HATAKEN × 中山信彦 × Z_Hyper × 平井亮(福産起業)
日本のモジュラー・シンセ・シーンになくてはならない面々による座談会をお届けする。登場するのは、モジュラー・シンセ奏者で、2013年から2023年まで国内最大規模のモジュラー・シンセ・フェスティバル、Tokyo Festival of Modular(TFoM)をデイヴ・スキッパーとともに主催してきたHATAKEN(写真右)、1980年代よりシンセサイザー・プログラマーとして活動し、モジュラー・シンセ・ユニット、電子海面でのパフォーマンスも行う中山信彦(同左)、自身のライブ・パフォーマンスのほかでモジュラー・シンセ・インストラクターとしても活動するZ_Hyper(同中央下)、そして、数々のシンセ・ブランドを取り扱い、シンセサイザー・プロショップFive G music technologyも運営する福産起業所属の平井亮(同中央上)の4名。彼らの話から、今日のモジュラー・シンセ・シーンがどのように形成されてきたのかをひもといていく。
BUCHLAはほぼ使われていなかった
──2013年から約10年にわたって開催されたTFoMは、国内でモジュラー・シンセが広がる大きなきっかけになったイベントかと思いますが、それ以前には日本でモジュラー・シンセ・シーンというのはあったのでしょうか?
HATAKEN TFoMが始まる前はシーンというのは全然なくて、だからこそTFoMやろうというきっかけにもなっています。それ以前のことは中山さんが詳しいですよね。
中山 僕は、電子海面というモジュラー・シンセ・ユニットを2009年に作りました。それまでずっとシンセを使って仕事をしていたんですけど、1990年代からシンセがどんどんプリセット化されて、つまらないシンセばかりになっているなと感じていて、1回それをぶち壊そうと思い、電子海面では鍵盤がないシンセを使おうと計画したんです。その宣言として2010年に渋谷のアップリンクで、モジュラー・シンセのライブ・イベントをやりました。メンバーの深澤秀行と、“ランダムとランダムの戦い”みたいな感じでセッションしていましたね。それが自分たちにとっては、これまでになく刺激的で面白かったです。
モジュラーが好きだから10年続けられました
―HATAKEN
──モジュラー・シンセのどういった点に面白さを感じたのでしょうか?
中山 未知のものを提示してくれるところですね。2009年にDOEPFER A-100という基本的なシステムを買ってみたら、それまでのシンセと違ってポルタメント一つかけられないし、そのためには別のモジュールが必要だったりで、これは大変なことになったなと。ただ“何かやってやろう”みたいにやると失敗する。偶発性が面白いんです。
Z_Hyper 当時そのイベントを見に行っていましたよ。そのころから今でも付き合いのある人に話を聞くと、それより前にもまだDOEPFERくらいしか製品がなかったころからモジュラー・シンセをやっている人とか、東京以外に関西や沖縄にもいたり、ホビーとしての下地はじわじわできていたみたいです。
中山 そのころインターネットがどんどん進化を遂げていた時期で、MATRIXSYNTHやSynthtopiaといったWebサイトから、海外ではどう盛り上がっているのかという状況を知ることができるようになりました。そこからインスパイアされた部分はかなりあります。
──インターネットの発達により、日本にも情報が入るようになってきたのですね。
中山 モジュラー・シンセって実験のためにあったようなイメージで、音楽制作の現場では松武秀樹さん以外で使っている人をあまり見たことがなかったです。ましてBUCHLAやSERGEなんて日本で使っている人はほとんどいなかった。MOOGなどのいわゆるイースト・コースト(東海岸)スタイルと言われる、完璧に音程を弾ける音楽寄りのシンセが1970年代から主流だったのに対して、BUCHLAやSERGEなどのウエスト・コースト(西海岸)スタイルのシンセは、あまりにも実験的で現場向きじゃない。それでも途絶えずに、ずっとオルタナティブなものとして息づいていたのに、何で僕らはこれを見逃してたんだろうと。もちろん、そういうものを使っていた方もいたと思うんですけどね。
HATAKEN 一緒にTFoMを主催していたデイヴ・スキッパーは、TFoMを始める前に“(日本は)遅れているんじゃない?”“イベントをやってみても、モジュラー・シンセを知らないから誰も理解できない”と言っていて。それでTFoMでは、展示会としてまずモジュラー・シンセのことを知ってもらって、それからライブをやれば、あの機材はああいうふうに使うんだ、ということが伝わるんじゃないかと。2013年はまだそんな状況でした。
中山 僕がやっていたイベントも、機材を持ち寄って、情報交換するような場になっていましたね。
Z_Hyper みんな、“とりあえず分かんないけど、これ、新しいのを買ってみた”って持ってきたり(笑)。
中山 盆栽自慢みたいなもんで(笑)。でも、そこでやるライブがすごくお互いの刺激になっていた。それで、やっと横のつながり、カルチャー的なものが生まれてきて、HATAKENやデイヴも来ていて、TFoMにつながっていった。そこから派生して、モジュラー・シンセのライブはカフェでやる、みたいなスタイルも出てきたよね?
