Emerald「MIRAGE」ミックス・コンテスト結果発表

Emerald「MIRAGE」ミックス・コンテスト結果発表

Emeraldの楽曲「MIRAGE」を題材として、サウンド&レコーディング・マガジン 2024年4月号で実施したミックス・コンテスト2024。多くの応募作品の中から、最優秀賞と各審査員賞の計6作品が選ばれた。その結果発表とともに、受賞者と審査員たちのコメントを紹介しよう。

受賞者の作品は以下より試聴できます:

👑【最優秀賞】あーたん

あーたん

【Profile】幼少期からピアノが特技。学生時代は吹奏楽部、アカペラ・サークルに所属。現在は趣味程度にDAWを使って作曲やミックスなどを行う。影響を受けたアーティストはYUI、Mr.Children、ゆず。

幻想的な風景をイメージして色を塗るようにミックスしました

 このたびは最優秀賞を賜り、驚きの気持ちでいっぱいです。今回のミックス・コンテストは配信済みのオリジナル・ミックスを含め、お手本となるプロ・エンジニアのミックスがたくさんあり、それぞれの良いところを取り入れつつ、もっとこうしたいというアイディアを盛り込んだミックスができたので、ある意味で1人の力ではなくみんなで作り上げたミックスだと感じています。オリジナルのミックスが現代的でズシンとくるローが出ているのに対して、ピッチや音量を感じやすい帯域にベースを持ってきたのが一番意識したポイントです。また「MIRAGE」というタイトルから幻想的な風景をイメージして、色を塗っていくようにミックスを楽しみました! DAWはAVID Pro Toolsで、よく使用したプラグインはFABFILTER Pro-Q 3です。

賞品|SONY MDR-MV1 & RUPERT NEVE DESIGNS RNHP + Emerald『Neo Oriented』初回購入者特典として作品を配布

SONY MDR-MV1
RUPERT NEVE DESIGNS RNHP
SONY MDR-MV1(写真左)、RUPERT NEVE DESIGNS RNHP(同右)

審査員コメント|Emerald

Emerald

 音の分離が素晴らしく各パートが鮮明に、特にリード系の楽器が際立って聴こえました。何を聴かせたいのかがはっきりしていて、解像度高く楽曲を楽しむことができるミックスだと感じます。スッキリしたキックとベースの立ち位置、ハイハットやスネアのバランス、ボーカルの距離感、ギターやシンセの配置に統一感があり、全体のまとまりも良かったです。フェード・アウトを丁寧に追い込めると、より良くなると思いました。最優秀賞受賞おめでとうございます!

👑【浦本雅史 賞】しらいつばさ

しらいつばさ

【Profile】中学生からギターを始め、FACTやPay money To my Painなどのロックに影響を受ける。軽音サークルや音楽イベントを通じて、ミックスや楽曲制作をスタート。現在は大学の仲間とセッションを定期的に行っている。

L/Rの掛け合いやバランスを意識

 初めての応募だったので、本当にとてもうれしいです。プラグインは基本的にWAVES Gold収録のものを使用しています。キックとベースのタイミングのズレが面白いと感じたので、互いに邪魔をしないような音を目指しました。また、シンセとギターのL/Rの掛け合いや、サックスとボーカルのバランスを意識できたと思います。楽曲を通して、場面ごとにどのパートがメインで、逆にどのパートが支える側になるかを考慮しましたが、今回のコンテストを通して、まだまだ勉強だなと強く感じました。またこのようなコンテストがあればチャレンジしたいです。

賞品|GOODHERTZ Vulf Compressor GHZ-0002 V3

GOODHERTZ Vulf Compressor GHZ-0002 V3

GOODHERTZ Vulf Compressor GHZ-0002 V3

審査員コメント|浦本雅史

浦本雅史

 リバースが鳴り終わった後にどんなインバクトやストーリーが始まるのか、この曲の最初のつかみをしっかりと表現できているなと思いました。全体的にナチュラルな仕上がりになっていますが、それだけではなく、しっかりとデフォルメされている音色もあり曲の世界観に入り込みやすかったです。曲が進むにつれて、場面転換や思い切った部分があると、さらに良くなるのではないかと思いました。これからもお互い音楽で楽しんでいきましょう!

👑【Ryosuke “Dr.R” Sakai 賞】高崎遼太郎

高崎遼太郎

【Profile】中高生時代に吹奏楽部で音楽に触れる。演奏を通して作曲に興味を持ち、現在は楽曲制作をメインに活動。プラグインの物色が趣味。ドラム演奏歴12年。近年最も影響を受けたアーティストは劇伴作曲家の林ゆうき。

ワイドな音像と奥行きを表現

 数ある応募作品の中から選出いただき、ありがとうございます。大変うれしく思います。楽曲のイメージから、音像をワイドに配置し、奥行きのあるミックスを心掛けました。VALHALLA DSPやUNIVERSAL AUDIOのリバーブを複数組み合わせ、都度使い分けながら空間を表現しています。各楽器の魅力を引き出しつつ、まとまりのあるミックスを目指しましたが、特にドラムのサウンドにはこだわりました。今回は生音を生かし、PLUGIN ALLIANCEのLindell Audio 80 Seriesで大まかな音作りを行っています。存在感のあるサウンドに仕上がっていれば幸いです。

