デモの完成度を上げるTips&リバーステクニック 〜G.RINAが使うAbleton Live

ワンランク上のデモ・データ制作&リバースを駆使した音作りのテクニック|解説:G.RINA

 ヒップホップ・ユニットFNCYの一員であり、シンガー・ソングライター/ビート・メイカーのG.RINAです。EQのことばかり話していたらもう最後の回になってしまいました。なんだか寂しいです! 今回はちょっと違う角度で、トラックの完成度を上げるTipsを紹介したいと思います。

完成形に近いデモを作るための場面転換での工夫

 メロディ、リリック、トラックの屋台骨ができてきたとき、デモの段階でもいまひとつ何かが足りないというときがあります。提供のための時間が限られたデモ作りで、なるべく完成に近い音を渡したい、あるいはビギナーから少しこなれたトラックを作れるようになりたい、そんなときはバースやフックへの場面転換時のちょっとした演出が完成度を上げてくれるかもしれません。

 ラッパーに対して、シンプルなループだけのデモを聴いてもらうときもあるでしょう。そんな場合でもイントロにフィルターをかける、16小節ごとの場面転換を付けておく、場面転換ごとにシンバルや衝撃音などのFXを置くなどすると、歌い手に完成形が見えやすくなります。より生ドラムに近い打ち込みならドラム・フィルも定番です。デモの一聴目から、ここが入り、ここからサビ、このバースはもっと長くしたい、といったことが見えると楽曲のインスピレーションが湧きやすくなります。

 場面転換は音の追加に限らず、直前のキックを1つ抜く、連打する、1小節分ハイハットのみにするといった引き算でも引き締めることができます。シンプルな効果でも、次の展開のきっかけがあることでデモや楽曲の精度は良くなります。

ボーカルの1語だけにディレイ 減衰の具合を調整して効果的に

 さらに楽曲を磨け上げていく段階になったら、もう一つの手法として、音を逆回転することでドラマチックな場面転換のムードを作る方法があります。Ableton Liveで簡単にできるリバース・テクニックについて、幾つか紹介しましょう。

 まずは一番シンプルなリバース・シンバルから。シンバル音をリバースし、バース頭の1音目ではなく、その直前に置きます。リバースした波形の一番大きくなるところが小節頭に来る形です。

Crash1を画面左下にあるReverse(赤枠)ボタンまたはRキーでひっくり返します。そして次の小節頭直前で最大になるように置きます(黄枠)。ここではその後、小節頭にもCrash2を置いています

Crash1を画面左下にあるReverse(赤枠)ボタンまたはRキーでひっくり返します。そして次の小節頭直前で最大になるように置きます(黄枠)。ここではその後、小節頭にもCrash2を置いています

 ふっと吸い込まれたように場面が転換します。リバースするシンバルをいろいろな音で試してみてください。静かなチーンというものから、バシャーンというものまで。これは爆発系のクラッシュ音にも適用できます。

 次は楽器のリバースです。例えばコードを押さえるギターやRHODESなどの特定の楽器の、場面転換前の最後の1小節(あるいは最後の1音)だけを逆回転させます。

ステレオのRHODESの音(下段)をリバースし、曲の展開する直前の小節に置きます

ステレオのRHODESの音(下段)をリバースし、曲の展開する直前の小節に置きます

 イントロはもちろん、盛り上がりの終わりなどに使ってもいいかもしれません。これは1音1音の伸びがありつつ横長三角の減衰がみられる楽器音に有効です。波形が海苔型のシンセ音やビープ音には有効ではありません。

 これはブレイクビーツにも使えます。1trにまとまっているドラムス、サンプリング・ビート、あるいはドラムスのすべてを一つのトラックにオーディオとして1小節分書き出し、それをリバースします。仮にリバースしているのはビートだけでも、レコードを手で逆回転したときのような演出ができます。

フィルとなる1小節分のドラム・ブレイクをリバース(赤枠)。全部のトラックをひっくり返さなくても、レコードの逆回転のような雰囲気をちょっぴり出すことができます

フィルとなる1小節分のドラム・ブレイクをリバース(赤枠)。全部のトラックをひっくり返さなくても、レコードの逆回転のような雰囲気をちょっぴり出すことができます

 最後は、リバース・テクニックの中で近年よく使われているリバース・ボーカル&飛ばしのやり方を紹介します。まずはメインのボーカル飛ばしをしてみましょう。ボーカルの語尾1語だけにディレイをかけます。その1語だけを切り抜いて1つのトラックを作成。その音に、ディレイのタイミングを深めに調節し、欲しい効果をかけます。そうするとその1語にだけ、メインとは別の深いエフェクトがかかります。1曲の中でさまざまな形で1回きりの異なるディレイをかけるダブワイズをしたいときにも使える方法です。