Z_Hyper そうですね。割とクラブでドンツクやるっていうよりは、音を出せるスペースでイベントをやる感じでした。そもそもモジュラー・シンセをやっている人がそんなにいなかったのと、あとは僕の偏見ですけど、モジュラー・シンセ奏者はシャイな人が多くて(笑)。
中山 いや、癖が強いんだよ(笑)。
Z_Hyper 癖が強いのにシャイじゃないですか(笑)。1回来ちゃえば、段々ざっくばらんになってくるのに。
中山 電話番号とか知らないし、本名も知らない。そういう人が多い。SNSがないと、僕らは連絡が取れないんですよ。だからインターネットの発達もあるけど、SNSの発達も、コミュニティにとって重要になっているんじゃないかなと。
Z_Hyper そうですね。かしこまったメールとかじゃない感じで。
HATAKEN 直接連絡しなくても、みんな何をやっているのか、活動をポストしてるから、何となく聞こえてくる。そういう、キープ・イン・タッチな感じなんだと思います。
何かやってやろうと思うと失敗します
―中山信彦
他ジャンルの人たちが興味を示した
──モジュラー・シンセを販売する側としては、シーンをどのように捉えていますか?
平井 販売店とか、メーカーが主導しなかったシーンというのも、面白いところなのかなと。楽器を売ろう、流行させようって思うと、やっぱりどうしてもメーカーやお店、メディアが主導するのがよくあるものかと思いますし、イベントの集客とかを考えると、理解できるところもあります。ですが、小さいながらもそうやってファン同士で密に関われる。モジュラー・シンセはいろんなメーカーのいろんな製品があって、全員使い方が違うので、どうしても販売店やメーカーが主導できるようなシーンではないかもしれないです。
── 2010年代初頭は、Five Gでのモジュラー・シンセの扱いはどうでしたか?
平井 僕はまだFive Gにいなかったんですが、当時のことを聞く限りでは、そこまでモジュラー・シンセを大きく扱っていたようではなかったみたいです。ただ、こういう面白いものがあって、お客様も徐々に来てるから、これからどうやって始めていこうかを少しずつ手探りにやっていたと思います。
Z_Hyper そのころ、モジュラー・シンセはFive Gくらいでしか売ってなかったですし。DOEPFERと、ANALOGUE SYSTEMSがまだあって、ANALOGUE SOLUTIONSはもうあんまり扱ってなかったですよね。
平井 しかも、その3メーカーとも、傾向が似ていた。カタログ的にはやっぱりDOEPFERが一番充実していた印象があります。実際にモジュール単位で売れはじめたのは、2012〜2013年くらいからで、そのころからモジュラー・シンセを外に持ち出そうという人が一気に増えてきた状況があったのかなと。これはどうやら外で人に聴かせるためにも使える楽器なんだというような認識を持ちはじめた、ターニング・ポイントの時期なんじゃないかなと感じています。
──持ち運びに適したユーロラック・ケースも出てきたのでしょうか?
