こんにちは。音楽プロデューサー/DJのDJ PMXです。自分は普段からImage-Line Software FL Studioをヒップホップやトラップの制作に用い、現在はFL Studioの最新版=バージョン21.2をAPPLE MacBook Proにインストールしています。前回の“お薦めインストゥルメント”紹介に続いて、今回はFL Studioに付属する数多くのプラグイン・エフェクトの中から、お気に入りのものを紹介したいと思います。
ユニークなマルチエフェクトGross Beat 残響成分も調節できるTransient Processor
まずは、Gross Beat。
入力したサウンドにスタッター/スクラッチ/ゲート/リピート/グリッチといった、ボリュームやピッチを変化させる効果を与えられるマルチエフェクトです。Signatureエディションに付属しています。ユニークなサウンドを簡単に作ることができるので、ぶつ切りにしたり、スクラッチしたりと、自分は飛び道具のような用途で使うことが多いですね。各トラックで使用してもいいですし、マスター・トラックで使用するのも面白いと思います。
Gross Beatでよく使うプリセットの一つがGate。Gateだけでも多様なパターンが用意されているので、場面に応じてこだわりのチョイスが可能です。ホワイト・ノイズが徐々に立ち上がってくるレーザー・サウンドのようなFX音に、スタッター効果をかけるといったトラップでよくある手法も、Gateならすぐに実現できます。
Gateと同じくらいよく用いるのが1/2 Speedです。その名の通り、適用したサウンドのBPMが半分になります。単純にBPMが半分になるだけでなく、音の解像度が良い意味でぼやけた質感になり、音程は1オクターブ低くなります。これは、トラップ・シーンの人たちがよく使っている印象で、実際に試してみたら確かに面白いなと思いました。ピアノなどのウワモノに使用して、独特の質感を付与するのもいいですね。BPMが半分になるため、打ち込んだMIDIは適宜前にずらすなどして調節しましょう。
次に挙げるのは、FL Studio 21 All Plugins Bundleのみに付属している、Transient Processor。
これは名前の通りトランジェントを調節するもので、キック、スネア、クラップなどの音色によく使います。とてもシンプルな操作子で、ATTACKとRELEASEを調節するだけでも、狙った音にスムーズにたどり着くことができます。画面下のディスプレイで波形がチェックできるので、目と耳の両方で音を作り込めるという点もお気に入りです。
それでは実際の使用例をご紹介します。楽曲制作をしているとき、サンプルにもともと含まれているリバーブがうるさくて、使うのを諦めた……こういった経験が皆様も一度はあるかと思います。そんなときに役立つのが、Transient ProcessorのRELEASEです。これを左に回すだけで残響成分が短くなり、いい感じに調節できます。少々邪道かもしれませんが(笑)、こういった使い方もアリだと思います。
直感的に操作できるEffector モコモコ感がたまらないPHASER
3つ目に紹介するのは、全エディションに付属するEffector。
X/Y軸のパッド上でカーソルを動かしながら、エフェクトのかかり具合を直感的に操作できます。エフェクトは、ドラッグしている間のみ適用される仕組みです。往年のコンパクト・エフェクターにどこか近い雰囲気ですね。12種類のエフェクトが用意されていて、特に面白いなと思ったのがPHASER(フェイザー)です。ドラム/ベース以外の上モノに取り入れてみたところ、エフェクトをかけたときの音のモコモコ感がたまりません。カーソルを下まで動かすとかなり強烈にかかってくれるので、予想外の効果を楽しみつつ、遊びながら制作に取り入れるのがお勧めのエフェクトです。
4つ目に紹介するのは、Signatureエディションに付属するPitcher。
これは、ずばりピッチ補正エフェクトです。ピッチ補正のエフェクトまで付属プラグインとして用意されていて、本当になんでもあるのだな……と驚きました。さて、使い方は実に簡単。キーとスケールを指定し、SPEEDノブでピッチ補正速度を調整して、好みのかかり具合に調節するだけ。いわゆる“ケロケロ”した感じにもできますし、もちろんナチュラルなかかり具合にも調節可能です。MIDIでのコントロールや、FORMANT(フォルマント変更)などを用いて、一歩踏み込んだサウンド・メイクも可能です。
自分の場合は、ボーカルのピッチ補正だけでなく、付属ソフト・サンプラーのSlicexで作ったボーカル・チョップにも使っています。ピッチ補正が適用されることで、どこか不思議な響きを得られるので、ぜひ試してみてください。
シンプルで使いやすいFruity Filter 7バンドのFruity Parametric EQ 2
最後はFruity Filter。
一般的なDJミキサーに搭載されているようなものと近いシンプルな仕組みで、とても使いやすいところが魅力です。例えば、ヒップホップなどでよくある、イントロ部分でトラックにかけたローパス・フィルターのカットオフを徐々に開けていくといった手法をささっと作れます。また、曲の展開に応じてカットオフのオートメーションを書くことで、明るくしたり暗くしたり、曲の雰囲気にグラデーションを付けることができます。ここまで紹介してきたように、“これがあったらいいな”と思うものがすべてそろっているので、FL Studioの内蔵エフェクトだけで十分に楽曲制作を完結することができると思います。
今回は文字数の関係でほんの一部しか紹介することができなかったですが、コンプやEQ類ももちろん豊富にそろっています。例えば、全エディションに付属するFruity Parametric EQ 2は、スペクトラム・アナライザー機能だけでなく、周波数ごとのサウンドの強弱を色の濃さでチェックできるHeatmap機能が付いていたり……かゆいところに手が届くだけでなく、一歩先を行く非常に素晴らしいものばかりが用意されています。
前回紹介した数多くのインストゥルメントだけでなく、これだけフル・サービスのプラグイン・エフェクトを内蔵しているFL Studioは、これからDTMを新たに始めようと思っている人には持ってこいだと思います! また、既に楽曲制作をしている方々にも、この万能性をぜひ味わってみていただきたいですね。それでは来月もよろしくお願いいたします!
DJ PMX
【Profile】日本にウエストコースト・ヒップホップを広めた第一人者であり、ジャパニーズ・ヒップホップのプロデューサー/DJ/洗足学園音楽大学客員教授。日本のヒップホップが産声を上げた1980年後半から数多くのアーティストをプロデュース。アメリカ西海岸のヒップホップの影響を受け、ジャパニーズ・ウエストコースト・ヒップホップのスタイルを構築。現在、5作目のアルバム『THE ORIGINAL V』を制作中。
【Recent work】
「THE ORIGINAL IV』
DJ PMX
(ユニバーサル)
Image-Line Software FL Studio
LINE UP
FL Studio 21 Fruity:22,000円|FL Studio 21 Producer:37,400円|FL Studio 21 Signature:44,000円|FL Studio 21 Signature クロスグレード:26,400円|FL Studio 21 Signature 解説本PDFバンドル:46,200円|FL Studio 21 クロスグレード解説本PDFバンドル:28,600円
REQUIREMENTS
▪Mac:macOS 10.13.6以降、INTEL CoreプロセッサーもしくはAPPLE Silicon M1をサポート
▪Windows:Windows 10/11以降(64ビット)、INTEL CoreもしくはAMDプロセッサー
▪共通:4GB以上の空きディスク容量、4GB以上のRAM