サンプリング主体のトラックに効くCubase付属エフェクト/機能の使い方|解説:AFAMoo

サンプリング主体のトラックに効く付属エフェクト/機能の使い方|解説:AFAMoo

 はじめまして。新しくこのコーナーを担当するトラック・メイカーのAFAMoo(アファム)と申します。ソロでハウス・ミュージックを中心に制作しつつ、Uilouという2人組ユニットでは歌入りのダンス・ミュージックを作っています。steinberg Cubaseは大学生の頃から使っているDAWであり、気づけば10年間も愛用しています。最初は何となく使いはじめたのですが、今ではなくてはならないものになりました。この連載では普段の使い方を紹介しつつ、Cubaseの魅力をお伝えできたらなと思います。

音質劣化をほぼ感じないタイムストレッチ サンプルをプロジェクトに同期させてから加工

 まずはタイムストレッチについて。タイムストレッチとは、オーディオ・データの音の高さを固定したまま長さ(=テンポ)を変える編集機能です。サンプリングでトラック制作することが多い僕にとって、必要不可欠なものです。

 プロジェクト上部のメニューから“タイムストレッチしてサイズ変更”を選ぶと、オーディオイベントの右端をドラッグして、イベントを伸縮させることができるようになります。

プロジェクト画面上部のメニューから“タイムストレッチしてサイズ変更”(黄枠)を選ぶと、オーディオイベントのタイムストレッチが可能になる。音高を維持しつつ長さを変えることができるので、打ち込み済みのドラムにフレーズ・サンプルのテンポを合わせるような場合に便利

プロジェクト画面上部のメニューから“タイムストレッチしてサイズ変更”(黄枠)を選ぶと、オーディオイベントのタイムストレッチが可能になる。音高を維持しつつ長さを変えることができるので、打ち込み済みのドラムにフレーズ・サンプルのテンポを合わせるような場合に便利

 先述の通り、ピッチを変えずにテンポを調整できますし、音質がほとんど劣化しないのも魅力。このタイムストレッチを駆使して、多数のサンプリング・トラックを作ってきましたが、音質に関して問題を感じたことは一度もありません。

 僕はよくサンプルを切り貼りして、別のフレーズにするという手法を使います。手順は次の通りです。

①タイムストレッチによって、サンプルをプロジェクトのテンポに合わせる

②4分音符や8分音符などの細かい符割りでサンプルを均等に分割し、それらを適当に並び替える

③しっくりくる新しいフレーズができたら、それをひたすらループさせる

 並び替えたサンプルの一部をリバース機能で逆再生すると、さらに面白いフレーズになることがあります。

画面上部のAudioメニューから処理>リバースを呼び出すと、選択中のオーディオイベントを逆再生することができる。サンプリングで得た素材を切り分けて並べ替え、いずれかのスニペットをリバースさせると面白いフレーズになることがある

画面上部のAudioメニューから処理>リバースを呼び出すと、選択中のオーディオイベントを逆再生することができる。サンプリングで得た素材を切り分けて並べ替え、いずれかのスニペットをリバースさせると面白いフレーズになることがある

 サンプリングした素材をまんま使いするのももちろんOKですが、こうしてさまざまな機能を使い新しいフレーズに変えていくと、より一層サンプリングを楽しめると思います。Cubaseのタイムストレッチが簡単かつ便利なおかげで、快適なサンプリング・ライフを送ることができています。

ステップ・シーケンサーでフィルターを制御 StepFilterはこう使う!

