こんにちは、作編曲家のReku Mochizukiです。前回は“FL Studioを使用したダンス・ミュージック向け制作術”と題して、私のメイン・ジャンルとなるJコアやトランスをはじめとするダンス・ミュージックの制作に触れてきました。今回はIMAGE-LINE Software FL Studioの最新バージョンで正式に実装された機能や、ここ1、2年のマイナー・アップデートで追加された比較的新しい機能を紹介していきます。
YouTubeやSpotify向けもある豊富なAIマスタリングのプリセット
FL Studioの魅力の1つであるライフ・タイム・フリー・アップデート。一度購入してしまえばアップデートの際に追加で料金がかかることはなく、これはメジャー・アップデート(バージョン・アップ)の際でも例外ではありません。新機能やプラグインが実装されるたびに、すぐに試すことができるのはうれしいですよね。
まずはバージョン21で導入されたクラウド型サービスFL Cloudについて。FL Cloudでは、サウンド・ライブラリーが利用できるほか、プラグインの追加やAIマスタリング機能の使用も可能です。AIマスタリング機能ではエクスポートの際に用途を選択することができ、CD向けはもちろん、YouTubeやSpotify向けのプリセットも用意されています。すべての機能を使うには有料プラン(年額13,680円のプランと17,100円のプランあり)を契約する必要がありますが、FLユーザーであれば機能の一部を誰でも無料で試用することができます。ぜひ触ってみてくださいね!
バージョン21では、ほかにも制作効率が向上するようなアップデートがたくさんありました。その中の1つが、オーディオ・クリップ編集機能の改善です。オーディオ・クリップに直接フェード・イン/フェード・アウトの設定を行ったり、音量自体を調整することが可能になりました。驚くほどお手軽で、直接的にかなりの時短につながるうれしい機能です。
また、前回のサンプルの話でも少し触れましたが、主にサンプルの整理においてタグ機能が大いに役立ちます。例えば、特定のジャンルで使いたいキックのサンプルに“任意のジャンル名”と“kick”のタグを設定しておけば、必要なときに目的のサンプルまでスムーズにたどり着くことができます。また、“用途は決まっていないけれど、なんとなく気に入った”というサンプルを見つけたときは、同じくBrowserで使えるFavorite機能が便利です。“☆マーク”をクリックしておけばタグ機能と同様に簡単に呼び出すことができるようになりますので、作業の休憩時間などに整理してしまいましょう!
リミックスに便利なステム抽出機能 コード進行生成ツールは正式搭載
次はステム抽出機能です。これは2ミックスのオーディオ・クリップから文字通りステムを抽出する機能で、“drums”“bass”“instruments”“vocals”に分けてクリップとして書き出すことができます。
使い道として真っ先に思い浮かぶのは、やはりリミックス用途なのではないでしょうか。マッシュアップを作る際にも有用ですね。個人的には楽曲の分析にもかなり使えると感じており、例えばリファレンス楽曲の音源からベースだけを抽出して、参考にするようなこともできてしまいます。
続いては最新のバージョン2024で導入されたコード進行生成ツールの紹介です。ベータ版では少し前から試用することができた機能ですが、先日の大型アップデートに伴いついに正式にリリースされました。
音楽理論はあまり分からないけれど、DAWで作曲をしているという方は意外と多いと思います(私もその1人です!)。そんな方に便利なこの機能は、音楽理論に沿ったコード進行を自動で生成してくれるほか、候補となる(理論的に安心して使用できる)コードを提案してくれる機能も備わっており、手動で入れ替えながらアレンジしていくことも可能になります。生成に際してConventional/Adventurousというパラメーターが用意されており、前者に寄せていくほどシンプルで単純な進行に、後者に寄せていくほど複雑な響きの進行になります。また、プリセットからコード進行のひな型を選択することもできます。
さて、ここまでは音楽制作に直接的に関係のある機能を紹介してきましたが、最後の1つは少しだけ違います。それはバージョン21で追加されたTheme機能です!
ものすごく簡単に説明すると、画面の色をカスタマイズできる機能。実は廃止されていた類似機能の復活という形になりますので、記事の趣旨からは少し外れてしまうのですが、個人的にとても気に入っている機能なのでお許しください。デフォルトが全体的に暗めの色調なので、“Light”系統のプリセットを適用するとガラッと印象が変わります。IMAGE-LINE公式のフォーラム(英語のみ)ではTheme機能に関するトピックがたくさんありますので、ぜひのぞいてみてください。項目ごとにかなり細かくカスタマイズすることができます。心ゆくまでアレンジを楽しんで、音楽制作の気分転換をしましょう!
というわけで、今回は以上です。次回は私のメイン・フィールドである音楽ゲーム向け楽曲の制作に関する内容を予定しております!
Reku Mochizuki
【Profile】株式会社セガ『CHUNITHM』『maimai』『オゲンキ』をはじめとする各種ゲームへの楽曲提供や、電音部イケブクロエリアへの公式リミックス提供など、幅広い分野で活動するフリーランス作編曲家。自身のルーツである同人音楽シーンから強く影響を受けた楽曲を制作している。
【Recent work】
『VVD!! EP』
Reku Mochizuki
Image-Line Software FL Studio
LINE UP
FL Studio 21 Fruity:23,100円|FL Studio 21 Producer:40,700円|FL Studio 21 Signature:49,500円|FL Studio 21 Signature クロスグレード:28,600円|FL Studio 21 Signature 解説本PDFバンドル:51,700円|FL Studio 21 クロスグレード解説本PDFバンドル:30,800円
REQUIREMENTS
Mac:macOS 10.15以降、INTEL CoreプロセッサーもしくはAPPLE Siliconをサポート
Windows:Windows 10/11以降(64ビット)、INTEL CoreもしくはAMDプロセッサー
共通:4GB以上の空きディスク容量、4GB以上のRAM