前回は曲を作りはじめる前段階でsteinberg Cubaseをインストールしてすぐ行う設定について解説しました。今回は、制作をストレスなく行うためのワークフロー構築について、引き続き紹介していきたいと思います。
使う頻度が高いものを選び必要最低限のショートカットを設定
まずは、打ち込みをするときにお勧めのショートカット設定をご紹介します。
ショートカットを作るときに大事なポイントは“必要最低限にとどめること”です。いきなりたくさんのショートカットを作るとかえって混乱の原因になります。そして、設定にあたって重要なのは、自分が頻繁に使用する機能のみに焦点を当てることです。何十回と実行する操作は、必ずショートカットに割り当てるようにしましょう。
またCubaseをはじめ、多くのDAWは右手でマウスを操作することが多いため、人間工学の視点からも左手の可動範囲でショートカットを割り振ることがお勧めです。もっとこだわりたい場合、Cubase Proでは“マクロ”や“ロジカルエディター”を使って複雑な操作を設定することも可能ですが、今回は最低限の説明のため割愛します。
これだけは設定したほうがいいと思う最低限のショートカットを幾つかピックアップしました。どれもデフォルト設定ではショートカットに割り当てられていないものばかりです。
●MIDI編集中に別のパートに切り替える
複数のパート(楽器)があるMIDIをピアノロール・エディターで開いた際に、編集したいパートを素早く選択することができます。
●VSTインストゥルメントの編集
トラックを選択した状態でショートカット・キーを使い、インストゥルメント画面を表示します。これは音源設定にあたってよく使う操作の1つです。なお、ここでは“Shift+E”に割り当てています。インストゥルメントなので本当は“Shift+I”に割り当てたかったのですが、左手で完結できない操作は除外します。
●CC(コントロール・チェンジ)をリセット
僕は“すべてのコントロール・データを削除”を“Ctrl+Alt+Shift+E”に割り当てています。こちらはレコーディング用の譜面作成のときに重宝します。譜面作成ソフトに余計なコントロール・チェンジ情報が入らないように一括でリセットする際にも役立ちます。
●インサートエフェクトをすべてバイパス
“バイパス:Inserts”は“Alt+Shift+E”に割り当てていて、これは自分で曲をミックスするときに役立ちます。エフェクトを全部バイパスし
てエフェクトオンとオフの状態を両方確認するときに使用しています。
今回紹介したのはほんの一部ですが、慣れてきたら少しずつ必要なショートカットを追加してみてもいいと思います。
音量調整はフェーダーよりプリゲインで行う
制作を行う際、いろいろな音源ソフトを立ち上げると思います。音量は音源によってさまざまですが、それらをチャンネルフェーダーを使ってコントロールしてしまっていませんか? できればフェーダーを触らずに、信号がチャンネル・ストリップに入る前の段階で音量を調整できるプリゲインを使って、音量をある程度そろえられたほうが後々便利です。
音量はミックスのときに考えることでは?と思う方もいるかもしれませんが、制作時にもとても重要です。特に僕の場合、シンセ以外にもオーケストラ音源を多数使うため、各楽器の音量を使いやすいようにあらかじめ調整しておくとストレスなく制作を進められるので、すごく重要だと思っています。
また、プリゲインでレベルをそろえることで、作曲時に各音源の音量を自分の意図に沿って設定できるという利点があります。ソフト・シンセ側のボリュームで調整できるので不要と思われた方もいるかもしれません。でも音源によってはボリュームにMIDIのCCが割り振られていた場合に、制作中予期せぬタイミングで音量が変わってしまう可能性があります。それ自体を完全に防ぐことはできませんが、音量設定を音源側やチャンネルフェーダー依存にするよりプリゲインで先にそろえたほうが、音量が変わってしまった場合に特定がしやすいです。また最大+48dBまで上げられるので、極端に音量が低いトラックをブーストすることにも役立ちます。
さらに、ミキシングの柔軟性が上がるという利点もあります。チャンネルフェーダーを中心位置(0dB)付近に保つことで、自分でラフ・ミックスを作るときにも調整の幅が広がると感じたからです。
プリゲインは、各チャンネルのインスペクター・パネルにあるゲイン・ノブで調整できます。MixConsoleツールバーの“ウィンドウレイアウトの設定”で“Pre”のチェック・ボックスをオンにして、フェーダー・セクションの上にPreラックを表示します。その中の“ゲイン”スライダーを左右にドラッグし、ゲインを減衰または増幅させます。
前回に引き続き、地道な設定の連続でした。次は実際にゲーム音楽のプロジェクトを使って、曲制作の事例を交えて紹介したいと思います。
裏谷玲央
【Profile】 作曲家/編曲家。カプコンにて『モンスター・ハンター』シリーズの楽曲を数多く手掛け、2019年に独立しREI MUSICを創業。作品のコンセプト設計やサウンドの“世界観構築プロデュース”を得意としている。https://rei-music.com/
【Recent work】
『メグとばけもの(オリジナル・サウンドトラック)』
Reo Uratani
(REI MUSIC)
steinberg Cubase
LINE UP
Cubase LE(対象製品にシリアル付属)|Cubase AI(対象製品にシリアル付属)|Cubase Elements 14:13,200円前後|Cubase Artist 14:39,600円前後|Cubase Pro 14:69,300円前後
*オープン・プライス(記載は市場予想価格)
REQUIREMENTS
Mac:macOS 13以降
Windows:Windows 10 Ver.22H2以降(64ビット)、11 Version 22H2以降
共通:INTEL Core i5以上またはAMDマルチコア・プロセッサーやApple Silicon、8GBのRAM、1,440×900以上のディスプレイ解像度(1,920×1,080を推奨)、インターネット接続環境(インストール時)