FL Studio活用術 〜プログレッシブ・ハウス向けのアレンジ&音作りの手法|解説:Shingo Nakamura

プログレッシブ・ハウス向けのアレンジ&音作りの手法|解説:Shingo Nakamura

 みなさん、こんにちは。クラブ・ミュージックの作曲家/DJのShingo Nakamuraです。連載の最終回となる今月は、プログレッシブ・ハウス/メロディック・ハウスに特化したImage-Line FL StudioのテクニックやTipsをご紹介します。ほかのジャンルにも応用できる内容だと思いますので、ぜひご覧ください。

4〜8小節ごとに変化を付けて短い尺の中で展開を生み出す

 “プログレッシブ・ハウス/メロディック・ハウスの定義は?”という話をするとキリがないので、今回はBeatportで“Progressive House”と“Melodic House&Techno”に分類される楽曲を前提に話を進めます。このジャンルの曲を制作する上で考慮すべき点は、長さです。以前はDJ向けの7〜10分のバージョンのみリリースするレーベルが大多数でしたが、現在は音楽ストリーミング・サービスのユーザー向けに、3〜4分ほどのバージョンも発売するレーベルが増えました。このジャンルのだいご味は、長いイントロやブレイクでドラマチックに展開する曲調だと思いますが、その魅力を3〜4分ほどでリスナーに伝えるためには曲の展開をコンパクトにする必要があります。そのために私が意識しているのは、“4〜8小節ごとに変化を加えること”です。

 私の曲を例に解説します。2023年にMonstercat Silkからリリースした「Foggy Morning」は、ストリーミング・サービスでは4分16秒のバージョンが配信されています。この曲の31秒から登場するピコピコしたアルペジオは、ローパス/ハイパス・フィルター、ボリューム、リバーブ、ディレイのオートメーションで、8小節目と16小節目で異なる変化を加えています。また、このアルペジオは16小節間のみ使用し、1分4秒からは別のシンセが登場する8小節間のブレイクに入ります。

筆者が2023年にリリースした楽曲「Foggy Morning」から、アルペジオ・フレーズのPlaylist。Marker #2から、8小節目と16小節目で各パラメーターのオートメーションを変えている

筆者が2023年にリリースした楽曲「Foggy Morning」から、アルペジオ・フレーズのPlaylist。Marker #2から、8小節目と16小節目で各パラメーターのオートメーションを変えている

「Foggy Morning」のピアノ、シンセ、ストリングスのPlaylist。Marker #5からピアノをメインに聴かせるため、2小節ごとにストリングスにクレッシェンド(Strings - Volume)をかけた。また、シンセにローパス・フィルターのオートメーションを書き(Synth - LPF)、動きを付けている

「Foggy Morning」のピアノ、シンセ、ストリングスのPlaylist。Marker #5からピアノをメインに聴かせるため、2小節ごとにストリングスにクレッシェンド(Strings - Volume)をかけた。また、シンセにローパス・フィルターのオートメーションを書き(Synth - LPF)、動きを付けている

 このように私が“4〜8小節ごとに変化を加えること”を意識したのは2021年頃で、以前はもっと時間をかけて展開を作っていました。この点は好みが分かれますし、私自身、“短いバージョンなんて作りたくない!”と考えていた時期もありました。現在は、多くの方にこのジャンルの魅力を伝えるため、短い尺の中でどういった工夫が必要なのか、という課題をポジティブに考えています。

音の存在感を強めるべくホワイト・ノイズをレイヤー

 私の曲はこのジャンルの中では音数が多いほうで、“アトモスフィア系(神秘的で壮大な感じ)”のパッドは5~10個のサンプルをレイヤーすることもあります。加えて上モノのパートもたくさんあるため、気を付けないとリスナーが何を聴いていいのか分からない状態になってしまいます。また、クラブでのプレイを想定すると、そもそも音数は少ないほうがいいでしょう。この問題を解消するための工夫はたくさんあるのですが、今回は“聴いてほしい音を決める方法”をご紹介します。

