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Bitwig Studioで曲展開を演出するサプライズ・ビートを制作|解説:MASAHIRO KITAGAWA

曲展開を演出するサプライズ・ビートを制作|解説:MASAHIRO KITAGAWA

 音楽家のMASAHIRO KITAGAWAです。この連載ではメイン・マシンとしてBitwig Studioを使用してアーティストのプロデュース〜作品リリースをするまでの過程を記述していきます。

同じサンプルから異なるアイディアを生み出す

 前回で大枠となるフックのビートが完成しました。普段の作曲では、フックのビートに続いて、聴き手の意表を突く全くイメージの違うビート=サプライズ・ビートを作っていくことが多いです。曲中において、ビートだけでもサプライズがないと私自身が飽きてしまう、という理由もあります。今回のビートにもそういった展開を作っていきましょう。

 まずは何も考えずにビートを組んでいきます。その際は、また別の曲を作成するイメージで進めていくのですが、そういう工程で作りやすいのもBitwig Studioの魅力です。アレンジャータイムラインはとりあえず非表示にして、クリップランチャーでどんどんスケッチ。クリップを幾つも作成していき、好みの組み合わせになるまで作っていきます。

 今回はRhodesで弾いたフレーズをSSL Six→FERROFISH Pulse16 MX→ANTELOPE AUDIO Goliathに通し、Bitwig Studioへサンプリングしました。録ったトラックは複製し、一方のトラックはサンプルを所々逆再生にしてふわっとしたリズムに、もう一方のトラックは短めにサンプルを切り貼りして小刻みなリズムにし、それらをレイヤーして1つのサウンドを作り上げます。

Rhodesで弾いたフレーズを元に、カットアップして別のフレーズを作り出す。一部のクリップはリバースするように設定した

Rhodesで弾いたフレーズを元に、カットアップして別のフレーズを作り出す。一部のクリップはリバースするように設定した

前の画像のフレーズをコピーし、新たにカットアップして別のフレーズを作成。こちらは細かく切り貼りすることで、リズミックなサウンドを演出している

前の画像のフレーズをコピーし、新たにカットアップして別のフレーズを作成。こちらは細かく切り貼りすることで、リズミックなサウンドを演出している

 カットアップしたサンプルは、個々にゲイン調整をしてダイナミクスでリズムを作ったり、ピッチも変更するなど、元のフレーズとは全く別のサウンドにしました。こういう作業がとても素早くできるのもBitwig Studioのメリットですね。

 このようなワンループのシーケンスをくっつけていく制作方法では、曲全体が“ブロック構造”になりがちです。イントロ/メロ/サビなどのつながりに違和感が出て、流れるような曲展開にならないことも。その違和感をなくす作業を僕は“スムージングする”と言っています。歌もその役割を担いますが、今回作ったRhodesのフレーズが曲全体を通して登場することでスムージングに貢献しました。

 この曲は87BPMにしてありますが、前回制作したフック部分は倍速のテンポです。そのため、今回のサプライズ・ビートはBPM通りのミドルテンポなものにしました。このサプライズ・ビートでもBitwig Studio内のHW Instrumentを活用し、コード・シンセやパッド・シンセを鳴らしていきます。コードは自身のモジュラー・シンセ・システムとDAVE SMITH INSTRUMENTS Tetraを活用。パッドはモジュラー・シンセのみです。ここは歌のフレーズで自由に表現できるように、あえてかなりシンプルなワンコードにしました。

アレンジャータイムラインで曲構成を練っていく

 次は曲の構成を練っていきます。このときはアレンジャータイムラインをオンに。

クリップランチャーではループにフォーカスしながら制作しつつ、アレンジャータイムラインでは曲の構成を練っていく。展開がスムーズになることも意識しよう

クリップランチャーではループにフォーカスしながら制作しつつ、アレンジャータイムラインでは曲の構成を練っていく。展開がスムーズになることも意識しよう

 Bitwig Studioでは、クリップランチャーとアレンジャータイムラインが1つの画面で表示できます。クリップランチャーで“強いワンループ”にフォーカスしながら、アレンジャータイムラインで全体を流れを練る……。そういう作業ができるので、前述したブロック構造にもなりにくく、とても助かります。これもBitwig Studioの大きな魅力です。

