Ableton Liveセッションビュー活用術〜制作&パフォーマンスでの斬新な使い方を解説

時間軸を超越するセッションビューの魅力|解説:SAKURA TSURUTA

 “アレンジメントビューはよく使うけれど、セッションビューはほとんど触れたことがない”という声をよく耳にします。セッションビューのようにマス目状のUIを持つループ・プレーヤーは、今やほかのDAWにも搭載されていますが、この形式を初期から採用したのがAbleton Liveです。今回はセッションビューの魅力に迫り、斬新な使い方をご紹介します。

音素材の保存場所として任意のネーミングで整理

 アレンジメントビューでは、左から右へと時間軸に沿って音を並べて楽曲を構築します。一方、セッションビューでは時間軸を完全に無視して自由に作業を進めることが可能。“セッションビュー”という名の通り、まるでジャム・セッションを行っているかのように音の再生やスケッチができるのです。このループ再生機能は、即興演奏に使用したり、舞台音響やサウンド・エフェクトのポン出しにも活用できるため、Liveが作曲だけでなくパフォーマンスの場でも使われる背景には、セッションビューが大きな役割を果たしています。

 セッションビューでの制作を始める上でまず押さえておきたいのが“クリップ”の概念です。クリップとは、セッションビュー内の“引き出し”に入れることができる音素材を指します。MIDIクリップでもオーディオクリップでも同様です。

 ここで、セッションビューを“音素材の保存場所”として活用するアイディアをご紹介します。ブラウザに何千、何万もの音素材がある場合、打ち込み作業中に目的の音を探して延々とスクロールし、途方に暮れた経験はありませんか?そんなときに役立つのが、あらかじめセッションビューに使いたい音素材をまとめておく方法です。ブラウザで音を探す手間が省けるだけでなく、元の音源がどのようなものかを直感的に把握しやすくなります。さらに事前に音素材を整理しておくことで、曲全体の統一感を保てます。クリップの名称を変更し、音の特徴や採用するかなどのメモ書きをするのもお勧めです。

セッションビューの一例。クリップ名に音の特徴を入れたり、そのトラックを採用するかどうかのメモ書き代わりに活用するのもお勧め(赤枠)

セッションビューの一例。クリップ名に音の特徴を入れたり、そのトラックを採用するかどうかのメモ書き代わりに活用するのもお勧め(赤枠)

フォローアクションを駆使した作曲&ビート生成テクニック

 次にご紹介するのは、フォローアクションを使ったトリックです。フォローアクションをオンにすると、セッションビュー上でのクリップの再生順を設定できます。

セッションビューでフォローアクションを活用すると、クリップの再生順などを設定できる(赤枠)。フォローアクションには左枠のフォローアクションA(青枠)と右枠のフォローアクションB(黄枠)があり、その下に表示されるクロスフェーダーでAとBの適用確率を設定できる

セッションビューでフォローアクションを活用すると、クリップの再生順などを設定できる(赤枠)。フォローアクションには左枠のフォローアクションA(青枠)と右枠のフォローアクションB(黄枠)があり、その下に表示されるクロスフェーダーでAとBの適用確率を設定できる

 フォローアクションには多くの選択肢があり、例えば“Next”に設定すると、設定したクリップの再生後、その下に並ぶクリップが自動再生されます。設定できるのは左枠のフォローアクションA、右枠のフォローアクションBの最大2つ。その下に表示されるクロスフェーダーでは、AとBの適用される確率を設定することが可能です。フォローアクションが適用されたクリップは、セッションビュー上の再生ボタンがストライプ状に変化します。

 異なるピッチのクリップをたくさん用意し、フォローアクションの“Other”(現在再生しているクリップ以外をその次に再生)を活用することで、音階を生成し、ジェネラティブな音楽を作り出すことができます。偶然に身を任せて音を生成し、それをサンプリングすれば、予期しなかったメロディ・ラインが生まれるかもしれません。アンビエントな作曲や即興演奏にも非常にお勧めの手法です。

