現代の音楽制作に無くてはならないソフト音源。オールマイティに使えるものから特定のジャンルを象徴する製品、他者との差別化を図れる斬新な音源までそろい、まさに百花繚乱です。そうした数多くの選択肢の中から、プロの現場でリアルに重宝されているものとは何なのでしょうか? 本特集では、著名クリエイター18名に“マイ定番ソフト音源”を挙げていただき、その活用方法を語ってもらいます。
長谷川白紙
[長谷川白紙] 現役音大生。2018年12月にCDデビューしたシンガー・ソングライター。ジャズ、現代音楽、ブレイクコアなどさまざまなジャンルを横断する音楽で注目を集める。7月にはニュー・アルバム『夢の骨が襲いかかる!』をリリース
SPECTRASONICS Keyscape
SPECTRASONICS Keyscape
(40,000円)
アコースティック・ピアノからエレクトリック・ピアノ、クラビネット、チェレスタ、トイ・ピアノ、珍しい楽器まで、さまざまな鍵盤楽器のサウンドを収録するインストゥルメント。例えばピアノのYAMAHA C7や、エレクトリック・ピアノのRHODES、WURLITZER、HOHNER Pianetなど有名なビンテージ・キーボードを用意しています。収録された楽器は全36種類で、プリセットは629種類も搭載。2つのプリセットのレイヤーにも対応しており、より複雑なサウンド・メイクが可能です。同社のOmnisphere 2を持っていれば、KeyscapeをOmnisphere 2内に統合することができ、そのシンセシスと組み合わせた1,200ものプリセットも利用できます。
本来音域外である音まで丁寧に合成したリアルな質感
生音によるアンサンブルとも違和感なくなじみます
Keyscapeはビンテージからマニアックなものまで多種多様な鍵盤楽器を収録していて、音のクオリティが非常に高いという点に魅力を感じて使い始めました。楽器は36種類あり、プリセットは629種類も搭載しています。
実際に使用してみると、本来楽器の音域外であるはずの音まで合成されていて、どれも丁寧に作られているのが分かります。生音をただサンプルした音色とは違って、むしろ質感がリアルに聴こえてきて魅力的です。ほかのソフト音源と聴き比べても精緻なので、生音によるアンサンブルとも違和感なくなじみます。プリセットごとに専用のエフェクト・チェインが備わっており、エディットできる幅も広いです。音色を変えれば、さまざまなジャンルに適合するでしょう。特筆すべきは、12平均律だけではない調律を適用できる機能。ほかにも、2オクターブまでベンド幅を設定できるピッチ・ベンドのエンジンが魅力です。ピアノとチェレスタで使用した感触が一番良く、楽器固有の倍音や和音の雰囲気を保ったままピッチ・ベンドできます。このニュアンスが超リアルなので、ピッチ・ベンドしながら演奏しているだけで楽しいです。
また多くの音色には、どの倍音を強調するか制御するためのColor Shiftというパラメーターが用意されています。これをオートメーションで制御すると、単なるローパス/ハイパス・フィルターとは違った独特の音色変化を得られるのです。楽器や音色によって、DARKやHARDといったCHARACTER機能と併用してトーンを大幅に変えられます。この操作は楽しいので、よく行っていますね。
この曲で活躍!
音列の提示とドローン的テクスチャーのパートは、ほぼすべてKeyscapeです。冒頭のドルセオラのフレーズは、この音色があったからこそ思い付いたようなもの。特にドルセオラとチェレスタによる高頻度の音域交代的な絡み合いは、テクスチャーの中に粒感を生むのに非常に有効でした。ドルセオラとチェレスタともに本来音域外のはずの音高も収録されているので可能になったことです。最新アルバム『夢の骨が襲いかかる!』は全編Keyscapeとボーカルのみで構成しています。
製品情報
SPECTRASONICS Keyscape
DAWに立ち上がる“マイ名機”の使い方
これが私の定番ソフト音源!
関連記事