イン・ザ・ボックス中心のスタイルだからこそ“音の入り口と出口”を重視するプロフェッショナル空間
シンガーMARiAの力強い歌声と完成度の高いエレクトロニックな音像で、音楽好きのみならずアニメ/ゲーム・ファンからも人気のユニット=GARNiDELiA。そのメンバーで、サウンド・プロデュースを手掛けるのがtokuだ。一軒家の1階にある彼のスタジオPLUS LiGHTS TOKYOを訪ねる。
Text:Tsuji. Taichi Photo:Chika Suzuki
BURLのサミング・ミキサーを通しPortico II Master Buss Processorで処理
曲作りをはじめ、本チャンのボーカル録りやtoku自身によるミキシングまで、マスタリング以前のあらゆる工程に対応したPLUS LiGHTS TOKYO。「ほぼイン・ザ・ボックスで制作しているので、音の入り口と出口は大切にしたくて」という言葉の通り、AVID Pro Tools|MTRXやPRISM SOUND ADA-8XRといったオーディオI/O、部屋の音響特性を元に出音を調整できるパワード・モニターGENELEC 8351Aなど、ハイエンドな機材がそろう。
「中域の押し出し感などはADA-8XRに分があると思うので、歌録りなどに活用しているんです。Pro Tools|MTRXはアナログ出しに重宝していますね。BURLのサミング・ミキサーB32 Vancouverへ24chをパラで出せるようセットアップしていて、その出力をRUPERT NEVE DESIGNSのPortico II Master Buss Processorで処理するのが自分の定番になっているんです。Portico II Master Buss Processorを使うと、笑ってしまうほど音が良くなるんですよ。例えば低域に対して、解像度を保ちつつ“暴れ”を加えることができたり。今年買ったんですけど、もう手放せませんね。次のツアーに持参して、PAエンジニアの方にミックスの最終段で使ってもらいたいほどです」
Portico II Master Buss Processorはマスタリング向けの機材だが、自らの作業は“ミックスまで”にしておくのがtokuの流儀だ。
「低音成分が多い楽曲とかに関しては、最終的なバランスをここで詰め切れないことがあるんです。あと、納期が近付くと自分の音に向かう時間がものすごく長くなるから、プロの客観的な判断を仰ぎたい。マスタリングって、アルバムの頭から最後までに整合性を与えるような作業でもあるので、一曲5~6分のものを作るのとは全く違う世界だと思うんです。それにマスタリング・エンジニアの方は、僕が“ここを上げてください”って要望するところを一切触らずに、そこが補われるような結果を出せたりする。脱帽しますよね」
ストリーミング全盛の時代でも自分の耳は鍛えないといけない
tokuはマスタリング・エンジニアに2~3パターンのプリマスターを提示することがあるそうだが、そこに至るまでに欠かせないのがPro Tools|MTRXや8351Aである。
「エンジニアの森元(浩二.)さんに“どこどこの周波数が膨らんでしまうんですよ”みたいな話をしたら、“それはきっと何m先にこういう扉があるからだよ”って言われて。見抜かれてしまったな、と(笑)。ただそのときに、やっぱり家の環境が生んでしまう特性の変化には、ある程度のパターンがあるんだなと思ったんです。でも吸音材とかを置いたら部屋が狭くなるし、幾ら高価なスピーカーを買ってもルーム・チューニングの壁に行き当たるだろうから、DSP補正を選ぶことにしました。8351Aの音は素直で気に入っています。あとPro Tools|MTRXを導入したのもモニタリングに寄与していて、音楽全体を見渡す用途において、ここ何年かの間では最も優れたD/Aだと感じています。ストリーミング全盛の時代にあって、オーディオI/Oの違いがどれだけ作品に残るだろう?と思いつつも、自分の耳は鍛えていかないといけないし、そういう意味でも良い投資になりました」
ボーカル/コーラス録りの際に、マイクとプリアンプの組み合わせを従来より吟味するようになったのも、Pro Tools|MTRXによるところが大きいそう。
「同じ組み合わせで何声も録ると、特定の帯域に音が集中したりしますよね。それがきちんと見えるようになったんです。ちなみに、MARiAの歌にメイン使用しているマイクはTELEFUNKENのEla M 251 FとVIOLET DESIGN The Flamingo Standard。マイクプリはNEVE 1081など幾つかありますが、最も出番が多いのはSYM・PROCEED SP-MP2かなと。音がめっちゃ速いんです。所有しているマイクがほぼ真空管モデルなので、スピードを補ってくれる感がありますね。他方1081では王道的な音が得られるので、楽曲によるチョイスも可能です」
アーティストでありながらエンジニアリング的な面へのアンテナも高いtoku。今以上の制作環境を手にするには、建物から考える必要があると思っている。
「大きな部屋に移ると、そこに入るだけ機材を買ってしまいそうですが(笑)。ただ、ノート・パソコンだけでも納品レベルのデータを作れる時代だからこそ、機材の費用対効果は考えなければならないと思っています。それが音楽で生活する、プロとしての自分の考えですね」
Equipment
DAW System
Computer:APPLE Mac Pro
DAW:AVID Pro Tools|HDX
Audio I/O:AVID Pro Tools|MTRX
AD/DA Converter:PRISM SOUND ADA-8XR、RME ADI-2 Pro
Outboard & Effects
Mic Preamp:AMS NEVE 1073LB Mono Mic Preamp Module、BLACK LION AUDIO B12A MKII、CHANDLER LIMITED EMI TG2、NEVE 1081、SYM・PROCEED SP-MP2
Compressor:EMPIRICAL LABS Distressor EL-8、ELYSIA Xpressor 500、UREI 1176LN
EQ:API 550A、560A
Recording & Monitoring
Monitor Speaker:GENELEC 8351A
Microphone:CATHEDRAL PIPES The Regensburg Dom、SHURE SM7B、TELEFUNKEN Ela M 251 F、VIOLET DESIGN The Flamingo Standard
Summing Mixer:BURL B32 Vancouver、SSL XLogic X-Desk
Instruments
Rhythm Machine:ELEKTRON Digitakt
Synthesizer:ARTURIA PolyBrute、NORD Nord Stage 88、WALDORF Quantum
toku
ボーカリスト/作詞家のMARiAとともに、ユニットGARNiDELiAで活動するコンポーザー/サウンド・プロデューサー。音楽シーンだけでなくアニメやゲーム、動画共有サイトのユーザーからも絶大な支持を受ける。GARNiDELiAと並行し楽曲提供なども行っている。
Recent Work
『Duality Code』
GARNiDELiA
(ポニーキャニオン)