牛尾憲輔インタビュー 〜ビンテージのモジュラー・シンセから最新のユーロラックまでを活用する制作について聞く

牛尾憲輔

ランダムなルーティングでも、原型となるリズムの構造自体は作っている 
自分の思考を持って曲を作ることはすごく大事だと思います

牛尾憲輔にインタビューを実施。現在のユーロラック・システム紹介を皮切りに、往年のシンセもいかにして制作へと取り入れているのかなど、じっくりと話を聞いていこう。

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今も現役のMOOG Modular

──今回たくさんお持ちいただいた機材の中でも、特にMOOG Moduarは希少価値が高いかと思います。 

牛尾 ユーズドやビンテージを超えた、ヘリテージ(=遺産)と言えるものだから、このまま博物館にあってもおかしくないのですが、今も仕事で使っていて現役なんです。1つだけ新たにフォーンとミニ・ジャックを変換するモジュールを足していて、それはユーロラックとつなげるためですね。現代的なモジュールの中に組み込んで、今の音楽制作でも使えるようにしています。 

──MOOG Modularだけではなく、すべてが1つのシステムになっていると。 

牛尾 そうしないと、”太いリードや分厚いベース”……いわゆるシンセ・マニア的な発想で終わってしまう。もちろんそれも大好きなのですが、それだけではなくて、太さがありつつもっと聴いたことのない音を出したいし、出せるポテンシャルはものすごくあるから、現行の機材と同じように使いたい。ビンテージだからと扱うと、丁寧な使い方しかできないし、それだとあまり魅力的に思わないんですよね。

──実際どのように使っているのですか? 

牛尾 簡単な例で言えば、ミキサー・モジュールMOOG CP3Aを、ユーロラックのミキサーとしても使っています。CP3/CP3Aには、後のMOOG製品でも採用されているミキサー部分の原型となる回路が使われていて独特のひずみがあり、それがMOOGの音色の特徴の1つになっています。それくらい、当時のひずみがあるものをユーロラックのミキサーとして使うと、すごく良いサウンドになるんです。 

──まさに新旧が融合した形なのですね。 

牛尾 MOOG Modularはシンセサイザーの基礎になったものなので、今の機材のような複雑なことができるわけじゃないけれど、やっぱりほかとは違う特徴があります。1960年代末~70年代前半ぐらいの機材って、良い意味でも悪い意味でも作りが雑なところがあって、例えばTriggerを使ってエンベロープを鳴らすときに、Trigger信号が漏れてアタックに少しだけ乗っかってしまうことがあります。クラフトワークの曲でよく“チッチッ”と鳴っているのは、Trigeerがザップ音に漏れている音なんだと、使ってみて初めて分かりました。そういった特徴があるMOOGに対して、MAKE NOISE Mathsから鳴らすのが面白かったりするし、一緒に使うことで発見があるんです。

システムの中心はCollide 4

──制作はコンピューターがメインで、モジュラー・シンセはサイドカー的な存在であると、中尾さんとの対談でおっしゃっていました。ほかのシンセもたくさん所有されていると思いますが、モジュラー・シンセはどういった際に選択肢として登場するのでしょうか?

牛尾 対談でも話しましたが、一番はやっぱりコンピューター以外のシーケンスが回っているところかなと思います。シーケンサーとしてユーロラックにはWINTER MODULAR EloquencerやMALEKKO HEAVY INDUSTRY Varigate 4+など、MOOG Modularでは960 Sequential Controllerがあって、分解能がきっちりしすぎずに、ちょっとずれたりする世界で回っているのがすごくいいですよね。現実的な制作では、テンポを合わせるためにコンピューターと実機をシンクしなければならないことも多いけれど、ユーロラックがあるとコネクトは楽だし、そこから外れることも簡単です。ユーロラックの中だけで面白いこともできるし、コンピューターとのハブになってさらに広げていくこともできます。 

牛尾憲輔 × 中尾憲太郎の特別対談

──ユーロラックのモジュール構成はどのような考えで作っているのでしょうか? 

