新ドラム・デバイスと併せて使いたい“スライス”という機能はご存じでしょうか? スライス機能はオーディオのループ素材のリズム再構築やボーカル・チョップの作成などにとても便利なツールです。今回はスライス機能を活用したテクニックを紹介していきます。
素材に合わせて3種類の方法でスライス可能
スライスは設定に基づいてオーディオ・イベントを自動的に分割し、各スライスをサンプラーにマッピングできる機能です。オーディオ・イベントを右クリックして表示されるメニューには、“スライス/フォルド”という項目があります。そこではスライスしたオーディオのアサイン先が選択可能。オーディオイベント/ドラムマシン/マルチサンプラーの3つから選べます。
●オーディオイベント(スライス - 所定位置に…)
現在選択しているイベントそのものをその場でスライスします。スライス方法が幾つかあり、“ビートマーカー”はイベントのストレッチモードで設定したマーカーに沿ってスライスされます。“オンセット”はスレッショルドを調整して、トランジェントに合わせて分割します。“ビートグリッド”は設定した長さで均等にスライスする方法です。
●ドラムマシン(スライス - ドラムマシンに…)
スライスした音は自動的にDrum Machineへアサインされ、MIDIノートでトリガー可能です。ここでは2つの方法が選べ、“バウンスとスライス”ではインサートしているエフェクトを含めてバウンスした後にスライス、“ロウスライス”ではオーディオをそのままスライスします。Drum Machineを使うため、パーカッションやドラム・ループ系のサンプルを扱いやすいです。スライス方法ではビートマーカーやオンセット、ビートグリッドを選べます。
●マルチサンプラー(スライス - マルチサンプルに…)
各スライスをSamplerにロードし、MIDIノートでトリガーできます。Drum Machineへのスライスと同様“バウンスとスライス”と“ロウスライス”から設定可能。ボーカルやギターなど、メロディ楽器が扱いやすい印象です。
ループ素材をスライスする最大のメリットは、直感的にリズムを並び替えられるという点。ここからはドラム・ループの素材をスライスして、新しいリズムを再構築してみます。
まずは“スライス - ドラムマシンに…”を選択して、ドラム・ループをDrum Machineにスライスします。今回はブレイクビーツのサンプルを使用して、8分音符の設定でスライスしました。出てきたダイアログで設定後、OKボタンを押すと新しいトラックが作成され、スライスした音がDrum Machineのパッドへ自動的にアサインされます。またノートイベントも作成され、各スライスのMIDIノートが順に鳴るよう階段状に配置されます。
作成されたノートイベントを基に自分の好きなようにMIDIを並べ替えて、新しいリズムを構築していきましょう。
ベロシティの強弱をつけたり、ノートエフェクトのHumanizeでゆらぎを付加することもできます。ほかにも、パッドごとにオーディオエフェクトをインサートしたり、ピッチやパン、アタックやディケイを変えても面白いかもしれません。
曲のキーに合わせたピッチ調整やスウィング設定も行える
ボーカルやギターのようなメロディ楽器をスライスしてカットアップするのもお勧めです。次は全体のピッチなどを柔軟に変更できるSamplerへスライスしていきます。
ボーカルの素材は後で加工しやすいように、リバーブやディレイがかかっていないドライなものを選びましょう。ボーカル・チョップのようなトラックを作る場合、スライスのタイミングをオンセットにするとフレーズの区切りでスライスできるので、僕はこちらをよく使っています。スライスが完了したらMIDIノートを好きなように配置し、リズミカルにカットアップ。Samplerでのスライスでいろいろな種類のトラックを用意すれば、音色にバリエーションを持たせることができます。
スライス機能は、ループ素材を曲に合ったフレーズに変えたいときにも便利です。コード進行やメロディが微妙に合わないギター素材も、スライス機能を使えば簡単に並べ替えやトランスポーズができます。
Drum MachineやSamplerを使ったスライスではオーディオをMIDIノートで扱うことができるので、クォンタイズを使用すれば簡単にスウィングしたリズムを作ることができます。まず、スウィングしていないループ素材をスライスし、MIDIノートをシャッフル50%または3連符でクォンタイズ。
次に、クォンタイズしたMIDIを全選択して右クリックした後、“レガートに設定”をクリックします。あとはアタックやリリースを調整すれば奇麗にスウィングしたリズムにすることが可能です。
オーディオイベントのスライスをキーボード・ショートカットに設定するのもお勧め。筆者はWindows環境でCtrl+Shift+Eに設定してすぐにスライスできるようにしています。みなさんも自分に合ったスライス機能の活用方法を見つけてみてください。僕の連載担当は今回で最後です。ありがとうございました!
晴いちばん
【Profile】ボカロP/作編曲家。幼少期よりピアノを経験し、中学生のときに初音ミクを使ったボーカロイド曲「スレイベラー」を投稿して活動を開始。2024年5月に1stアルバム『Ruins Record』、11月に1st EP『flicker』をリリースした。ボカロPとしての活動のほか、ゴスペラーズへの楽曲提供や映画/テレビ/ゲームの楽曲制作に携わるなど、多彩なフィールドで活躍する。
【Recent work】
『flicker』
晴いちばん
BITWIG Bitwig Studio
LINE UP
Bitwig Studio
フル・バージョン:52,800円|エデュケーション版:35,200円|12カ月アップグレード版:22,000円
Bitwig Studio Producer:26,400円
Bitwig Studio Essentials:13,200円
Bitwig Studio 8-Track:無償、ダウンロードはこちら→https://www.bitwig.com/reg/
REQUIREMENTS
Mac:macOS 10.15以降、INTEL CPU(64ビット)またはAPPLE Silicon CPU
Windows:Windows 10(64ビット)、Windows 11、Dual-Core AMDまたはINTEL CPUもしくはより高速なCPU(SSE4.1対応)
Linux:Ubuntu 22.04以降、64ビットDual-Core CPU以上の×86 CPU(SSE4.1対応)
共通:1,280×768以上のディスプレイ、4GB以上のRAM、12GB以上のディスク容量(コンテンツをすべてインストールする場合)、インター ネット環境(付属サウンド・コンテンツのダウンロードに必要)