新しい考えを提示してくれる教育的な側面があるんです
アシッド・ハウスからデトロイト・テクノまで吸収したトラックメーカー・Yebisu303に、ハードウェア愛を支えるモジュラー・シンセ活用術を聞いてみました。
── いつからモジュラー・ユーザーに?
2018〜2019年くらいですね。それより前から興味はありましたが、まだあまりメーカーがそろっておらず、簡単に入手できるのはDOEPFERくらいでした。そのうちマシン・ライブでモジュラー・シンセを使う人が増え、その音がとてもパワフルなことに驚いたんです。自分が使っているグルーヴ・ボックスとモジュラー・シンセを組み合わせたら、表現の幅が広がるかと思って少しずつ使い始めました。
── 最初に買ったモジュールは?
BASTL INSTRUMENTS Solenoidだったと思います。Trigger信号でソレノイド・モーターを駆動できるモジュールで、これだけでは音は出ません(笑)。1つのモジュールを買ってもすぐにはモジュラー・シンセらしいことができないですし、自分の持っている機材と組み合わせて遊べるように考えて選んだんです。ARTURIA KeyStep ProのGate出力を使ってSolenoidを動かし、ピンポン玉や皿をたたいて鳴らすようなことをしていました。
──使っていく中で気付いたモジュラー・シンセの面白みはありますか?
オシレーターとCVの垣根がないというところですね。CVを受けて動くモジュールにオーディオを入力しても面白い音が生まれることがある。そういった柔軟な発想を試せる自由さがあります。
──実際にモジュラー・シンセを取り入れて、パフォーマンスは変わりましたか?
それまではグルーヴ・ボックスだけで演奏することが多く、その機種で出せる音の幅に依存してしまう面がありました。モジュラー・シンセを加えることで音の幅や奥行きが生まれやすくなったのは大きな変化だと感じます。
── あくまでも、たくさんある機材のうちの1つがモジュラー・シンセという考え方?
そうですね。考え方が変わったところがあるとしたら、DAWだけで曲を作っているときにも“こんな音作りもありだな”と、より自由に音源方式を使い分けられるようになったところでしょうか。減算式シンセのような、オシレーターをフィルターで削って、アンプで音量変化をコントロールする……というアプローチだけではなく、例えばROSSUM ELECTRO-MUSIC Panharmoniumのようにリシンセシスで音を生み出すモジュールがあったりして、これまでになかった考え方で音を作れます。そういった特殊なサウンドは、1970年代よりコンピューター音響技術の研究機関によって発明され、近年ではPure DataやCYCLING'74 Maxなどで培われてきたものですが、モジュラー・シンセでもPanharmoniumを筆頭にいろいろと出てきた印象です。DAWを使う方にとっては、XFER RECORDS Serum 2に追加されたSpectral Synthesisで身近になった音源方式ではないでしょうか。
──モジュラー・シンセのブランドは、想像力をかき立ててくれる意欲的なモジュールを作っているところも多いですね。
音源としてシンプルに活躍してくれるものもありますが、新しい考えを提示してくれる、教育的な側面がモジュラー・シンセにはあると感じています。先ほど言ったように、Pure DataやMaxでも似たような仕組みやサウンドを作ることは可能です。でも、モジュラー・シンセはモジュールを作っているメーカーごと、開発者ごとに違った設計思想を持ち、アクセス可能なパラメーターやその可変幅、操作性が大きく異なっているので、ライブ演奏に適したデザインとは何なのか考えたり、想像もしなかったような音作りのアイディアに気付くきっかけを与えてくれます。
── Yebisu303さんにとって、モジュラー・シンセはどんな存在でしょうか?
ライブにおいて利便性の高い機材で、ギタリストにとってのペダルボードのようなもの。本当に使いたいものだけをコンパクトに詰め込んで持ち運べるのが良いですね。それに、カスタマイズ欲を満たしてくれる趣味性の高いもの……ミニ四駆のような感じでもあります。ミニ四駆って、パーツの組み合わせでどんなマシンを作り上げられるのかという競技性がありますよね。モジュラー・シンセも、104HP×6Uの中でどれだけ面白いことができるかという楽しみや燃える部分があるんです。
私のイチオシ
SDKC INSTRUMENTS Helical
「ピッチと音価が相互作用して、複雑かつ音楽的なフレーズが生成されます。でも、その方向性を自分である程度制御できる部分もあって、バランス感覚が優れていますね。今後、ScaleとWavetableを変更するためのCV入力とMIDI出力を追加できるエキスパンダーが発売されるそうで、さらに表現の幅が広がりそうです」
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アシッド・ハウス、デトロイト・テクノ、エレクトロ、ハード・ミニマルに強い感銘を受け、20代後半よりトラック制作を開始。無類のハードウェア愛好家で、日々マシン・ライブや機材デモ動画制作を行う。近年ではVRコンテンツの楽曲やアニメ劇伴を手掛けるなど、活動は多岐にわたる。
Release
『Echoes of Machine Groove』
Yebisu303
(Yebisu303)
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