Z_Hyper まだ日本にはあまり入ってきてなかったけれど、MONOROCKET、ENCLAVEなど、DOEPFER以外のメーカーも出しはじめていましたね。
ユーザーが増えていく姿を見たいです
―平井亮
平井 MAKE NOISEの創業者のトニー(・ローランド)は昔のインタビューで、ジム・オルークがDOEPFER A-100 P6(最大168 HP分のモジュールをマウントできるケース)をライブで使っているのを見て、初めてモジュラー・シンセの存在を認識したと話していた覚えがあります。また、モジュラー・シンセが大きく広まったきっかけの一つとして、取り外しが容易になったこともあるかなと。ビンテージMOOGや初期のDOEPFERのモジュールはパネルに対して基板が垂直でケースの奥行きも深く、1度マウントしたらなかなか外さない。対して昨今のモジュールの多くは、BUCHLAがそうだったように、パネルに対して基板が水平でケースの奥行きも浅くなり、よりポータビリティの意識も生まれてきたのではないでしょうか。
Z_Hyper 昔のモジュラー・シンセって、大きなシステム一つで最強のシンセを作ろうぜってコンセプトが強い気がするんですよ。それが、ユーロラック規格が各社からいろいろ出るようになってからは、ケースの中に自分の理想をすべてワンパッケージにまとめられるのが、昔のモジュラー・シンセとユーロラックの違いなんだろうと思いますね。だから自分で既存のアナログ・シンセみたいに扱おうと思えばできるけど、わざわざモジュラー・シンセやるなら違うなって(笑)。
──HATAKENさんが最初にTFoMをやろうと思ったきっかけや理念とは何だったのか、あらためて詳しく伺えますか?
HATAKEN 理念としては、お金を稼ぐためじゃなくてボランティア精神でやろうというものでした。ピュアにモジュラー・シンセが好きという気持ちで、だから10年続けてこれたのかと思います。また、最近でこそ多様性っていっぱい聞きますけど、その当時から“多様性だよね”っていうのは話していたんですが、デイヴが呼んでくるのはノイズのアーティストばっかりで(笑)。それも否定しちゃいけないなとかいろいろ紆余曲折ありつつ、気がついたら全然違うジャンルの人と話をしていたり、ファッション・デザイナーの人が興味を持ってくれたりしていて。それまではいつも同じジャンルの人と話していたからとても新鮮で、モジュラー・シンセってすごいなというのを主催しながらも感じていましたね。先ほども言ったように、最初の年はメーカーの人たちに展示会をやってもらい、アーティストにはそのブースの間にライブ・セットを並べてもらってライブをやっていたんです。ライブが終わったらそこからいなくなるんじゃなくて、見に来た人に“自分はこれを使ってライブをやっています”という説明をしてもらうのが、コンセプトとしてあったんです。
中山 HATAKENとかデイヴがやろうとしたことは、いわゆる啓蒙活動ですよね。まず、知らない人にモジュラー・シンセを紹介しないと、やっぱりシーンは作れないですから。
HATAKEN 10年たってやりとげたなって思えたのは、自然発生的に毎週どこかでモジュラー・シンセのライブをやっていて、それが、テクノ、アンビエント、エクスペリメンタルなどに細分化されている……多様性だけじゃなくて、そこからまた特化したイベントもやっている。すごい状況になったと思います。
MUTABLEの存在感
── この10年で、リリースされるモジュールのトレンドや変化はありますか?