 前回も話したように、今回プロデュースするK1X(キックス)は若くて勢いがあり、音源リリースは初となります。インパクトがあるのも大事だと思うので、頭に強烈なフックを持っていくことにしました。イントロ→フック→Aメロ→ブレイク→Aメロ→ブレイク→フック→サプライズ・ビートという構成にしています。

 全体像が見えてきたところで、展開のサプライズだけではなく音のサプライズも作りたくなりました。そこでAメロとサプライズ・ビートに生ドラムを採用しようと、音楽仲間でドラマーの深谷雄一氏(スーパー登山部)に依頼してドラムのレコーディングをしました。

ドラム録りで協力してもらった深谷雄一氏。キックにNEUMANN U 87 IとBLUE MICROPHONES The Ball、スネアにSENNHEISER MD421、ハイハットにAKG D190E、トップにC451Bを使用している

ドラム録りで協力してもらった深谷雄一氏。キックにNEUMANN U 87 IとBLUE MICROPHONES The Ball、スネアにSENNHEISER MD421、ハイハットにAKG D190E、トップにC451Bを使用している

 フックはハードウェア・シンセのリズムで構成してかなり低域感を出していますが、フックからAメロに入ったときにフッと抜けた感覚にしたいため、キックから少し離したところにNEUMANN U 87 Iを配置して、ダイナミック・マイクのBLUE MICROPHONES The Ballで自然な低域感を狙っています。

 ハイハットはサイレント仕様(多くの穴が空いた低音量で鳴るモデル)のものにしており、少し中域に特徴を持たせてかつスッキリ録音するためにAKG D190Eを選択。スネアは少しどっしり目を狙いたかったのでSENNHEISER MD421を採用しました。また、既存のサンプリングでは出ない“その場の空気感”も収録したいので、L/Rで立てたAKG C451B(トップ・マイク)でも録音しています。ちなみにオーディオI/OはRME Babyface Pro FSで、ADAT接続したANTELOPE AUDIO Zen Tourをマイクプリとして使用。細かくマイクの位置を調整し、身振り手振りでディレクションしながら狙ったとおりに録れました。

 さて、次回は生ベースと歌のレコーディングをやっていきたいと思います。

 

MASAHIRO KITAGAWA

【Profile】シンガー/ビート・メイカー。OMOKAGEから『POLYHEDRAL THEORY』でデビュー。Apple Musicの“今週のNEW ARTIST”に選出されて話題を呼んだ。自身のソロ活動のほか、楽曲提供も行っており、シンガー・ソングライター中村佳穂の2ndアルバム『AINOU』ではトラック・メイクやコーラスで制作に参加。現在も中村佳穂BANDメンバーとして多岐にわたり携わっている。

【Recent work】

『スカフィンのうた』
中村佳穂
(AINOU)

 

 

 

BITWIG Bitwig Studio

BITWIG Bitwig Studio

LINE UP
Bitwig Studio
フル・バージョン:52,800円|エデュケーション版:35,200円|12カ月アップグレード版:22,000円
Bitwig Studio Producer:26,400円
Bitwig Studio Essentials:13,200円

REQUIREMENTS
Mac:macOS 10.14以降、macOS 12、INTEL CPU(64ビット)またはAPPLE Silicon CPU
Windows:Windows 7(64ビット)、Windows 8(64ビット)、Windows 10(64ビット)、Windows11、Dual-Core AMDまたはINTEL CPUもしくはより高速なCPU(SSE4.1対応)
Linux:Ubuntu 18.04以降、64ビットDual-Core CPUまたはBetter ×86 CPU(SSE4.1対応)
共通:1,280×768以上のディスプレイ、4GB以上のRAM、12GB以上のディスク容量(コンテンツをすべてインストールする場合)、インターネット環境(付属サウンド・コンテンツのダウンロードに必要)

製品情報

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