異なるピッチのクリップを多数用意し、フォローアクションの“Other”を活用することで、音階を生成し、ジェネラティブな音楽を作り出せる。アンビエントな作曲や即興演奏にお勧めの手法だ。実際の動作は下記リンクを参照いただきたいhttps://youtu.be/Sns26_XlUsY

異なるピッチのクリップを多数用意し、フォローアクションの“Other”を活用することで、音階を生成し、ジェネラティブな音楽を作り出せる。アンビエントな作曲や即興演奏にお勧めの手法だ。実際の動作は下の動画を参照いただきたい

 この手法をさらに工夫することで、ビートの生成も可能になります。例えば、より短い単音クリップを多数用意し、各ビートにランダムで異なるクリップが再生されるようにフォローアクションを設定してみましょう。すると驚くべきことに、突如として不規則でグリッチーなビートが一瞬で完成します。

単音クリップを多数用意し、異なるクリップがランダムで再生されるようにフォローアクションを設定することで不規則でグリッチーなビートが生成可能。下記URLの動画も併せて確認してほしいhttps://youtu.be/lAdU7pqjUJE

単音クリップを多数用意し、異なるクリップがランダムで再生されるようにフォローアクションを設定することで不規則でグリッチーなビートが生成可能。下の動画も併せて確認してほしい

 オーディオトラックにサンプリングしてさらに加工するもよし、偶発的に生成されたお気に入りの部分を抜粋して使用するもよし。時間軸にコミットする前に音の雰囲気を試してみたり、曲を作る前にサウンド・デザインで曲の世界観を構築したい方には非常にお勧めです。

 ちなみにフォローアクションはシーン(セッションビューの横一列)全体に適応可能。つまり“横1列を8小節再生した後に、次のシーンを再生”などの設定もできるのです。この機能を使用すると、ライブ演奏中やポン出しが必要な現場において、ミスを防いだりタイミングを一致させたりするのに役立ちます。

 もう一つ紹介したいのが、セッションビューを使ったライブ・ルーピング(多重録音)です。クリップが入っていないマス目には、再生ボタンの代わりに丸い録音ボタンが表示されます。録音する小節の長さをあらかじめ設定しておけば、指定した小節数で録音が自動的に終了し、その後自動的に再生されます。新しいスロットにどんどん重ねて録音していくことで、制作過程でもパフォーマンス環境下でも、ライブ・ルーピングをより身近に実現できます。また、トラックを増やさずに新しいテイクを録音できる点も、直感的に録音作業を進めるためのメリットと言えるでしょう。クリップの色は変更できるので、気に入ったテイクに印を付けて整理整頓することも可能です。

 今回は、パフォーマンスやポン出しだけではもったいない、制作でも活用できるセッションビュー術を紹介しました。皆さんも試してみてくださいね。これで私の担当は最終回です。またイベントやワークショップで皆さんとお会いできるのを心より楽しみにしています。

 

SAKURA TSURUTA

【Profile】広島出身。幻想的な電子音楽で国内外のリスナーを魅了し、デビュー作「Dystopia」で注目を集め、EP『Made of Air』やLP『C / O』で高い評価を得る。音楽業界でのジェンダー平等を提唱し、Forbes Japan“世界を救う希望100人”に選出。アーティスト活動に加え、ファッション・ショーの音楽制作やDJ活動を行い、Ableton認定トレーナーとして次世代のトラック・メイカーの育成にも力を注いでいる。

【Recent work】

『GEMZ』
SAKURA TSURUTA
(all my thoughts)

 

 

 

Ableton Live

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LINE UP
Live 12 Intro:11,800円|Live 12 Standard:52,800円|Live 12 Suite:84,800円

REQUIREMENTS
Mac:macOS 11以降、INTEL Core i5もしくはApple Silicon、Core Audio準拠のオーディオ・インターフェースを推奨
Windows:Windows 10(バージョン22H2)/11(バージョン22H2以降)、INTEL Core i5(第5世代)またはAMD Ryzen、ASIO互換オーディオ・ハードウェア(Link使用時に必要)
共通:3GB以上の空きディスク容量(8GB以上推奨、追加可能なサウンド・コンテンツのインストールを行う場合は最大76GB)

製品情報

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