その場で演奏して鳴る音が 一番気持ち良く感じられます
1990年代より活動する電子音楽家/演奏家のHATAKENに、モジュラー・シンセとの出会いや使用する理由を根掘り葉掘り伺いました。
── HATAKENさんがモジュラー・シンセを演奏するようになったきっかけは?
2013年にTokyo Festival of Modularを初めて開催したんですが、そのときの僕はモジュールを1つも持っていませんでした。当時はKORG Mono/PolyやROLAND TR-606、TB-303などのビンテージ・アナログ・シンセやリズム・マシンにハマっていた時期で、新品のモジュラー・シンセよりビンテージ・シンセの音のほうがいいと信じていたころです(笑)。でもイベントでMALEKKO HEAVY INDUSTRYの設立者の一人であるジョシュア・ホリーが、「まぁ、そう言わずにモジュラー・シンセも使ってみてよ」と言ってきて、MALEKKO HEAVY INDUSTRYのモジュール一式を僕へ送ってくれました。それらはいわゆる“西海岸系”で、モジュラー・シンセに出会ったのはそれが最初でしたね。
──ハードウェアのシンセには慣れ親しんでいたわけですし、モジュラー・シンセにもすぐに慣れたのでしょうか?
最初はWavefolderなどの聞き慣れない言葉がいっぱい出てきて戸惑いました。僕はDAWでの制作に慣れていたので、“とりあえずシーケンサーを用意してシンセを鳴らさないと”という発想でシーケンサー・モジュールを導入し、レール部分だけがあるケースのTIPTOP AUDIO Happy Ending Kitに組み込んでいったんです。そうするとモジュールが入っていない隙間が気になって、次は何のモジュールを入れるか考えるようになってしまって。そのうち“自分でケースを作ったほうが使い勝手が良いんじゃないか”と、オーダーで作ったりしてどんどん増えていきました。今ではかなりのモジュール量になってしまって、Modular Gridで自分がどんなモジュールを持っているのかを管理しないと分からなくなってしまうんです。ModularGridでは自分が持っているモジュール全体の価格も分かるので、見るのが怖い(笑)。
──モジュラー・シンセのどういった部分に面白みを感じましたか?
一度構造や操作を理解してしまえば、新しいモジュールを導入したとしてもその知識や経験が役立つし、演奏中にプログラムし直すなども自在にできる点ですね。アナログ・シンセの場合、CVとGateと言えどピッチとタイミング、フィルター、モジュレーションのスピードなどの一部をコントロールする程度ですよね。でもモジュラー・シンセでは、ほとんどすべてのツマミにコントロール用の外部入力がある。それだけでサウンド・メイクの夢が広がります。あとモジュラー・シンセは、モジュールとの対話の中で生まれる現象に価値があると感じています。演奏を録音してしまうと全く別のものになってしまうため、モジュラー・シンセはその場で演奏して鳴っている音が一番面白いんです。
── モジュラー・シンセを使った現代の音楽についてはどう感じていますか?
実験的なサウンドとしてモジュラー・シンセを使っていることが多い気がします。僕としては、例えばファンクやヒップホップなどの音楽的なフォーマットの中で、表現の一つとしてモジュラー・シンセを入れ込むのが好きなんです。また、それをライブでリミックスするように演奏するのも面白い。モジュラー・シンセでプログラムする音は決まっているけど、ツマミ位置がいつもぴったり同じということはありえないじゃないですか。その微妙な差から生まれる音も、その場その場で感じるものに合わせて作るサウンドも魅力的です。そういったことができるように、僕は今まで音楽を作ってきました。
──これからモジュラー・シンセで実現したいと考えていることは?
2013年からTokyo Festival of Modularを続けてきたわけですが、その間は自分の作品がなかなか作れませんでした。次はモジュラー・シンセをもっと自由に、枠から外れた面白さを聴かせられる作品を作りたいと思っています。でも、先ほど言ったようにモジュラー・シンセはライブで演奏して鳴らして、でかいPAで聴くのが一番気持ち良いんです。そんな現場でプレイしたくなるような作品を今後は作りたいですね。
私のイチオシ
MUTABLE INSTRUMENTS Beads
「リアルタイムにグラニュラー処理が行えるモジュールです。外部CVを必要とせずランダマイズが行えるAttenurandomizerは画期的。Beadsの前身であるCloudsも大好きでしたが、Beadsとしてアップデートされたことでより使いやすくなりました。自分の表現に欠かせないモジュールです」
写真で見るモジュール構成&パッチング解説はこちら
関連記事