平井 やはり音楽のフォーマットに則ったモジュールが多くなってきています。例えば、ベースからリードまでシンセの必要な機能が1台に入っているモジュールや、メロディやリズム・パターンまで打ち込むことができるシーケンサーなど、そういった幅広い表現に対応できるもののほうが多く販売されているような印象です。それこそ、2013年ごろまでのモジュラー・シンセがそうだったんですけど、あまり明確な使い方が提示されていないようなモジュールが多くて(笑)。これはオシレーターです、これはフィルターです、あとは皆さんでどうぞ、というようなものが多かったのですが、ある時期を境に、こういう使い方ができますよと提示しているモジュールが増えてきました。それは同時に、モジュラー・シンセの設計として、ライブ・パフォーマンスにも対応できるようなものになってきたということなのかなと。つまり、ある程度最適化されていないと、演奏者として非常に扱いづらかったり、エラーが出てきたり、演奏する上で悩んでしまったりしますよね。それを解決するために、最初からユーザーが目指す演奏が可能なデザインにしておく。そういったモジュールが格段に増えてきたと思います。
──中でも大きな支持を得たメーカーはありますか?
平井 象徴的なのは、MUTABLE INSTRUMENTSですね。オシレーターにさまざまな機能が複合されていて、使い方に合わせて柔軟に機能を変えることができたり、ノブが省略されて音楽的に機能するパラメーターを中心に制御できるように調整されたモジュールをリリースしていました。実際によく購入されていましたし、ライブで使っている人が非常に多かったです。
HATAKEN 使いやすいですし、いろいろな機能が備わっているから、全体のモジュールも少なくできますよね。
平井 “シーケンサーとつなげば、とりあえずカッコ良い音を鳴らすことができます”“ここにエフェクトとオシレーターをつなげば、すぐに演奏できます”といったデザインになっています。ある意味で使い方が固定されたという向きもありますが、同時にモジュラー・シンセでライブをしてみようという人……“僕もできるじゃん!”と考える人が増えました。モジュラー・シンセって壁にいっぱい並べるんじゃなくて、こうやって幾つかのモジュールを組み合わせれば、自分も人前で音楽を演奏できるんじゃないかと。こんなふうに多くの人が可能性を感じられるようになったタイミングは、ここ10年……特に2013年以降という印象が強いです。
──MUTABLE INSTRUMENTSはもう事業を終了してしまいましたが、多くの方が製品を1つは持っている印象です。
平井 DOEPFERより後の主要なメーカーと言えば、僕の考えだと、TIPTOP AUDIO、MUTABLE INSTRUMENTS、MAKE NOISE辺りがライブ・パフォーマンスに特化している印象です。その中でも、TIPTOP AUDIOは使いやすいアナログ・ドラム音源とかベーシックなシンセ、エフェクトが特長というイメージ。MAKE NOISEやMUTABLEINSTRUMENTSはもう少し実験的というか、未知の音楽の可能性に触れつつも、きちんと演奏できて、どんな音楽ジャンルでも扱えるようになっています。既存のアナログ・シンセでは出せない音……“これはモジュラー・シンセを使わないとできないっぽいぞ”と思わせるだけの何かがあるんです。それは、オシレーター、シーケンサー、エフェクターといった個々の機能の話ではなく、モジュール全体のデザインにおいてそう感じさせるものがありました。
HATAKEN 僕もそうですね。MUTABLE INSTRUMENTSのモジュールは、とりあえず端から全部手に入れなきゃと思ったし、代表的なモジュールだけでも十分に使えます。最初にElementsを買ってみたら、すごく良い音だなと驚きましたね。
──まさに近年のモジュラー・シンセを代表するメーカーなのですね。
Z_Hyper この10年の話だと、モジュラー・シンセを使う人も増えたけど、買える場所も、かなり増えたと思います。どんなモジュールがあるのかも、昔はAnalogue Havenという海外のWebサイトをカタログ代わりに眺めていましたから。それこそModularGridがなかった時代は大変でした。
HATAKEN そうそう。ModularGridが出てからとても便利になりましたね。
Z_Hyper 消費電流の計算のために、DOEPFERがSystem plannerというExcelファイルを配っていて、段々ほかのメーカーも配ってくれるようになったんですけど、さすがに無理があるだろうと。で、気がついたらModularGridができてて、これだよ!って(笑)。
https://modulargrid.net/
──メーカーも増えたのでしょうか?