メイン・ボーカルから最後の1語を切り出して、別のトラックでフィードバックが多いディレイを効かせます。歌の一部をそれぞれ違う残響効果を付けたトラックに切り出すことで、カーブを描くよりも自由度が上がることがあります。私はダブワイズするときにこの方法を使っています

メイン・ボーカルから最後の1語を切り出して、別のトラックでフィードバックが多いディレイを効かせます。歌の一部をそれぞれ違う残響効果を付けたトラックに切り出すことで、カーブを描くよりも自由度が上がることがあります。私はダブワイズするときにこの方法を使っています

 次に、同じ方法で語尾ではなく冒頭の1語を別トラックに抜き出し、リバーブをかけます。そしてリバーブのかかった1トラックを単独でオーディオに書き出します。すると、1語がふわっと伸びて減衰するオーディオ・ファイルが出来上がります。

 それをリバースし、ボーカル頭の直前に置きます。すると声がふわ〜っと戻ってきて、冒頭の一語につながるという、リバース・ボーカル飛ばしになるわけです。通常はメイン・ボーカルにかけないほどの深い残響から始めると幻想的になります。これはドラマチックに歌を始めたいときにとても有効です。

上の画像の方法でメインから歌い出しのワンショットを切り出し、深めのリバーブをかけてオーディオ化したものがC_Oneshot(赤枠)。それをリバースしたのがC_Oneshot_Reverse(黄枠)です。途中経過のトラックは使わず、リバースしたものを良い位置に置くことで逆やまびこ的に歌い出しが始まります

上の画像の方法でメインから歌い出しのワンショットを切り出し、深めのリバーブをかけてオーディオ化したものがC_Oneshot(赤枠)。それをリバースしたのがC_Oneshot_Reverse(黄枠)です。途中経過のトラックは使わず、リバースしたものを良い位置に置くことで逆やまびこ的に歌い出しが始まります

 今回紹介したリバースがどの楽器でどれくらいの長さの減衰になると効果的かは、曲によるので、ぜひいろいろなパーツをひっくり返したり、好みの減衰を探してみてください。

 FNCYの7月リリース予定の新曲では、珍しくサンプリングのワンループのみで楽曲を作っています。これまでに紹介したEQテクニックでサンプルに変化をつけたり、今回のような小技を盛り込んで場面展開を構成しています。ワンループでどう展開が作れるか、という挑戦になっているので併せて聴いてみてくださいね。以上、G.RINAでした!

 

G.RINA

【Profile】東京出身のシンガー・ソングライター/プロデューサー/DJ。2003年に作詞曲、演奏、プログラミングを自ら手掛けた1stアルバム『サーカスの娘-A Girl From A Circus-』でデビュー。最新アルバムは『Tolerance』(2021年)。土岐麻子、坂本冬美、tofubeats、BIM、アニメ『キャロル&チューズデイ』など、さまざまなアーティストへの歌詞/楽曲提供、サウンド・プロデュース、リミックスなどを手掛ける。ZEN-LA-ROCK、鎮座DOPENESSとのユニット、FNCYのメンバーとしても活動中。

【Recent work】

『WHITE NIGHT feat.BIM』
G.RINA
(ビクター)
*リバース・ボーカル&飛ばしで始まる楽曲

 

 

 

Ableton Live

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LINE UP
Live 12 Intro:11,800円|Live 12 Standard:52,800円|Live 12 Suite:84,800円

REQUIREMENTS
Mac:macOS 11以降、INTEL Core i5もしくはApple Silicon、Core Audio準拠のオーディオ・インターフェースを推奨
Windows:Windows 10(バージョン22H2)/11(バージョン22H2以降)、INTEL Core i5(第5世代)またはAMD Ryzen、ASIO互換オーディオ・ハードウェア(Link使用時に必要)
共通:3GB以上の空きディスク容量(8GB以上推奨、追加可能なサウンド・コンテンツのインストールを行う場合は最大76GB)

製品情報

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