こんにちは、作編曲家のReku Mochizukiです。普段は、各種音楽ゲームや同人音楽CDへの楽曲提供を中心に、フリーランスで活動しております。第1回では“0からの制作ルーティンとそれに役立つTips集”と題して、アイディアのない状態からいかにして楽曲を生み出していくのか、ご紹介いたしました。続く第2回では“FL Studioを使用したダンス・ミュージック向け制作術”をご紹介! “FL Studioといえばダンス・ミュージック”というイメージを思い浮かべる方は多いと思います。そこで今回は、私のメイン・ジャンルとなる、Jコアやトランスをはじめとするダンス・ミュージックの制作Tipsについて、執筆していきます。
好みのサンプルを瞬時に呼び出せるタグ機能 グルーヴ感を底上げするタイムストレッチ
今回のテーマであるダンス・ミュージックにおいて、とりわけ大切なものといえば、やはりドラムとベースですよね。そんなわけで、まずはドラムのトピックからお話ししていきたいと思います。私の場合、ドラム・パートを組むときは、まずはオーディオ・サンプルをプレイリスト上に直接並べていくことが多いです。通常、この工程では膨大なサンプルの中から1つずつ好みの音を選んでいくことになりますが、ここで大いに役立つのがタグ機能です。
サンプルを右クリックして表示されるメニューの中に“タグ”という項目があり、そちらから使用することが可能。愛用しているサンプルはタグ機能で“お気に入り”しておきましょう! たとえば、トランスで使いたいキックの音であれば[trance]と[kick]のようなタグを設定しておくことで、必要に応じて簡単に呼び出すことができるようになります。
いざリズムを組むと、どこかモッサリしている……とグルーヴ感に悩むことがありますが、これはサンプルのリリースの長さが原因であることが多いです。そんなときは、グリッド・スナップを小さくして、オーディオ・クリップの端を細かく調整し、思い描いたグルーヴ感になるまで地道に調整することが大事です。また、サンプル自体を伸縮させたいときは、タイムストレッチを活用します。楽曲と異なるテンポのループを扱う際に、この機能は特に重宝します。タイムストレッチの設定方法は、まずオーディオ・クリップをダブル・クリックしてChannel Sampler画面を出現させます。
画面右上のタイムストレッチ・セクションから、モードを“ストレッチ Pro”に変更し、TIMEノブを調整すれば、サンプルを自在に伸縮させることができます。Jコアやトランスのような4つ打ちのダンス・ミュージックでは、裏拍をハイハットで支えることが定番ですが、ハイハットの長さをタイムストレッチ機能で適切に調整することで歯切れが良くなり、一気にあか抜けた印象になります! また、ボーカル・サンプルなどを扱う際は、モードを“ストレッチ Pro”に変更することで、フォルマントの調整も可能に。例えば、声ネタがうまくトラックになじまないときは、こちらで調整してみるのもよいでしょう。
手持ちのオーディオ・サンプルで良いものが見つからなかった場合、バージョン21.2で導入されたFL Cloudというクラウド・サービスがお薦めです。
プラグインの追加やAIマスタリングなど、さまざまな機能を有するFL Cloudには、SOUNDSというサウンド・ライブラリーがあり、FL Studioの内部で直接サンプルをダウンロードすることができます! 直感的な操作でサウンドを絞り込むことができるので、目的のサンプルをすぐに見つけられるでしょう。
裏拍でベースを鳴らす昔ながらの手法 サイドチェインを用いてノリを生み出すスタイル
続いては、ベースについてのお話です。私が得意とするJコアやUKハードコアなどのジャンルでは、大きく分けて以下の2種類のベースの打ち込み方があります。
①裏拍にノートを置いて鳴らす昔ながらのスタイル
②サイドチェインを使って裏拍で鳴らすスタイル
前者はオーソドックスな手法で、とても分かりやすいですね。ハキハキとした鳴り方が特徴的です。ただし、そのままでは地味な印象になってしまうことも多いので、先ほどのドラム・トピックでお話ししたことと同様に、ノートの長さを適切に調整するような工夫が必要です。
後者は表拍のキックをトリガーにダッキングを行い、音をへこませてグルーヴを作るやり方です。スレッショルドやレシオなどのパラメーターの工夫次第で独自のノリを生み出すことができ、楽しいです。
どちらの打ち込み方にもそれぞれの良い点があり、最終的にどのスタイルを選ぶのかは趣味嗜好(しゅみしこう)によるところが大きいので、一概にどちらのほうが優れているとは言えません。あなたはどちら派ですか?
スマートフォンなどのスピーカーでも低域のパワーを実現できるLow Lifter
さて、ダンス・ミュージックにおけるベースは、ドラムと並んでとても重要な存在ですが、再生環境によって聴こえ方が大きく変わってしまうので、上手にコントロールするのがとても難しいですよね。昨今、スマートフォンのスピーカーで音楽を聴くことは珍しくありませんが、低域の再生が得意ではないデバイスにおいて、サブベースの存在感はほとんどないと言っても過言ではありません。クラブで鳴ることを想定してミックスしたものの、一般的なリスニング環境で再生したときにベースの迫力が損なわれてしまう……そんなふうに日々ベースの鳴りに頭を悩ませるダンス・ミュージックのクリエイターの方々に今回ご紹介したいのが、最新バージョンのFL Studio 2024にて新たに追加されたプラグイン、Low Lifter(FL Studio Signatureエディション以降に付属)です。
低域に倍音を追加できるLow Lifterを用いて存在感を強調することで、低域の再生が得意ではないデバイスでも、ローエンドのパワーを感じられるようになるでしょう。パラメーターの数は最小限にとどめられており、ユーザビリティに優れたシンプルなUIなので、複雑な操作は必要ありません。まさに、夢のようなプラグインですね。周波数のグラフでサウンドの変化が視覚的に分かりやすく、かかり具合も強力で効果が実感しやすいので、今後の制作で大いに活躍してくれそうな気がしています。
そんなわけで、第2回は以上となります。Jコアやトランス以外のダンス・ミュージックにも応用できるかと思いますので、ぜひ試してみてください。それではまた次回!
Reku Mochizuki
【Profile】株式会社セガ『CHUNITHM』『maimai』『オンゲキ』をはじめとする各種音楽ゲームへの楽曲提供や、電音部イケブクロエリアへの公式リミックス提供など、幅広い分野で活動するフリーランス作編曲家。自身のルーツである同人音楽シーンに強く影響を受けた楽曲を制作している。
【Recent work】
『B.R.G. EP』
ブラック・ラビッツ・グリモワール
Image-Line Software FL Studio
LINE UP
FL Studio 21 Fruity:23,100円|FL Studio 21 Producer:40,700円|FL Studio 21 Signature:49,500円|FL Studio 21 Signature クロスグレード:28,600円|FL Studio 21 Signature 解説本PDFバンドル:51,700円|FL Studio 21 クロスグレード解説本PDFバンドル:30,800円
REQUIREMENTS
▪Mac:macOS 10.15以降、INTEL CoreプロセッサーもしくはAPPLE Siliconをサポート
▪Windows:Windows 10/11(64ビット)、INTEL CoreもしくはAMDプロセッサー
▪共通:4GB以上の空きディスク容量、4GB以上のRAM