HATAKEN 増えつづけていますし、なくなっていくメーカーもあります。
中山 メーカーと言ったって、2〜3人でやっているガレージ・メーカーも多いと思うんですよね。だからフットワークも軽いだろうし、やめるときはスパッとやめられるのかな。
──そのガレージ・メーカーの存在が、モジュラー・シンセの特徴の一つかと思います。パッケージされたアナログ・シンセを個人レベルで作るのは、相当ハードルが高いように思いますし。
HATAKEN そうですね。ガレージ・メーカーができるようになったのは、アメリカでシンセのフォーラムが盛んになったのも一因と聞いています。当時のフォーラムで、ある人が、“ユーロラック・サイズでこういうものを作ろうと思うけど、作ったら欲しい人いる?”というところから開発がスタートして、それがシリーズ化して段々とメーカー化していく。最近聞いた話だと、スペインのBEFACOというメーカーも最初は2人だったのが、今では10数人の会社になっていて、さらにPATCHING PANDAといったBEFACOから分かれて独立したブランドも出てきています。
──それはもうガレージ・メーカーというより、立派な一企業という感じですね。
HATAKEN BEFACOはDIYで作るワークショップを開いていて、自分で自分のモジュールを作り、そこからモジュールを育てるように必要なものへと改造していく、というのが基本的な考えとしてあるようです。既製品と同じものも自分たちでプログラムすれば作れるし、そこにアイディアを足したらもっと面白いものができるかもと考えているうちに、いつの間にか開発者になっていたという(笑)。趣味的な人たちが結構気軽にやっていて、我々が想像するメーカーとはまたちょっと違う形なんだなと思いましたね。
Z_Hyper モジュラー・シンセってペダル・エフェクターに比べて、良くも悪くも裏面が基板モロ出しでいいから作りやすい。ペダルだと箱に入れなきゃいけないというレイアウトの制約があるけど、極端な話、モジュラー・シンセって、とりあえず板に穴を開けて、ジャックとツマミが付いていれば成り立ちます(笑)。そう考えると、作ろうと思ったときに作りやすいのかと思います。
30秒の映像では分からない
──海外でもモジュラー・シンセ・シーンは盛り上がっているのでしょうか?
平井 Five Gは、ここ数年、東南アジア系のお客さんが多くて。タイとか、インドネシアとかでは独自にコミュニティができているみたいです。韓国、中国からもいらっしゃいます。まだなかなかモジュラー・シンセを販売しているお店がなかったり、そもそも楽器店という文化がない地域もあるようです。
HATAKEN 中国にはModular Communeというイベントがあって、実際に行ってみたらTFoMの10倍くらい大きかったですね(笑)。来場者もたくさんいたけど、何がすごいかって、そこのエリア一帯がアートを推奨する地区になっていて、ギャラリーなどさまざまな催しがあり、週末になると若者が集まってくるんです。そこに来ている人たちに、“無料でやってるよ”と案内しているから、吸い込まれるようにどんどん人がModular Communeに入ってきて、ぐるっと見て回る。だから、一般の人まで巻き込んだ盛り上げ方は、日本とはちょっと違うのかなとは思いましたね。
平井 何か盛り上がってるみたいだから行ってみようみたいな感じですよね。国内だとどちらかと言うと、シンセを持っているか欲しい人、コミュニティに関わっている人だから来る。ドイツのSuperboothやアメリカのNAMM Showもそうですけど、シンセに全然興味を持っていない人がどれだけ巻き添えになってくれるか(笑)。とりあえず来たよっていう人の数の多さに、すごく差を感じます。
HATAKEN 受け入れられ方が全然違いますよね。
平井 知らない人に触れてもらったときの表情や反応って、結構かけがえのないものですからね。これを使って音楽を作っている人がいるらしいぞと思ってもらうことが、いかに尊いか。こうやって物事は大きくなって、広がっていくんだと実感します。
HATAKEN シーン全体で見たらモジュラーがものすごく広がってる国があるかって言ったら、そういうわけじゃなくて。どこでも市民権としては日本と同じような感じのパーセンテージだと思うんですよね。
平井 プレイヤーそのものの数や音楽イベントの数は日本が圧倒的に多いと思うけれど、公共の場で触る機会があるかというとなかなか……公共にどう絡んでいくかというのは、今後考えるところかなと思います。
HATAKEN そうですね。広げ方としてね。
──次の10年では、どんな状況になっている、もしくはなっていてほしいですか?
