みなさん、はじめまして。クラブ・ミュージックの作曲、DJをしているShingo Nakamuraと申します。私は20年近くImage-Line FL Studioを愛用しており、リリースしたすべての楽曲をFL Studioで制作しています。連載の第1回では、私がキックとパーカッションをどのように制作しているのかをご紹介します。
キックのリリースを短めで打ち込み、ほかの音色を生かす
FL Studioでは、サンプル音源やオートメーション・クリップのほか、パターンをPlaylistに並べて作曲を進めていきます。パターンとは、Channel Rack上のサンプル音源やシンセ音源を、ステップ・シーケンサーやピアノロールで打ち込んだものを言います。サンプル音源の中でも、ワンショットの素材を使う場合は、FL純正のソフト・サンプラーであるChannel Samplerが非常に便利です。
Browserから好きなキックの音色を選びChannel Rackにドラッグ&ドロップすると、Channel Samplerが起動します。このとき私がよく使う機能が、“Envelope/Instrument Settings”タブにあるEnvelopeとFilterです。Envelopeには、いわゆるAHDSR(アタック、ホールド、ディケイ、サステイン、リリース)のほか、ディレイのパラメーターが用意されています。アタック、ディケイ、リリースについてはTENSIONノブで細かい調整ができます。
キックのエンベロープで私が最も重視しているパラメーターはリリースです。リリースではキックの余韻を調整でき、長くすると“ブーン”という感じの音、短くすると“ドッ”という感じの音になります。私の曲は、中域のシンセやパッドの音数が多く、それらを生かすためにリリースを短めにしています。
次にFilterです。ここでローパス/ハイパス・フィルターなどがかけられます。あとでEQなどで細かい調整を行いますが、この段階で大まかに音作りができるのが非常に便利です。私の場合、キックの高域を少し削るために、ローパス・フィルターのFast LPモードで、MOD X(カットオフ周波数)を90%程度にすることが多いです。
Channel Samplerで素材を調整した後は、ステップ・シーケンサーでパターンを作成し、Playlistに並べます。ハイハットやタムなどもワンショットの素材を使うことが多いので、キックと同じ方法で制作しています。
サンプルでの制作に革命的なオーディオ・クリップ編集機能
また私は、ループ素材もよく使います。まずはBrowserから好きなループ素材を選び、Playlistにドラッグ&ドロップします。すると、Playlistにループ素材の波形が表示され、さらにChannel RackにChannel Samplerが起動します。
最初に行うことは、ループ素材とプロジェクトのBPMを合わせることです。ここで使うのが、Channel Samplerのタイム・ストレッチングです。“Time Stretching”のTIMEノブを右クリックし、“Autodetect…”を選択すると、“Tempo Detection”画面が表示されます。“Type In(BPM)”を選択し、ループ素材のBPMを入力すると、プロジェクトのBPMに合わせることができます。ループ素材を扱う上での注意は、音が鳴るタイミングのズレです。例えば、裏拍でハイハット、2、4拍目でクラップが鳴るループ素材と、重ねて鳴らしたいクラップの別パターンがあり、それらのクラップのタイミングがずれている場合、ループ素材のクラップのみを削除するか、ループ素材のクラップが鳴るタイミングをずらす必要があります。今回は、そのハイハットとクラップで構成されたループ素材のうち、クラップが鳴るタイミングのみをずらす方法を紹介します。
まずは、クラップ部分を切り出します。Playlistのツール・バーからスライス(カッターのアイコン)をクリックし、クラップの音の前後を切ります。
このときに、デフォルトだと16分刻みでしか切ることができませんが、画面上のGlobal Snap Panelを“none”にすることで、より細かく切ることができます。波形でクラップの部分を切り出したあとは、パターンのクラップとタイミングを合わせます。ツール・バーからドロー(鉛筆のアイコン)をクリックして、切った素材を選択したあと、altキー(Macはoptionキー)を押しながら該当部分を移動させます。そのあとは、プチ・ノイズを回避するために、素材の前後にフェード・イン/アウトを加えます。
FL Studio 21で強化されたオーディオ・クリップの編集機能により、Playlist上で簡単にフェード・イン/アウトができるようになりました。
オーディオ・クリップの右/左上に表示されている三角のマークを左右に動かすとフェード・イン/アウトができ、カーブ(フェード・イン/アウトするスピード)の調整も簡単に行えます。また切り出した部分のみゲイン値を変更でき、今回の例だと、クラップのみ音量を大きくするようなことも可能です。この強化はFL Studioユーザーにとって革命的だと思います。実際私も、この機能のおかげで作業効率が向上しました。
次回は、FL Studioのシンセサイザー音源を使用した音色の作り方を紹介いたします。それでは、またお会いしましょう。
Shingo Nakamura
【Profile】東京を拠点に活動するプログレッシブ・ハウス/メロディック・ハウスのプロデューサー/DJ。自身の楽曲で構成したミックス・シリーズ『Best of Shingo Nakamura』は、YouTubeで1,000万回以上の再生数を誇る。2023年にベルギーで開催された『Tomorrowland』に出演。2024年10月にMonstercat Silkから最新アルバム『Solace』をリリースした。
【Recent work】
『Solace』
Shingo Nakamura
Image-Line Software FL Studio
LINE UP
FL Studio 21 Fruity:23,100円|FL Studio 21 Producer:40,700円|FL Studio 21 Signature:49,500円|FL Studio 21 Signature クロスグレード:28,600円|FL Studio 21 Signature 解説本PDFバンドル:51,700円|FL Studio 21 クロスグレード解説本PDFバンドル:30,800円
REQUIREMENTS
Mac:macOS 10.15以降、INTEL CoreプロセッサーもしくはAPPLE Siliconをサポート
Windows:Windows 10/11以降(64ビット)、INTEL CoreもしくはAMDプロセッサー
共通:4GB以上の空きディスク容量、4GB以上のRAM