 次に、フィルター・プラグインについてです。僕は自分が手掛けるトラックにおいて、かなりの頻度でフィルターを使用しています。インストのサンプリング・トラックでも、歌入りの打ち込みトラックでも重宝しています。Cubaseのフィルター・プラグインは直感的に操作できるのが魅力で、中でもStepFilterが僕の愛用です。

 StepFilterでは、プラグイン内のステップ・シーケンサーでフィルターに動きを付けられます。また、そのステップ・シーケンサーをプロジェクトに同期させることも可能で、画面中央RATEのSYNCをオンにした上で1/4に設定すると、プロジェクトのBPM(=4分音符のタイミング)に同期します。

Cubase Pro/Artist/Elementsに付属のStepFilterは、ステップ・シーケンサー(黄枠)でカットオフとレゾナンスに動きを付けられるフィルター・プラグイン。左側のステップ・シーケンサーはカットオフ用で、各ステップの水色のオブジェクトを高い位置にすればするほどカットオフ周波数が高くなる。例えば、高い位置→中ほど→低い位置といった順に水色のオブジェクトを並べれば、フィルターが徐々に閉じていく動きを付けられる。RATE(赤枠)ではシーケンサーとプロジェクトの同期のさせ方を設定でき、SYNC機能をオンにした上で1/4に設定すると4分音符、つまりプロジェクトのBPMに同期してシーケンサーが動作する

Cubase Pro/Artist/Elementsに付属のStepFilterは、ステップ・シーケンサー(黄枠)でカットオフとレゾナンスに動きを付けられるフィルター・プラグイン。左側のステップ・シーケンサーはカットオフ用で、各ステップの水色のオブジェクトを高い位置にすればするほどカットオフ周波数が高くなる。例えば、高い位置→中ほど→低い位置といった順に水色のオブジェクトを並べれば、フィルターが徐々に閉じていく動きを付けられる。RATE(赤枠)ではシーケンサーとプロジェクトの同期のさせ方を設定でき、SYNC機能をオンにした上で1/4に設定すると4分音符、つまりプロジェクトのBPMに同期してシーケンサーが動作する

 1/1(1小節)から1/32(32分音符)まで幅広く設定することができるため、サビ前でトラック全体にかけたり、AメロやBメロでシンセにかけたりと、さまざまな用途が考えられます。

 ほかにもMIXというスライダーを上下に動かすだけでフィルターのかかりの深さを調整できますし、FILTER TYPEのスライダーを最も上にするとハイパス、下にするとローパスという感じで簡単に操作できます。僕が実際に楽曲制作で使う場合は、次のような手順で使用します。

●ボーカル曲のAメロやBメロで、上モノに使う場合

①プリセットのLoPass Flatを使用

筆者がボーカル曲の平歌で上モノによく使うプリセット、LoPass Flat。基準となるカットオフ周波数を設定するBASE CUTOFF(黄枠)が絞り切りで、シンプルなローパス・フィルターとして機能。このプリセットをEQと併用して音作りしていく。ちなみに、BASE CUTOFFの値とステップ・シーケンサーの値はひもづいており、BASE CUTOFFに対する高低で各ステップのカットオフ周波数が決まる

筆者がボーカル曲の平歌で上モノによく使うプリセット、LoPass Flat。基準となるカットオフ周波数を設定するBASE CUTOFF(黄枠)が絞り切りで、シンプルなローパス・フィルターとして機能。このプリセットをEQと併用して音作りしていく。ちなみに、BASE CUTOFFの値とステップ・シーケンサーの値はひもづいており、BASE CUTOFFに対する高低で各ステップのカットオフ周波数が決まる

②別途、EQでハイやボーカルの帯域を削る。ベースが入るスペースを作るために80Hz以下も削る

 サンプリングした上ネタにかける場合も、打ち込みで作ったシンセのコードにかける場合も、基本的にはこの手順です。僕はシンプルで音数が少ないトラックを作ることが多く、AメロやBメロではドラム+ベース+フィルターをかけたコード、というミニマムな構成にすることが多いです。音数が少ないからこそ、フィルターの種類やかけ具合が重要になってきます。フィルターが微妙だとボーカルにも影響が出ますので、数値もかなり細かく設定します。

●インスト・トラックでサンプリング素材にかける場合

①プリセットのSynced Step 1を使用

インストの楽曲でサンプリング素材に使用するプリセット、Synced Step 1。先のLoPass Flatと同じくフィルター・タイプはローパスだが、基準のカットオフ周波数が高い値に設定されており、それをステップ単位で上下させるようなシーケンスが組まれている。これによりフィルターが小刻みに開閉し、ソースにうねりを加えることが可能