平井 3月にRITTOR BASEで行ったイベント“Sunday afternoon with Buchla”のときに、蓮沼執太さんが、BUCHLAのこれからについて、“誤用を期待する”と話されていて。シンセを使用した音楽って、誤用によって新たなものが生み出される印象があります。例えば、アシッド・ベースの象徴であるROLAND TB-303が、最初はギターの伴奏用の音源として開発されたという話がありますよね。モジュラー・シンセは特に、誤用による新たなひらめきが生まれるというのが、唯一無二の魅力かなと。ミュージシャンは技術的な正しさよりも、カッコ良い音を音楽の中にうまく組み込めることを求めていると思いますし、カッコ良い音は設計者が想定していなかった誤用から生まれてきたりもする。それがポップ・ミュージックとして世に放たれて、そこに憧れるユーザーが増えて、うまい使い方、誤った使い方までもが音楽になっていく。そう思うと、モジュラー・シンセはまだ少しポップ・ミュージックの世界では物足りないところもあると思っています。“このシンセが使われているんだぞ”と思わせる音楽が生まれてくることを期待したいですし、それが日本から出てくればより身近に感じる。そうやってユーザーが増えていく姿を見たいです。
HATAKEN 頑張ります。そういうものが作れたら最高です。モジュラー・シンセを生かしたポップ・ミュージックの作品をね。
Z_Hyper TFoMが始まってからの10年を振り返ると、変わらずにじわじわとユーザーは増えていると思いますし、恐らくあと10年は同じ感じでまだ増えるだろうなって。正味、DOEPFERがユーロラックを作って、まだ30年ということは、歴史なんてないようなものです。だから、みんなが最前線を歩いている、今自分が歴史を作っているんだと思って、そのままやっていけばいいんじゃないかなと。まあ、作っているつもりはないですけど、振り返ると歴史になっているんですよね(笑)。
誰もが最前線にいるつもりでやればいいんです
―Z_Hyper
中山 僕は率直に言ったら、シーンが盛り上がっちゃったらつまらないからやめるかもしれない(笑)。いつも何か一番エッジなところに自分を置いているのが気持ちいいっていう、快楽みたいなものがあるじゃないですか。それがこの15年間のモジュラー・シンセだった。それがすごく平坦なものになっていったら、ちょっと面白くないっていうのは正直な気持ちです。だけど、モジュラー・カルチャーが絶えることはないんじゃないかなと。変わった音楽をやっている人は、永遠にエッジを保ったままだと思います。
──今回の特集を読んでモジュラー・シンセに興味を持った方には、ぜひライブ現場にも足を運んでみてほしいですね。
中山 今回の特集を読んでモジュラー・シンセに興味を持った方には、ぜひライブ現場にも足を運んでみてほしいですね。
Z_Hyper 良くも悪くも、自分もひたすらライブをやっていますもんね。終わった後に振り返って、ダメだったなって思う日も多々あるけど、じゃあ、次頑張ろうと。
中山 その一期一会はすごい重要なことだと思うんです。ライブ当日の自分の気持ちが表れる。特にモジュラー・シンセはそういうところがありますよね。
HATAKEN そうですね。確かに音源とは違うし、自分たちで聴き直してみても全然違うし。まずは来ていただきたいですね。
関連記事