自分の音楽作りに直結する存在。パッチングは作曲と考えています
コントラバスと電子音で独自のサウンドスケープを紡ぐベーシスト/作曲家の千葉広樹に、モジュラー・シンセを選んだ理由や演奏での活用法を深掘りする。
──いつからモジュラー・シンセに興味を?
僕はもともとクラシック・バイオリン上がりで、クラシックや現代音楽のマニアなんですよ。そういう流れで電子音楽もすごく好きで。シュトックハウゼンとかのスタジオの写真に大きなオシレーターが写っていて、“こんなので音出してるんだ”みたいな(笑)。そこが最初の入り口です。モジュラー・シンセ自体に興味を持ったのは、昔のサンレコに載っていたジム(・オルーク)さんのスタジオにあったのを見てからかな。あと、20代のころにキーボーディストの坪口昌恭さんのローディをやっていたんですが、始めてから数年後にモジュラー・シンセが導入され、そこで初めて実機を見て、“おおっ!”となりました。それがもう20年くらい前ですかね。
── 2013年には、初年度のTokyo Festival of Modularに出演されていますよね。
実は、あのときはまだ自分のモジュラー・シンセを持っていなくて、友達の借り物で(笑)。そこから徐々に触るようになりました。だから、最初は他人のモジュラーで入ったんです(笑)。
──実際に使うようになって発見はあった?
そもそも19歳からKORG Mono/PolyやROLAND SH-101とか鍵盤付きのアナログ・シンセを触っていて、アナログ・シンセの構造の知識はあったんです。それを、より自由にパッチングできて、自由にサウンド・メイクできる。構造から作り替えられるのがすごく面白いと感じました。それと、ただ面白いだけじゃなくて、自分の音楽作りにものすごく直結する……僕はそもそも、パッチングは作曲であると考えていて。きれい事みたいに言っていますが、本当に音作り=作曲だと思っています。
──ベースとモジュラー・シンセでは、取り組みの違いなどはありますか?
よく聞かれるんですけど、あまり変わらないんですよね。自分でもそういうスイッチがあるんじゃないかなと思うんですけど、意外と発想の原点って変わらないというか。例えば、音楽という大枠に、いろいろなスタイル、ジャンルがあるわけじゃないですか。で、それを演奏する人がいるという構造があって。ただ、その大きな構造の根源、脳が発想するプロセスっていうのが多分一緒なんですよね。結局、ベースを弾いていても、シンセをいじっていても、あんまり変わんないんだなっていうところにたどり着きましたね。
── 音楽の表現としてシームレス?
限りなくシームレスですね。アコースティック楽器と電子楽器の境目がないと思っています。だって、まず音じゃないですか。アコースティック楽器も波形だし、物理だし。シンセも物理的なものを擬似的に作り出せる。空気を漂うサウンドという意味では、あまり差はないというのが僕の考えです。
──モジュール構成のこだわりはありますか?
ユーロラックにシーケンサーを入れていなくて。外付けのものはあるけど、基本的にパッチングによるCVコントロールと、ツマミを動かして楽器を演奏しているような感じでいじりたいんですよね。弓を弾くような音を出すにはこういうパッチングだな、というのを再現していく。だから、最初はイメージに沿ったスケッチを描くように使って、曲がより音楽的になってきたら鍵盤つきのアナログ・シンセで補助するとか、シーケンサーを使ってみるという感じですかね。ただ特に絶対にこのモジュールじゃなきゃいけないとかそこまでこだわりはなく、いかに現状のシステムで最大限のポテンシャルを引き出せるのかが重要だと思います。
──新しいものを導入するのではなく、今あるもので工夫していくと。
僕はバイオリンをやっていたから絶対音感があって、鍵盤がなくても音程が分かるというか。鍵盤があるとクオンタイズされてしまうけど、鍵盤がないと曖昧な微分音とかをたやすく出しやすい。鍵盤って制約されるデメリットもあるから、僕のユーロラック・システムは、なるべくそういった制約がないようにしています。例えばクロックも、ジャンルによっては正確なクロックが大事じゃないですか。でも、不安定なクロックのほうが好きで(笑)。人力で演奏するような良さがあるというか。それがすごく、音楽の奥行きを作り出している気がしています。電圧で揺れるから面白いんです。
私のイチオシ
AFTER LATER AUDIO Benjolin V2
「Rob Hordijkが開発したシンセBlippoo Boxと、同様の回路を使用したモジュールです。かなり制御不能なんですけど、それを制御するのがすごく面白い。微分音を出したり、アクセントを付けたり、いろいろ使えます。フィルターの効きも良いし、ランダムもできる。シンプルさとは真逆の存在です」
写真で見るモジュール構成&パッチング解説はこちら
1981年生まれ、岩手県出身。ベーシスト/作曲家。コントラバスと電子音によるサウンドスケープを奏でる音楽家。優河 with 魔法バンド、蓮沼執太フィル、サンガツ、スガダイロートリオ、王睘 土竟、Isolation Music Trioなどで活動。多数のレコーディングにも参加する。
Release
「映画『敵』オリジナル・サウンドトラック」
千葉広樹
(MELODY PUNCH)
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