牛尾 時期によって幾つかコンセプトがあります。2012年ごろに始めたときは、コンピューターとつないだリアルタイム・フィードバック・サンプラーみたいな用途で、リアルタイムにサンプリングして鳴らしつつ、モジュレーションしつつ、というものを目指していました。その後、物理モデリング音源だけで構成したリズム・マシンとして使っていた時期が長かったです。それにプラス、グラニュラーなども用いてテクスチャーを作るという感じでしたね。そこから今は、JORANALOGUE AUDIO DESIGN/HAINBACH Collide 4というモジュールを中心に据えた形に作り直しているところです。これまでの物理モデリングのリズム・マシンと、ほかのシンセやソフトウェアで再現するのが難しいトランジェントを持った不思議なパーカッシブ群を鳴らすものを併せた、過渡期の状態です。現状の構成ではすべてが1つの目的で動いていないので、重複する機能のモジュールもあります。

── 今のイチオシのモジュールとしてはCollide 4になるのでしょうか? 

牛尾 そうですね。昨年秋に発売されたモジュールですが、まだ全然使い方が分からなくて面白いです(笑)。 

──機材系YouTuberのHAINBACHとJORANALOGUE AUDIO DESIGNがコラボしたモジュールですよね。機材を扱っているYouTubeはよく見ているのでしょうか? 

牛尾 よく見ていますね。情報源として信頼できるし、面白いことをやっていると思います。Collide 4は、HAINBACHが使用している50年以上前の実験機器がベースになっていて、原初的な電子音楽の時代とのつながりもあるし、内部構造はロックインアンプと、恐らくドーム・フィルター(90°の位相をシフトするオールパス・フィルター)によるフリケンシ―・シフターだから、MOOG Modularで所有している1630 Bode Frequency Shifterと同じ原理になっていて自分の知識を生かすこともできます。HAINBACHはすごく詳しくて、ミュージシャンとしてよりもシンセ・オタクとして感心しています。 

── 近年の作品でモジュラー・シンセを多用したものは何でしょうか? 

牛尾 自分のソロ以外でメインに使ったのは『DEVILMAN crybaby』かな。物理モデリングのリズム・マシンにしていた時期ですね。 

──今年、牛尾さんの劇伴作家活動10周年を記念して刊行された『定本』(太田出版)に、大学時代にミュージック・コンクレートを研究していたという記述がありました。モジュラー・シンセの特徴とも言える予測不可能性に、ずっと興味を持たれているのでしょうか? 

牛尾 そうですね。それは結構大事で。僕は卒論でコンクレートというよりジョン・ケージを扱っていて、拙いながらいわゆるチャンス・オペレーションと言われる偶然性について考えていたんですけど、そのケージと同時期にピエール・ブーレーズが、管理されたチャンス・オペレーション、つまり作曲家がある程度コントロールしている中で偶然性が発揮されるということを提唱して、曲を書いているんです。僕もある程度の作家性を残すことはすごく大事なことだと思っているので、CVやGateの動きに対して完全なランダムではなく確率を設定できるWINTER MODULAR Eloquencerをシーケンスの中心に使っています。また、たとえWMD Sequential Switch MatrixでGateがランダムな宛先に作動するようにルーティングしても、原型となるリズムの構造自体は僕が作っているので、管理されたチャンス・オペレーションと言える……のかもしれません。思想としてそうしたベースを忘れないようにモジュールの選定も行っています。モジュラーは構成が大きくなると複雑性が増して、気づいたらパッチングや操作を楽しんでいただけ、なんてことはよくあることなので、自分の思考を持って曲を作ることは、すごく大事だと思います。

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牛尾憲輔

ビンテージだからと扱うのは魅力的に思わない
現代的なモジュールの中に組み込んで、 今の音楽制作でも使えるようにしています

Release

『アニメ「チ。 ー地球の運動についてー」オリジナル・サウンドトラック』
牛尾憲輔 

(ポニーキャニオン)

15世紀のヨーロッパを舞台に、激しく弾圧されながらも地動説の存在を主張し続けた人々を描いたアニメ『チ。—地球の運動について—』。作品を彩った背景音楽全55曲が各音楽配信サービスにて好評配信中。

 

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