日常に根ざした自然な形で、気負わずに音楽を作れるツールです
CM音楽を中心にキャリアをスタートし、2018年ごろからモジュラー・シンセを使い始めたというYumi Iwakiに、有機的サウンドを重ねる制作スタイルやモジュラー導入の背景を伺いました。
── なぜモジュラー・シンセを使うようになったのでしょうか?
以前住んでいたLAではModular On The Spotというモジュラー・シンセのイベントが毎月1回くらい行われていて、みんながイベント会場となる河原にケースを持ち寄って集まるんです。モジュラー・シンセはもともと主人(瀬川英史)がハマっていて、その仕組みが分からない私は全く興味を持っていませんでしたが、Modular On The Spotに行くようになってだんだんと興味が出てきて。
──それまでは全く使ってこなかった?
当時はTEENAGE ENGINEERING OP-1を使い始めた時期で、OP-1の中でフィルターやLFOなどを使っているうちにシンセの仕組みも分かってきたんです。家には主人が使っていない2hpのモジュールが転がっていて、OP-1で得た知識でそれらのモジュールがどういった役割なのかが理解できるようになりました。せっかく余っているモジュールなのだから組んでみようということで、空いているケースをもらってつなぎはじめたんです。最初は主人が基本的なことを教えてくれましたが、後はほったらかしという感じでしたね(笑)。
── そのときはどういったモジュールを使って組んだのですか?
最初は2hpのVCFとVCA、LFO、それとINTELLIJEL DESIGNSのAtlantisとMetropolisでした。基本的には2HPのモジュールから使いはじめていましたね。それらは機能がシンプルなことが多いので、動作の仕組みを理解しやすかったです。
── それからモジュールが増えていった?
そうですね。特にモジュラー・シンセを好きになるきっかけとなったモジュールが、MUTABLE INSTRUMENTS Cloudsです。シンプルなアルペジオもCloudsで鳴らすと奇麗なサウンドになって、その聴いたことのないような響きにハマってしまいました。でも、欲しいと思ったときには生産終了になってしまっていて、中古を探してやっと手に入れたときはとてもうれしかったですね。RingsやPlaitsとかも好きで、MUTABLE INSTRUMENTSがあったからこそモジュラー・シンセ沼にハマった感じです。
──モジュラー・シンセのどういったところに魅力を感じていますか?
すごくシンプルなフレーズを少しずつ変化させるということをフィジカルにやりやすく、“演奏している”という感覚がすごく伝わってくるところ。出てくる音に自分の身体が反応して、モジュールと自分が呼応し合っている感じがするんです。録音するときも、テイクごとに全く同じような演奏にはならないし、その変化が面白いです。何回かレコーディングして良いところをつなぎ合わせたり、重ねることもあります。
── 今、Iwakiさんが気になっているモジュールはありますか?
ちょうどシーケンサーを悩んでいるところなんです。以前はよくSQUARP INSTRUMENTS Hermodというモジュールを使っていました。HermodはDAW並みの機能を備えたシーケンサーで、最近はHermod+という新しいモデルが出ているんですよ。それを狙っていますが、ライブに持ち出すにはちょっとサイズが大きいのが難点です。
── モジュール選びはサイズ感も重要になってきますね。
自宅に据え置きで使う人は気にしなくてもいいんですけどね。私は去年辺りから小さいケースに変えて、あとはELEKTRONのDigitakt、Syntaktを一緒に使うということも多くなりました。
── Iwakiさんの音楽活動において、モジュラー・シンセはなくてはならない存在になっているようですね。
一時期、音楽制作に面白みを感じられないときがあって。でも、OP-1を使うようになってから制作がまた楽しくなり、モジュラー・シンセを演奏するようになってさらに楽しくなりました。今は第2の音楽制作人生みたいな感覚です。マイペースに自分の好きなタイミングで音を鳴らす……それが日常に根ざしているので、自然な形で気負わずに音楽を作れているのだと思います。
私のイチオシ
MAKE NOISE Morphagene
「音の素材を集めるのも、それを自分の音楽に取り入れていく過程も楽しい。どのツマミも好きなモジュールです。昨年に出たイベントが“風”をイメージしたものだったので、風鈴の音を録音してMorphageneで音作りをしました。日常の刺激が音楽の一部になるのがとても面白いんです」
写真で見るモジュール構成&パッチング解説はこちら
1992年よりCM音楽制作を中心に活動をスタート。2018年ごろからモジュラー・シンセを使いはじめ、有機的なサウンドをレイヤーした作風でコンピレーションやスプリット・アルバムに参加。2021年に『Juniper』、2023年に『Nocturnal』、2024年に『Spin a Tale』をリリースした。
Release
『Nocturnal』
Yumi Iwaki
(Kankyō Records)
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