インストの楽曲でサンプリング素材に使用するプリセット、Synced Step 1。先のLoPass Flatと同じくフィルター・タイプはローパスだが、基準のカットオフ周波数が高い値に設定されており、それをステップ単位で上下させるようなシーケンスが組まれている。これによりフィルターが小刻みに開閉し、ソースにうねりを加えることが可能

②別途、EQで100Hz以下を削ってキックやベースが入るスペースを作りつつ、中域を上げる

 Synced Step 1を使用すると、うねうねした面白い音になるのでお勧めです。例えば、ソウル/ファンク的な上ネタにかけてハウス・ミュージックのドラムを足すだけで、かなりグルーヴィーなサウンドが誕生します。サンプリング素材のまんま使いだとしっくりこないという方は、Synced Step 1を活用して緩急のある音作りを試みるのがよいでしょう。

“適度なローファイ”が近年の傾向 BitCrusherでちょうど良くひずませる

 最後は、ひずみ系プラグインのBitCrusher。ローファイ・サウンドを作る際に最適で、実際、僕もローファイ・ハウスを作るときにはよく使用しています。ビット・クラッシュ系プラグインは各社から登場していますが、CubaseのBitCrusherは適度なローファイ感を出しやすいのが特徴です。

 プリセットのLo-Fiを選び、MODE 4に設定するのがお勧め。ローファイ感を出しつつも、元の音を適度に残してくれます。

BitCrusherは、Cubaseの全グレードに付属するひずみ系プラグイン。分かりやすくひずませるのもよいが、各楽器にインサートして少しずつひずませると、ハードウェアのミキサーを通したようなテイストが得られる

BitCrusherは、Cubaseの全グレードに付属するひずみ系プラグイン。分かりやすくひずませるのもよいが、各楽器にインサートして少しずつひずませると、ハードウェアのミキサーを通したようなテイストが得られる

 ローファイ・ハウスやローファイ・ヒップホップの全盛期だったら、がっつりローファイに振り切った処理でも良かったのかもしれませんが、2024年現在だと“適度なローファイ感”くらいがちょうど良いのではないかと思います。

 キック、スネア、ハイハット、上ネタ、シンセなど、すべてにBitCrusherをかけて、楽器ごとにMIXスライダーでかけ具合を調整するとよいかもしれません。元からローファイな素材を使うのもよいと思いますが、自らローファイ具合を調整するほうがより理想的な音にできるので、ぜひBitCrusherを活用してみてください。

 さて、次回はミックスやマスタリングのTipsを紹介できればと思います。来月もよろしくお願いいたします!

 

AFAMoo
【Profile】AFAMoo(アファム)。日本の音楽プロデューサー/DJ。2016年から楽曲のリリースを開始。ハウス・ミュージックに特化して制作を続け、これまでにNervous RecordsやLobster Thereminなど世界中の名門レーベルから作品をリリースしてきた。現在は2人組音楽ユニット"Uilou"のトラック・メイカーとしても活動しており、チルでダウナーなダンス・ミュージックを制作しつづけている。

【Recent work】

『Do Me a Favor』
Uilou
(Uilou)

 

 

 

steinberg Cubase

steinberg Cubase

LINE UP
Cubase LE(対象製品にシリアル付属)|Cubase AI(対象製品にシリアル付属)|Cubase Elements 13:13,200円前後|Cubase Artist 13:39,600円前後|Cubase Pro 13:69,300円前後
*オープン・プライス(記載は市場予想価格)

REQUIREMENTS
▪Mac:macOS 12以降
▪Windows:Windows 10 Ver.22H2以降(64ビット)、11 Version 22H2以降
▪共通:INTEL Core i5以上またはAMDマルチコア・プロセッサーやApple Silicon、8GBのRAM、1,440×900以上のディスプレイ解像度(1,920×1,080を推奨)、インターネット接続環境(インストール時)

製品情報

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