 「Foggy Morning」を例に解説します。この曲のドロップ(2分56秒)から16小節は、31秒から使用したアルペジオが再びメインで登場し、その後(3分28秒)はアルペジオが消え、別のシンセの音とピアノが現れます。この区間はピアノをメインに聴いてほしいので、シンセはシンプルなフレーズにして、ピアノよりボリュームを小さく鳴らします。また、この区間にはストリングスも登場しますが、ピアノのフレーズが終わった後に主張させるために、2小節ごとにクレッシェンドをかけています。

 ピコピコしたアルペジオは、31秒~とドロップ(2分56秒~)の32小節にしか使用していません。せっかく作ったフレーズなのでもっと使いたいところですが、ほかのパートとの兼ね合いで、登場する小節数を少なくしました。この決断のためには“聴いてほしい音を決める”ことが必要で、音数が多い曲を作るときは常に念頭に置くべき考え方です。

 先述の通り、クラブ・ミュージックは少ない音数で構成するのが理想的ですが、それにより曲の印象が弱くなる場合があり、各パートの音を太くして強調する必要があります。しかしディストーションなどで派手にひずませた音は、このジャンルにはなじまない場合があります。そんなときに重宝するのが、ホワイト・ノイズをレイヤーする方法です。

 使用するのは、FL Studioのすべてのグレードで使用可能なソフト・シンセ、3x Oscです。

FL Studioの付属ソフト・シンセ3x Oscは、3オシレーターのシンプルな構造。今回はレイヤー用のホワイト・ノイズの生成のために使用した。サイン波を用いたサブベースのレイヤーなどにも使い勝手が良い

FL Studioの付属ソフト・シンセ3x Oscは、3オシレーターのシンプルな構造。今回はレイヤー用のホワイト・ノイズの生成のために使用した。サイン波を用いたサブベースのレイヤーなどにも使い勝手が良い

 オシレーターのサイコロの3の目を選択するとホワイト・ノイズが出るので、強調したいシンセと同じフレーズを打ち込んでレイヤーします。3x OscはEnvelope/Instrument SettingsタブでAHDSRやフィルターのパラメーターが操作できるので、イコライザーやリバーブなどほかのエフェクトと併せて、強調したいシンセとなじむよう調整をすれば完成です。ホワイト・ノイズをレイヤーするテクニックは、ジャンルを問わず多くのプロデューサーが使用しています。好きな曲を聴くときなど、ぜひ注目してみてください。

3x OscのEnvelope/Instrument Settingsタブ。Panning、Volume、Mod X、Mod Y、Pitchの5つのタブが用意され、それぞれのAHDSRやFilter、LFOのパラメーターが調整できる。画像はVolumeのパネルを開いているところ

3x OscのEnvelope/Instrument Settingsタブ。Panning、Volume、Mod X、Mod Y、Pitchの5つのタブが用意され、それぞれのAHDSRやFilter、LFOのパラメーターが調整できる。画像はVolumeのパネルを開いているところ

 今回で4回の連載が終了しました。私が愛してやまないFL Studioの記事を執筆する機会をいただき、とてもうれしく思います。作曲を始める方にとってどのDAWを選ぶかは悩ましい問題の1つですが、この連載が少しでもお役に立てたなら幸いです。

 

Shingo Nakamura

【Profile】東京を拠点に活動するプログレッシブ・ハウス/メロディック・ハウスのプロデューサー/DJ。自身の楽曲で構成したミックス・シリーズ『Best of Shingo Nakamura』は、YouTubeで1,000万回以上の再生数を誇る。2023年にベルギーで開催された『Tomorrowland』に出演。2024年10月にMonstercat Silkから最新アルバム『Solace』をリリースした。

【Recent work】

『Solace』
Shingo Nakamura
(Monstercat Silk)

 

 

 

Image-Line Software FL Studio

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LINE UP
FL Studio Fruity:23,100円|FL Studio Producer:40,700円|FL Studio Signature:49,500円|FL Studio Signature クロスグレード:28,600円|FL Studio Signature 解説本PDFバンドル:51,700円|FL Studio クロスグレード解説本PDFバンドル:30,800円

REQUIREMENTS
Mac:macOS 10.15以降、INTEL CoreプロセッサーもしくはAPPLE Siliconをサポート
Windows:Windows 10/11以降(64ビット)、INTEL CoreもしくはAMDプロセッサー
共通:4GB以上の空きディスク容量、4GB以上のRAM

製品情報

hookup.co.jp

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