ランダムな要素こそがモジュラー・シンセの醍醐味です
マッドチェスター・テクノを基調にしたメロディアスな曲で注目を集めるYota Moriのソロプロジェクト・Acidclankに、モジュラーシンセの導入理由や作品制作に与える影響について聞きました。
── モジュラー・シンセはいつから?
コロナが流行しはじめた時期です。エイフェックス・ツインや電子音楽が好きですし、以前からモジュラー・シンセには興味がありました。コロナで時間があったのと、YouTubeでフォー・テットが出演しているBoiler Roomを見たのもきっかけです。それまでアバンギャルドな音楽しかできない機材かと思っていたけど、ターンテーブルの横に小さなモジュラー・シンセを置いていて、ああいうふうにDJ機材の一つとしてきれいにまとめられるなら使ってみたいなと思いました。
── システムを制作用、ライブ用の2つに分けられていますね。
それぞれ意図が異なります。制作用は実験的なモジュールをたくさん入れているのに対して、ライブ用は楽器として作っているイメージですね。タッチ・センサーやジョイスティックなど、パフォーマンスで物理的に扱えるコントローラー系が多いです。あとライブ用はあまり大きくしたくなくて。バンド・セットのときはギターも背負うし、持ち運ぶ機材としてこれ以上大きいと厳しいんです。
── 制作用のセットには、MUTABLE INSTRUMENTSのモジュールが充実しています。
モジュラー・シンセを始めたときに買いそろえていました。初めて単体のモジュールとして買ったのがMarblesです。ランダム要素が強く、それこそモジュラー・シンセの醍醐味(だいごみ)だと思っていて。メーカーの思想にも共感して、集めるようになりました。クローンも使っているけど、やっぱりオリジナルのパネルがカッコ良いのも使いつづける理由です。クローンは小さくなっている分、機能へのアクセスが階層になっている……直感的に操作できないと、あまりモジュラー・シンセを使う意味がないかと感じています。
── 制作の中で、モジュラー・シンセはどういった場面に登場しますか?
2つのパターンがあって、1つは単純に音が欲しいとき。アナログ・シンセ的に、音として取り込むシンプルな使い方です。DAWで作っていて、例えばベースにもっと太い音が欲しいときは、ENDORPHIN.ES Shuttle Systemを使います。オシレーターがかなり太い音を出せるので、DAWで作ったMIDIノートをCV変換して鳴らしています。Shuttle SystemにはShuttle ControlというMIDIをアナログ信号に変換するセクションがあって、16ch分、何の信号を出力するか設定できる。DAWとの連携には欠かせないし、それがスムーズにできないとモジュラー・シンセのやる気もなくなってしまいます(笑)。
── もう1つは何でしょうか?
Marblesのようにランダムに生成されたフレーズをDAWに入力して、そこから曲作りをスタートするパターンです。遊んでいたらいつの間にか曲作りが始まっていた、というふうにできるのがいいんですよね。
──DAW上でランダムなものを生成するのとはまた違うのでしょうか?
そうですね。DAWだと直感的な要素が出せないし、やり直しができてしまう。これはモジュラー・シンセに限らずですが、オーディオで録ったものをそのまま使うというのが潔くて、かなり多用していますね。
──モジュラー・シンセを使うようになって、作品作りにも変化はありましたか?
すごく変わったと思います。DAW上だけでやっていると、どうしても凝り固まってしまうというか、自分の手癖に落ち着いてしまうところがあるので、そこに不安定なものを取り入れることでブレイクスルーできている気がしています。
──制作用途で、さらにこういうモジュールが欲しいというのはありますか?
欲しいものはいっぱいあり、実際に使ってみないと分からないからモジュールを手当たり次第に買っていた時期もありましたが、そのフェーズは終わったかなと。今はこのセットで十分満足していて、“高級なおもちゃ箱”という感じですね(笑)。僕は最初にShuttle Systemを買って、遊びながら“こういうことができる”というのを学んでいきました。これから始める方も、まずは遊びつつやりたいことを探すのがいいと思います。
私のイチオシ
MUTABLE INSTRUMENTS Marbles
「今年リリースしたアルバム『In Dissolve』で結構使いました。ランダムなリズム・パターンが作れて、ループの回数も設定できる。DAW上の音源やRingsを鳴らして、気に入ったところを切り取って曲に取り込むような使い方もしています。ランダムでコントロールしきれないのがモジュラーらしくて好きですね」
写真で見るモジュール構成&パッチング解説はこちら
卓越したライブ・パフォーマンスと、マッドチェスター・テクノを基調にしたメロディアスな曲で注目を集めるYota Moriによるソロ・プロジェクト。ソロ、バンドなど、活動形態やジャンルを流動的に変化させながら、精力的に活動する。2023年、TFoMにソロ・セットで出演。今年2月にニュー・アルバム『In Dissolve』をリリースした。
Release
『In Dissolve』
Acidclank
(Pヴァイン)
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