はじめまして、作編曲家のReku Mochizukiと申します!各種音楽ゲームや同人音楽CDへの楽曲提供を中心に、フリーランスで活動しております。第1回では“0からの制作ルーティンとそれに役立つTips集”と題して、アイディアのない状態からいかにして楽曲を生み出していくのか、その方法を制作に役立つTipsとともにご紹介いたします!
波形の色で帯域が分かる“カラフルな波形” サンプルのテンポ調整に有用なタイム・ストレッチ
普段、自分が0から楽曲制作を行う際、大きく分けてこれから述べる3つのパターンから進めていくことが多いです。
①ドラム・パートから構築
まず、最も多いのがこのパターン。ダンス・ミュージックを構成する要素の中でも、根幹ともいえるドラム・パートをしっかりと固めてから制作に臨めるところが利点です。自分の場合、ドラム・パートを作る際は、サンプルをプレイリスト上に直接並べていきながら骨組みを構築していきます。サンプル選びをする際に便利なのが、FL Studio 21.2から新たに実装された“カラフルな波形”。
これは、オーディオの周波数帯域に合わせて波形の色を任意に設定でき、プレイリストに波形をインポートすると自動的に色分けしてくれる機能。帯域ごとに自分のイメージに合った色を設定すれば、ループ・サンプルからワンショットをサンプリングするときなどに目星を付けやすいので、より効率的に制作できるようになりました。
早速、サンプルをプレイリストに並べていきましょう。FL Studioでは、プレイリストのトラックとミキサーのトラックは、デフォルトではひも付かない仕様のため、トラックごとにEQを調整したり、エフェクトをかける際は、ミキサーの各トラックへそれぞれの音を割り当てる必要があります。このとき、“キックはトラック1”のように、自分なりのルールに従って割り当てておくと、時間が経ってからプロジェクトを開いたときに分かりやすいのでお勧めです。
サンプルのテンポをプロジェクトと合わせたい場合は、タイム・ストレッチ機能が有用です。オーディオ・クリップの左上にある波形マークを右クリックして、メニューから“テンポに合わせる”を選択し、“Type in (BPM)”でプロジェクトのテンポを入力することで簡単に合わせることができます。
また、FL Studioにはステップ・シーケンサーという機能が備わっており、こちらを活用することで直感的かつスピーディにドラム・パートを制作できます。0から組んでみたいけれどハードルが高くて難しい……という初心者の方にはうれしい機能なのではないでしょうか。
メロディのスケッチに重宝するスケール・ハイライト 初心者にもお薦めのStamp機能
②メロディのスケッチから制作
次に多いのが、このパターンです。ベース・ラインとメイン・メロディを思いついたままにピアノロール上に打ち込んでいき、そこから展開を練っていきます。FL Studioは、ピアノロールの使い勝手がとにかく優れており、メロディの試行錯誤をストレスなく行うことができるのが強みです。スケールが決まっている場合は、スケール・ハイライト機能が便利。
ピアノロール上部の音符マーク(♪)を右クリックして“ルートノート”からキーを選び、適用したいスケールの種類を選択すると、選択したスケールの音が強調表示されます。一般的に広く使用されているスケールの大半は網羅されているので、その点で困ることはないでしょう。
また、FL StudioにはMIDIの入力をサポートしてくれるStampというありがたい機能も用意されています。
コードの種類を選択してからピアノロール上でルートの位置にノートを置くと、一瞬で選択したコードが生成されます。音楽理論がどうしても苦手……という方は、ぜひ一度試してみてください。かくいう私もその一人です!
さて、曲作りが進んでいくと、同じコードに対して複数のアイディアが浮かぶといった局面が出てくるかと思います。そんなときに便利なのが、複数のプレイリストを切り替えられる“アレンジメント”機能。
この機能を活用すれば、1つのプロジェクト・ファイル内で複数のスケッチを行うことができます。自分はこの工程で、FL Studioに標準搭載のピアノ音源FL-Keysを愛用しています。デフォルトの音がとてもシンプルで軽やかなので、メロディのスケッチには持ってこいです。
いきなりメロディを考えるなんて……と不安に思った方もいらっしゃるかもしれませんが、スケッチは必ずしもフル尺である必要はなく、最初は8~16小節程度のものでいいと思います。徐々に編曲を進めながら、根気強く発展させていけば、自然と曲と呼べる長さになっていくと思います。
音色からインスピレーションを得てマンネリを打破する
③音色からアイディアを得る
最後に紹介するのが、音色からインスピレーションを得て作り進めていくパターンです。まずは、SytrusやFLEXのような膨大なプリセットを有する付属のソフト・シンセを立ち上げ、これだ!という音色を見つけるところから始めます。音色が決まったら、あとはそのサウンドから得たイメージやアイディアをどんどんと形にしていきます。例えば“こんなフレーズが合いそう”“こんな音色と相性が良さそう”といった感じです。何もない状態から作りはじめるよりもサクサクと進むことが多く、制作が少しマンネリ気味なときは、このパターンを採用しています。
もちろん、ソフト・シンセの音色だけではなく、サンプルの音色からインスピレーションを得るという手段もあります。最初にご紹介した、ドラム・パートから構築するパターンでも同じような効果が期待できますし、ループなどのメロディックなサンプルであれば、音色だけではなくフレーズからもアイディアを得ることができるでしょう。このパターンの利点として、上述した通りマンネリを打破しやすいという点が挙げられます。自分の手癖に飽きていたり、思うように筆が進まず困ったときは、一度試してみてはいかがでしょうか。思いもよらない自分の新たな一面を見つけることができるかもしれません。
そんなわけで、初回は以上です。次回は、普段私が制作しているJ-CORE、トランス向けの制作術を予定しています。それでは、また次回もよろしくお願いいたします!
Reku Mochizuki
【Profile】株式会社セガ『CHUNITHM』『maimai』『オンゲキ』をはじめとする各種音楽ゲームへの楽曲提供や、電音部イケブクロエリアへの公式リミックス提供など、幅広い分野で活動するフリーランス作編曲家。自身のルーツである同人音楽シーンに強く影響を受けた楽曲を制作している。
【Recent work】
『B.R.G. EP』
ブラック・ラビッツ・グリモワール
Image-Line Software FL Studio
LINE UP
FL Studio 21 Fruity:23,100円|FL Studio 21 Producer:40,700円 |FL Studio 21 Signature:44,000円|FL Studio 21 Signature クロスグレード:28,600円|FL Studio 21 Signature 解説本PDFバンドル:51,700円|FL Studio 21 クロスグレード解説本PDFバンドル:30,800円
REQUIREMENTS
▪Mac:macOS 10.15以降、INTEL CoreプロセッサーもしくはAPPLE Siliconをサポート
▪Windows:Windows 10/11以降(64ビット)、INTEL CoreもしくはAMDプロセッサー
▪共通:4GB以上の空きディスク容量、4GB以上のRAM