みなさん、こんにちは。ハードダンスのプロデューサー/DJのKombです。Image-Line FL StudioのTipsの中から、今月は“ビルドアップ”に焦点を当ててお伝えしていきます。
シンセやスネアロールはオートメーションで音量を下げる
今回は、ダンス・ミュージックに欠かせないビルドアップについて、普段僕が行っている処理や考え方を共有します。ロング・フィル系のループ素材や、ライザー/スウィープ・アップ系のFXサンプルなどを使うだけでもビルドアップは成立しますが、細部に手を加えることでその後のドロップが格段に映えるようになるので、ぜひトライしてみてください。
ビルドアップは、各パートのピッチが上がり音の密度も高まってくるため、高域が耳につきやすくなります。僕はその対策として、各シンセやスネア・ロールに−3〜−6dBほど音量が下がるオートメーションを書いています(メイン・シンセにはローパス・フィルターもかけます)。たまにコンプをかけた後のマスター・チャンネルの音量をオートメーションで下げている楽曲もありますが、そうするとビルドアップのダイナミクスが失われ、個人的にあまり好みではありません。少し手間はかかりますが、トラックごとに調整することで、より自然な仕上がりが得られます。
ビルドアップ用のプラグインとしては、ダダ・ライフ監修のDADA LIFE Endless Smileが非常に便利。ワンノブでリバーブ、ディレイ、ローカット・フィルターなどの効果を一括で得られます。
バスでかける人が多いですが、音がぼやけやすくなるため、僕は主にシンセやボーカルにインサートでかける程度にとどめています。プリセットには効果が強すぎるものもありますが、“Fist in the Air”や“No Limit”など、比較的控えめなものが扱いやすいと思います。最大が30~40%辺りになるように設定するのがちょうどいいでしょう。
また、ブレイクで使用したサブベースを生かすのも効果的です。サブベースのピッチを1オクターブ上げるようにオートメーションを設定すると、フロアで聴いたときに音が下から上へと持ち上がっていくようなサウンドが生まれるのでお勧めです。加えて、マスター・チャンネルに100Hzまでローカットするオートメーションを書けば、ドロップの1発目のキックに迫力が出ます。
徐々に音をモノラルに寄せていきドロップの瞬間でステレオに
リード・シンセなどの主役級のパート、特に音像が広めのものに関しては、音量だけでなくステレオ感もオートメーションで調整します。FL付属のステレオ増強プラグインFruity Stereo Enhancerを挿し、STEREO SEPノブをマイナスの方向に回すオートメーションを書くと、ビルドアップの盛り上がりと共に音がモノラル寄りに。ドロップでステレオ感を解放すれば、その瞬間にインパクトがより強調されます。
ちなみに、マーティン・ギャリックスとのコラボ経験もあるプロデューサーのジャスティン・マイロは、マスター・チャンネルのStereo Separationノブ自体にオートメーションをかけていたとか。さすがにそこまでやるとやりすぎだと思いますが(笑)。
さらにドロップのインパクトに関連した話をお伝えすると、キックの直前にリバースさせたキックのサンプルを仕込むのも非常に有効です。キックのオーディオ・クリップ左上の波形マークをクリック→Audio clip→Make uniqueを選択→複製したサンプルをダブル・クリック→Precomputed effectsタブのReverseを押すだけで簡単に作成できます。
僕はこれを元のキックとは別のミキサー・チャンネルにコピー&ペーストし、音量を−3〜−6dBほど下げて、50Hz付近をローカットするようにしています。さらに、リバースしたサンプルの後ろ側をフェード・アウトさせ、元のキックのアタック部分にかぶらないようにカットすると、より自然になじみます。このテクニックは、最近流行しているハイパー・テクノ系の楽曲でも多用されていますが、ジャンルを問わず活用できるので、積極的に取り入れてみましょう。
また、展開やドロップのインパクトを作る目的で、ドロップの1拍目にクラッシュ・シンバルを置くテクニックも定番となっていますが、音数の少ないベース・ドロップでは、逆にクラッシュの主張が強くなりすぎることがよくあります。その場合はクラッシュを置かず、前述のFruity Stereo Enhancerでモノラル化したホワイト・ノイズを1/2~1拍分だけ配置すると良いアクセントになります。ベース・ドロップはモノラル気味のサウンドになりやすいため、ホワイト・ノイズ自体もモノラルにすることで全体のバランスが整いやすくなります。ドロップの展開によっては、このホワイト・ノイズでリズムを刻むのも面白いので、ぜひ試してみてください。
今回は、ビルドアップに関するテクニックを中心に解説いたしました。ほんのひと手間加えるだけで、楽曲全体のクオリティがグッと上がるので、ぜひやってみましょう。次回は、FL 付属のEdisonを活用したTipsを中心に、さらなるクオリティ・アップのためのテクニックを紹介します。また来月お会いしましょう!
Komb
【Profile】東京を拠点に活動するハードダンスのプロデューサー/DJ。Spinnin’ Records傘下のレーベルやBarong Familyなど海外の人気レーベルからリリースを重ねる。2023年、Tatsunoshinと共に、“ウッーウッーウマウマ(゚∀゚)”でおなじみの「Caramelldansen」の公式リミックスを行い話題に。2024年には『Ultra Korea』へ出演を果たした。
【Recent work】
『come again(Whac-A-Me Remix)』
m-flo
(RHYTHM ZONE)
5月28日リリース
Image-Line Software FL Studio
LINE UP
FL Studio Fruity:23,100円|FL Studio Producer:40,700円|FL Studio Signature:49,500円|FL Studio Signature クロスグレード:28,600円|FL Studio Signature 解説本PDFバンドル:51,700円|FL Studio クロスグレード解説本PDFバンドル:30,800円
REQUIREMENTS
Mac:macOS 10.15以降、INTEL CoreプロセッサーもしくはAPPLE Siliconをサポート
Windows:Windows 10/11以降(64ビット)、INTEL CoreもしくはAMDプロセッサー
共通:4GB以上の空きディスク容量、4GB以上のRAM