フルートという楽器を超越する 思いついたことは何でもできます
フルート奏者/音楽家のMiyaに、モジュラー・シンセとの出会いや使用する理由を根掘り葉掘り伺いました。
── Miyaさんはモジュラー・シンセとフルートを組み合わせた演奏を行われていますが、いつごろからそのスタイルを?
フルートを電子的に加工しはじめたのは2019年で、モジュラー・シンセのケースを買って本格的に始めたのはもう少し後です。
──なぜ電子的な加工を?
ジャズのフルーティストとして活動を続けるうちに、即興や電子音楽の演奏家とセッションすることが増えていったんですが、フルートの中での幅広い表現はできても、フルートという楽器を超越することはどんなに頑張ってもできなくて。電子楽器の方は演奏の語彙(ごい)が多いから、コミュニケーションを取りたくても難しいと感じていたときに、電子的に拡張すればいろいろとできそうだと思ったんです。最初はペダル・エフェクターを使ったけど、フルート自体の音が劣化してしまい、コンピューターだと、当時はまだ知識がなく、やりたいことを全部やろうとするとレイテンシーが発生してしまって。そんなときに、“モジュラー・シンセだったらレイテンシーがないよ”と聞いて、使いはじめてみました。
── 実際に組み合わせてみてどうでしたか?
まずマイク・レベルだとゲインが足りないことに気づいていなくて(笑)。プリアンプを介してモジュラー・シンセに取り込んでみたら、ものすごく奇麗な音で驚きました。解像度がすごく高いから、いかようにも加工できて楽しかったですね。例えばフルートはそもそも音域が高く、なかなか奇麗に下げることができなかったんですが、MUTABLE INSTRUMENTS CloudsクローンのµBurstは奇麗な低音を作ることができるなど、ほかにはない特徴がある。エフェクト系では一番お気に入りです。
── 確かに管楽器単独では、その楽器から乖離(かいり)する表現に不向きな印象です。
フルートを演奏すると歴史的背景がどうしても付いてきますが、モジュラー・シンセと組み合わせれば、真っさらなところからスタートできる。それが面白いところなんだと思います。でも本当に最初はモジュラー・シンセのことが分からなくて。感覚をつかんだきっかけは、フルートと指にはめるワイヤレス・モーション・コントローラーです。動かせば音が変わる……呼吸とか体を響かせて音を鳴らすことには慣れていたし、モジュラー・シンセも同じように演奏すればいい。私はこれを“情報的身体拡張”と呼んでいます。
──モジュラー・シンセの情報は、どのように集めていったのでしょうか?
ありがたいことに、モジュラー・シンセ・コミュニティはすごく協力的なんです。今使っているVCV Rackも台湾出身のアーティスト、MADに教えてもらいましたし、JAMMINGというメーカーを運営するJJさんの初心者向けのキットをDIYワークショップで完成させました。まさか自分が、はんだ付けして何かを作るなんて夢にも思っていなかったです。
── とてもウェルカムな雰囲気があると。
“こんなことをやりたいんだけど”と聞くと、“あれがいいかも”みたいに、キーワードをたくさん提示してくれるので、それで自分で調べての繰り返しです。今のところ思いついたことで、できなかったことはないです。一つ一つのメーカーの考え方も面白いし、発想を実現しやすいように作っていると、演奏していて感じます。そうは言っても、どうやってやったのか理由が分からないこともいっぱいあります(笑)。たとえ間違った状態でも何かが鳴るし、想像もつかないような面白い音に出会えるのは間違いないですね。
──モジュラー・シンセを始めてみたい人は、どこから始めてみたらいいと思いますか?
試してみたいなら、VCV Rackで方向性を見つけるのがいいかと思います。
──コンピューターのみで音楽を作る人にとって、VCV Rackは親しみやすそうですね。
すごくお薦めです。感覚が少しつかめた後、実機という世界もありますが。一番大事なのは何がやりたいかということかな。生楽器と組み合わせたい人は、まずマイクをつなぐモジュールや、自分に合うプリアンプを見つけてみてください。
私のイチオシ
BOREDBRAIN MUSIC OPTX V2
「オーディオ・インターフェースのアナログ入出力を8ch拡張できるので、VCV Rackをスムーズに連携できます。実機だけでやっていたころは、分岐するためにミキサー・モジュールの数がすごく多くて。HEXLER TouchOSCも併せて、今の活動にはなくてはならないものですね」
写真で見るモジュール構成&パッチング解説はこちら
フルート奏者/音楽家。ジャズ→即興→生楽器+電子音楽。東京を拠点にヨーロッパ、アジアなど国際的に活動。山下洋輔プロデュースの『Miya’s Book』など、多数のアルバムをリリース。現在はフルートでモジュラーを制御するModular Flute奏者として活動を広げる。
Release
『namkang』
Miya
(SUON RECORDS)
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