キック&ベース低域処理術|100Hz帯域の重要性とFL Studio活用Tips

正攻法に捉われずに理想の低域を作るプラグイン術|解説:Komb

 皆さん、こんにちは。ハードダンスのプロデューサー/DJのKombです。今月は、キックやベースを中心とした低域に対する考え方や、処理に関するTipsを紹介します。

100Hz周辺にも気を配るベース・サウンドの作り方

 僕は高価なスタジオ環境やスピーカーを持っておらず、聴力が特別優れているわけでもないので、低域に関してはメーターやスペクトラム・アナライザーを活用し、視覚的な情報を基に処理しています。スペアナは主にプラグインのIK MULTIMEDIA Meteringを使用しています(僕が使っているのは旧バージョンのT-RackS Custom Shop Meteringですが、現行のバージョンでも使用感は変わらないと思います)。

 個人的には曲線状のスペアナは低域が見づらい印象があるので、棒グラフ状に表示できるスペアナを使うのがお勧めです。

 ベースでは50Hz周辺の超低域の重要性がよく知られていますが、僕はその1オクターブ上の100Hz周辺も同等かそれ以上に重要だと考えています。この帯域はサブウーファーなしのスピーカーやイヤホンでもある程度認識できるため、ベースの存在感を左右します。スペアナで見たときに100Hz周辺が不足している場合、Image-Line Software FL Studio(以下FL)純正のシンセ3x Oscなどでサイン波をレイヤーすると効果的であることが多いです。

筆者愛用のメーター・プラグインIK MULTIMEDIA T-RackS Custom Shop Metering。上は100Hz周辺が足りないベースの画面で下がFL付属のソフト・シンセ3x Oscで作ったサイン波をレイヤーした画面。各画面右のスペアナを見ると、100Hz周辺が持ち上がっているのが分かる(赤枠)

筆者愛用のメーター・プラグインIK MULTIMEDIA T-RackS Custom Shop Metering。上は100Hz周辺が足りないベースの画面で下がFL付属のソフト・シンセ3x Oscで作ったサイン波をレイヤーした画面。各画面右のスペアナを見ると、100Hz周辺が持ち上がっているのが分かる(赤枠)

 ただし、オンビートで使われるROLAND TR-808系ベースやハウス系トラックで使われる一部ベースなどでこの手法を使うと、音の主張が強くなりすぎて破綻する場合があるので注意しましょう。

 サイン波をレイヤーしてもうまくいかない場合は、オートメーションでピッチを1オクターブ上げる箇所を作ると、100Hz周辺を一時的に補いながら楽曲のメリハリを強調できるので非常に効果的です。プロデューサーのKnock2に代表される、近年のベース・ハウスやトラップを参考にするといいでしょう。もちろん音作りの段階でFL付属のFruity Blood Overdriveのようなディストーション系プラグインやXFER RECORDS OTTなどのマルチバンド・コンプをかけておくことも大切です。

 スペアナで見る周波数だけでなく、音像にも気をつけなければなりません。ちまたにあふれているDTM教本にはよく“ベースはモノラルにすべき”と書かれていますが、僕は150Hz以下をモノラルにしつつ、それ以上の帯域はあえて適度なステレオ感を持たせています。そうすることで、クラブ環境での迫力は保ちつつ、一般的なリスニング環境でのベースの存在感と立体感を上げることができます。実際、昨今の海外のトップ・アーティストたちも、ステレオ感のあるベースを使用することが多い印象です。ベースの種類にもよりますが、僕はフリー・ダウンロード可能で位相の問題を起こさない擬似ステレオ・ワイドナーPOLYVERSE Wider 2で少し音像を広げることが多いです。具体的には、“LOW BYPASS”を150Hz、“Amount”を5~15%に設定しています。ステレオ感のあるサンプルをローカットしてレイヤーするのもお勧めです。

POLYVERSE Wider 2は、モノラル信号のステレオ・イメージを最大200%広げることが可能なフリー・プラグイン。筆者はベースの存在感を高めるために利用している

POLYVERSE Wider 2は、モノラル信号のステレオ・イメージを最大200%広げることが可能なフリー・プラグイン。筆者はベースの存在感を高めるために利用している

