トラック・メイカー/プロデューサーのTOMOKO IDAです。こんにちは。私が使用するDAW=steinberg Cubaseの連載、第3回になります。今回は、大量のトラックを扱うプロジェクトでの話題がメインです。私流で、いつもやっていることが幾つかありますので、ご紹介します。
プロジェクト内でテンポを変えられるテンポトラックの活用法
トラック・メイカーの仕事には、ボーカルが乗った楽曲のほかに、ボーカルなしのインストゥルメンタル・トラックの制作もあります。それはコンサート用の音楽やBlu-rayに収録するための音楽など、多岐にわたりますが、私のキャリアのスタートはまさにコンサート用の音楽制作だったので、今までやってきた経験を元に、さまざまなケースに対応する術をお伝えできたらと思います。
1つのプロジェクトの中で、テンポの違う多数のジャンルを作らなければならない、という経験をしたことはありますか? そういう場合、私は当初、プロジェクトを変えて制作していましたが、修正や順番入れ替えなどのリクエストが来ると、いちいち複数のファイルを開くのが手間でした。
そんなときは“テンポトラック”を使用すると、プロジェクト内でテンポを変更できます。
テンポトラックを立ち上げるには、画面上部の“プロジェクト(Project)>トラックを追加(Add Track)>テンポ(Tempo)”を選択します。私が制作したダンス振り付け用トラックのプロジェクトでテンポトラックを見てみると、150→110→104→105→160→123→160→172→121→110BPMと、1曲の中で9回も変わっています。こうした曲でも、テンポトラックを使えば問題なく1つのプロジェクトで制作できます。
ただ、ミックス・エンジニアの方に対して“何小節目から何小節目までが150BPMで……”と説明していくのは、とても面倒ですよね。そういう場合は、任意のインストゥルメントトラックを曲の頭から終わりまでスタンダードMIDIファイルに書き出せば、そのMIDIファイルにテンポ情報が反映されるので、エンジニアの方との情報共有に便利です。
ちなみに、私は長大なプロジェクトを扱う場合、ジャンルやテンポごとにまとまりを作って、階段状にして制作しています。
そうすると、たとえトラックが200、300と増えていっても混乱することがなく、順番の入れ替えも簡単です。もちろん、順番の入れ替え時は、先ほどのテンポトラックでテンポを変更する必要があります。
楽器の属性単位でバランス調整したいならグループチャンネルが便利
機能紹介的なトピックを続けると、複数のトラックに対して一斉に何かを施したいときは、グループ化しておくと管理しやすいと思います。
コンサート用の音楽制作では、楽器のカテゴリー単位で音のバランスを調整しなくてはならないことがたまにあったので、グループ化してまとめて行っていました。手順としてはMixConsoleを開いて、Shiftキーを押しながらグループ化したいチャンネルを一括選択し、右クリックして“選択チャンネルにグループチャンネルを追加(Adding Group Channel to Selected Channels)”を選択するというもの。追加時に、そのグループのジャンル名やパート名など書いておくと便利でしょう。トラックにこのグループ名が追加されるので、そこで調整を簡単にできます。
ダンスの練習動画を送ってもらいプロジェクトに読み込んで曲作り
ダンス・トラックの制作時は、ダンスの練習動画が送られてきて、“ここでこのような踊りをするのでハマる音を追加してほしい”“現状、こんな感じなので、何か盛り上がりを足してほしい”というように、映像を共有しながら具体的なやり取りをすることもあります。その場合、いただいた練習動画をプロジェクトにはめ込むと、それを見ながら音楽を制作できるのでとても便利です。
プロジェクトに動画を読み込む際には、“ファイル(File)>読み込み(Import)>ビデオファイル(Video File)”を選択し、“ビデオの読み込み(Import Video)”ダイアログで動画のファイルを選びます。オーディオ波形と同じように動画イベントの位置を調整すれば、制作中の曲とシンクロして、とてもイメージしやすいのでお勧めです。
また、もらった動画に曲を合わせて書き出すこともできるので、曲付きのバージョンをクライアントの方々に送れば“こうなるのか”と、想像していただきやすいはずです。なので、言葉だけでイメージを共有しづらい場合は動画を送ってもらって、それに音を付けてリターンする、という方法が速いと思うこともあります。なお、動画の書き出し方は“ファイル(File)>書き出し(Export)>ビデオ(Video)”です。
最後に、書き出しにまつわる話題をもう1つ。“オーディオミックスダウン書き出し”の画面に“iXMLチャンクを挿入”という項目があります。
これは、そのプロジェクトに固有のアディショナルな情報やサウンド・メタデータ(シーンやテイクの情報など)を含ませた状態で書き出す機能なのですが、チェックが入った状態だと、ほかのDAWへ取り込んだ際にステレオのデータがモノラル2本になってしまう……という指摘をミックス・エンジニアの方に受けたことがあります。また、同様の注意喚起がYAMAHAのWebサイトにも記載されています (https://faq.yamaha.com/jp/s/article/J0010182)。エンジニアの方へデータを送る際は、ここのチェックを外してから書き出すとよいでしょう。
今回は、コンサート用の音楽制作や大量のトラックを扱うプロジェクトでの制作ポイントをメインにしてみましたが、いかがだったでしょうか? 特にコンサート用の音楽制作は、とても大変な仕事である分、トラック・メイカーの中には対応できる人がとても少ないと思います。ですので、一度採用されたら、次から次へと制作依頼をもらえるチャンスかもしれません。もし話が舞い込んできたら、積極的にトライしてみてはいかがでしょうか?
さて、次は私の連載の最終回となります。引き続き、よろしくお願いします。
TOMOKO IDA
【Profile】日米韓のトップ・アーティストに楽曲を提供しているトラック・メイカー/プロデューサー。Billboard Japanやオリコン・チャートで1位を獲得した作品が多数あり、2023年にはTainyのアルバム『DATA』の「obstáculo」を共同プロデュース。同アルバムは第66回グラミー賞ラテン部門の“最優秀アーバン・ミュージック・アルバム賞”にノミネートされ、日本人女性プロデューサーとして、初のグラミー賞ノミネート作品への参加を果たすこととなった。
【Recent work】
『16SOUL』
THE RAMPAGE from EXILE TRIBE
(エイベックス)
※MV盤に「PERFORMER'S SOUL」のTOMOKO IDAによるリミックスを収録
steinberg Cubase
LINE UP
Cubase LE(対象製品にシリアル付属)|Cubase AI(対象製品にシリアル付属)|Cubase Elements 13:13,200円前後|Cubase Artist 13:39,600円前後|Cubase Pro 13:69,300円前後
*オープン・プライス(記載は市場予想価格)
REQUIREMENTS
▪Mac:macOS 12以降
▪Windows:Windows 10 Ver.22H2以降(64ビット)、11 Version 22H2以降
▪共通:INTEL Core I5以上またはAMDマルチコア・プロセッサーやApple Silicon、8GBのRAM、1,440×900以上のディスプレイ解像度(1,920×1,080を推奨)、インターネット接続環境(インストール時)