のメイン・リフでは、これらのパラメーターを細かく調整。その後段では、上モノらしい質感を得るために同じくLive付属のEQ Eightでロー・カットを中心に基本的な音作りを行いました。
このリフは同じフレーズのままフック(サビ)の頭までループし続けるのですが、フックではひずんだギターで演奏されます。よくニルヴァーナなどでクリーン・ギターのフレーズがサビでひずんだギターに切り替わる曲がありますが、それと同様の考え方でクリーン・ギターの代わりにシンセ・ギターを鳴らしています。シンセ・ギターの音から生ギターへ変化することで聴きなじみのないダイナミクスの付き方になるのです。
このひずんだギターのデモは、同じくTensionのプリセットのHard Picked Guitarで制作。それを元に生演奏した3本のギターを重ねました。さらに、デモ音色にも生ギターで出せない質感があったので、薄く残して鳴らしました。
ここでの僕の作り方の特徴の一つとして、ギター・リフをMIDIで打ち込んで考えるということが挙げられます。MIDIから作ると、ギターを演奏しても出てこないようなフレーズや重ね方を思い付くことがあるんです。特に『Dos Atomos』では制作を始めるときにギターや鍵盤を使わず、APPLE MacBook Pro1台でアイディアを作ったのが良かったと思います。具体的には「ATOM」のリフはルートと短3度の二和音なのですが、これは恐らくMIDIで考えたおかげで浮かんだアイディアでした。この作り方だと、アイディア出しの際にギターを手に取ったりオーディオI/Oを接続したりする手間もかからず、本当にノート・パソコン1台で完結できるのです。
デモ作りで役立つのが、ギターやベースの基本フレーズを考えるための“生Guitar”“生BASS”という自作Rackです。これらはある程度音色を作り込んだ状態で保存してあるため、とりあえずこれを呼び出して適当にMacのキーボードを弾けばすぐにフレーズを考えはじめることができます。
生Guitarの土台にしている音色は、先述のHard Picked Guitarです。
その後段でWAVES L2 UltraMaximizerやAphex Vintage Aural Exciter、CLA Guitars、GTR Ampでひずみなどの処理を行うので、スケッチの制作はもちろん、最終段階で重ねれば音に厚みを出せることもあります。生BASSの土台は、同じくTensionのプリセットであるElectric Nylon Guitar。ボディのサイズ感を大きめ、少しフィンガー・ピッキングのニュアンスも感じられるように設定できるので、ベース音色の素材として使っています。
ユニークな名前のインストゥルメントが多数 楽器名でブラウザ検索すると予想外の出会いが
続いて、9曲目の「COJO」では、0:18〜の印象的なメイン・フレーズをLive付属デバイスCollisionのプリセット、Rhythmic String Arpで作りました(Live 10を使用)。
デフォルトの金属を引きずるような質感の音が面白かったので、外部エフェクトを使わずシンセ内のみで音色を作り込んでいます。Malletをオンにしてボリュームを−60dBに。Noiseを足すとアタックにフレット・ノイズのような雑音がいい感じに混ざってキャラが立ってきます。Colorで少し整えたら、続いてResonatorでStringを選択。PlateやMarimbaを選ぶとだいぶ響きが変わります。Resonator 2では、タイプをTubeに。EQで少しハイをブーストして音を作り込みました。なお、ここでは楽曲制作時に使用したLive 10で解説しましたが、Live 11.3以降でCollisionはMPE対応し、UIもアップデートされました。ぜひ最新バージョンでもお試しください。
このほかにも『Dos Atomos』で活用した付属デバイスを幾つか紹介します。「DATTO」でキャラ立ちに貢献したのはCathedral Keys。これは、付属シンセWavetableを使用して作られているInstrument Rackのプリセットです。ギター・サウンドがメインの曲ですが、軽さやファニーさを出すためにこの音色をほぼ完成直前のタイミングで足しました。
また、1曲目「HAROU」のイントロは、お風呂で思い浮かんだ鼻歌のフレーズをオケヒットで再現したく、LiveのSamplerにオケヒのサンプルを取り込んで音階を付けています。そのオケヒのフレーズに重ねて低音を下支えしているのがSub Stomach。これもInstrument Rackのプリセットで、名前の通り胃に響くようなお気に入りのサブベースです。
そのほかWoofer Loving BassやComplex Grunge Bass(いずれもベース)、Organ Angry(オルガン)などユニークな名前のインストゥルメントやプリセットが多いのもLiveの魅力。
ブラウザの検索窓に楽器名などを入力すると、その楽器に近い音色はもちろん、予想外のサウンドに出会えることも多くて楽しいです。プリセットの音と楽器や声の生音を組み合わせるのは、レコードの音を取り込むヒップホップのサンプリングに近い感覚で、ゼロから作り込むソフト・シンセとはまた違う面白さがあります。ぜひ皆さんも、Live付属インストゥルメントでの音作りを楽しんでみてください。
荘子it
【Profile】1993年生まれ。トラック・メイカー/ラッパー/ギタリスト。2019年に1stアルバム『Dos City』でデビューしたヒップホップ・クルーDos Monosを率い、全曲のトラックとラップを担当。イギリスのblack midi、米アリゾナのInjury Reserveや、台湾のIT大臣オードリー・タン、小説家の筒井康隆らとの越境的な共作曲も多数。2024年からのDos Monos第2期はロック・バンドとして活動することを宣言し、大友良英らが参加した最新作『Dos Atomos』が発売中
【Recent work】
『Dos Atomos』
Dos Monos
(Dos Monos)
Ableton Live
LINE UP
Live 12 Intro:11,800円|Live 12 Standard:52,800円|Live 12 Suite:84,800円
REQUIREMENTS
▪Mac:macOS 11以降、intel Core i5もしくはApple Silicon、Core Audio準拠のオーディオインターフェースを推奨
▪Windows:Windows 10(バージョン22H2)/11(バージョン22H2以降)、intel Core i5(第5世代)またはAMD Ryzen、ASIO互換オーディオハードウェア(Link使用時に必要)
▪共通:3GB以上の空きディスク容量(8GB以上推奨、追加可能なサウンドコンテンツのインストールを行う場合は最大76GB)