帯域ごとの音量調整にMaximus キックを締めるオートメーション

 ベースの音作り用プラグインの後段にはFL付属プラグインMaximusを挿しています。ここではマルチバンド・コンプとしては使わず、帯域ごとの音量調整のために使用します。リアルタイムで波形を見ながら各帯域の音量調整ができるので非常に便利です。次の画像のように、LOW/MID/HIGH/MASTERすべての“Compression Envelopes”を1:1の直線にしてコンプを無効にし、画面右下の“LOW”を100Hz、“HIGH”を500Hz、“LOW CUT”をOffにしておきます。

FL付属のマルチバンド・コンプMaximus。筆者はベースの音作りのときに、帯域ごとの音量調整のために活用している。その際は全帯域のCompression Envelopes(赤枠)を直線にし、PREのゲインで音量を調整する

FL付属のマルチバンド・コンプMaximus。筆者はベースの音作りのときに、帯域ごとの音量調整のために活用している。その際は全帯域のCompression Envelopes(赤枠)を直線にし、PREのゲインで音量を調整する

 この状態で各帯域の“GAIN”のPREノブを操作すれば、帯域ごとの純粋な音量調整が可能です。Maximusで音量調整した後はマスターの音量がクリップしがちなので、WAVES L2 UltramaximizerやSONNOX Oxford Inflatorを後段に挿してレベル・オーバーを防いでいます。

 キックに関しては、リリースが短く、スペアナ上で見て50Hz周辺がしっかり出ているものを選びます。EQで50Hz周辺を少し持ち上げるのもアリです。ただし、EQで低域をブーストするとキックのリリースが伸びてしまうことが多いため、キックのミキサースロットの最終段にボリュームやパンの調整ができるFL付属プラグインFruity Balanceを挿し、次の画像のようにボリューム・オートメーションを書いてリリースの最終調整をします。

Fruity Balanceの“Volume”でキックのリリースを調整しているところ。筆者は1/2拍で0dBになるようオートメーションを書くことで、タイトに聴こえるように工夫している

Fruity Balanceの“Volume”でキックのリリースを調整しているところ。筆者は1/2拍で0dBになるようオートメーションを書くことで、タイトに聴こえるように工夫している

 このとき、僕はいつも1/2拍でボリュームが0dBになるようにオートメーションを書いています。なお、リリースを抑えた別のオートメーション・クリップを用意しておくと、Extended Mixのイントロやアウトロ部分でよく使われる、低域を抑えたキックを簡単に作成できるので便利です。

 今回は、僕が普段キックやベースで意識しているところや、処理に関するTipsを紹介しました。あまり一般的でない手法も幾つかお話ししましたが、ぜひ一度お試しいただけるとうれしいです。次回は、クラブ・ミュージックにおいて重要なビルドアップに関するテクニックを紹介します。また来月お会いしましょう!

 

Komb

【Profile】東京を拠点に活動するハードダンスのプロデューサー/DJ。Spinnin’ Records傘下のSINPHONYやBarong Familyなど海外の人気レーベルからリリースを重ねる。2023年、Tatsunoshinと共に、“ウッーウッーウマウマ(゚∀゚)”でおなじみの「Caramelldansen」の公式リミックスを行い話題に。2024年には『Ultra Korea』へ出演を果たした。

【Recent work】

『Warning』
Sikdope & Komb
(SINPHONY)

 

 

 

Image-Line Software FL Studio

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LINE UP
FL Studio Fruity:23,100円|FL Studio Producer:40,700円|FL Studio Signature:49,500円|FL Studio Signature クロスグレード:28,600円|FL Studio Signature 解説本PDFバンドル:51,700円|FL Studio クロスグレード解説本PDFバンドル:30,800円

REQUIREMENTS
Mac:macOS 10.15以降、INTEL CoreプロセッサーもしくはAPPLE Siliconをサポート
Windows:Windows 10/11以降(64ビット)、INTEL CoreもしくはAMDプロセッサー
共通:4GB以上の空きディスク容量、4GB以上のRAM

製品情報

hookup.co.jp

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