賞品|WAVES CLA Drums

WAVES CLA Drums

WAVES CLA Drums

審査員コメント|Ryosuke "Dr.R" Sakai

Ryosuke "Dr.R" Sakai

 全体的なサウンド・キャンバスの構築がうまく、上下左右と奥行きのワイド・レンジなバランスが良かったので選出しました。一方で、すべてのサウンドが平均的に鳴っている印象を受けます。楽曲において、どの部分を際立たせて聴かせていきたいのかというテーマを明確にしてみましょう。そのテーマに寄り添って、EQで各サウンドのエッジをしっかりと立てていくようなミックスを施すと、さらに楽曲の仕上がりが良くなると思います。

👑【染野拓 賞】なるまじ

なるまじ

【Profile】関東在住のサラリーマン。専門学生時代にレコーディングを専攻して学びながら、バンドにも所属。最近は友達の趣味である“歌ってみた”のミックスを手伝ったり、宅録したものをミックスして遊んだりしている。

バンド感を損なわないことを重視

 選ばれるとは思っていませんでしたので驚いております。ミックスにおいてこだわった点は、バンド感が損なわれないようにすること。“シンセ<生演奏”のバランスを意識して配置しました。ダイナミクス系や空間系プラグインにはSOFTUBEの製品を多用しています。ボーカルの処理では、プラグインの最後にOEKSOUND Soothe2を使って処理を頼ることが多かったです。

賞品|U-HE Satin

U-HE Satin

U-HE Satin

審査員コメント|染野拓

染野拓

 空間系の使い方と歌の処理が全体を通して好みでした。ステレオの配置感も気を配っている印象で、歌がしっかり前に存在しつつ、オケ全体が楽曲の展開を色付けている感じがして、最初から最後まで聴きやすかったです。広がった音像には面白さを感じましたが、ステレオ・イメージャーなどの影響なのか、特に低域周りのステレオ感だけ鳴り方に違和感がある部分も。そこがもう少しタイトになるとメリハリが出て良くなると思います。

👑【照内紀雄 賞】有鹿アルカ

有鹿アルカ

【Profile】主に歌い手やVTuberの“歌ってみた”作品でミックスを担当。中学時代に自身で“歌ってみた”の投稿を始め、もっと良い音の作品を作りたいと思い、専門学校でエンジニアリングについて学んだ。

歌も楽器の1つとして捉える

 受賞を聞いたとき、うれしさのあまり固まってしまいました! 僕が特に影響を受けたアーティストがamazarashiなので、まさか照内さんに選んでいただけるとは大変光栄です。今回のミックスは、原曲やエンジニアの方々の手本をあえて聴きすぎないようにして挑みました。すべてのトラックの音がかっこよかったので、聴こえない音があってはもったいないと思い、引っ込んで聴こえるフレーズがあったときはオートメーションを書いたりして持ち上げています。曲全体のグルーヴ感がとても気持ち良く、歌も楽器の1つとイメージしてミックスさせていただきました!

賞品|BABY AUDIO Taip

BABY AUDIO Taip

BABY AUDIO Taip

審査員コメント|照内紀雄

照内紀雄

 ほかの応募作品を並べて聴いたときに、整理されながらもアグレッシブな雰囲気があり、鋭いトランジェント感が耳を引く素晴らしいミックスだと思いました。改善点を強いて言うなら、間奏以降の音数が増えていく場面で少しオーバー・コンプ気味に感じます。各トラックでのコンプやEQをもう少し丁寧に処理するとより良くなるのではないでしょうか。特に混みがちな1kHzや500kHz辺りを重点的にケアすると良いかもしれません。

👑【米津裕二郎 賞】福地達也

福地達也

【Profile】若かりし頃から小田和正や坂本龍一に影響を受け、ギターと鍵盤での弾き語りを趣味として活動。宅録歴は長いが、DAWはここ最近使いはじめた。現在使用しているDAWはAPPLE Logic Pro。

Model N Channelで統一感を出す

 このたびは米津裕二郎賞への選出ありがとうございます。いまだ信じられない気持ちでいっぱいです。素晴らしい音源を提供いただき、相当に楽しみながらミックスすることができました。今回は過去にしてきたミックスからアプローチを変えています。これまでは“○○縛り”を自ら課していたのですが、今回はただただフリーダムに使いたいプラグインを使い、パラメーターも大胆にひねりました。DAWはAPPLE Logic Pro 、プラグインはそんなに持っていませんのでそれほど使っていません。ただVOOSTEQ Model N Channelだけはかなり用い、入力部分で統一感を出そうと試みました。

賞品|MCDSP ML4000 Native V7

MCDSP ML4000 Native V7

MCDSP ML4000 Native V7

審査員コメント|米津裕二郎

米津裕二郎

 必要な条件を満たした、バランスが取れているミックスだと感じました。独特な抜け感のあるドラムのサウンドが特に良かったです。そのほかのトラックのバランスも、新しい発見を与えてくれる仕上がりでした。トータル・コンプに引っかかって若干音像が狭くなっているように感じたので、そこが解決できるともっと良くなると思います。でも、それも含めて個性が出ていて素敵なミックスでした。これからも精進してください!

総評|Emerald

Emerald

歌やドラムがうまく処理されたハイレベルな作品が多かったです

 応募作品はそれぞれ全く違う印象に仕上がっていましたが、良いなと感じた作品はやはり音の分離が良く、立体感を持って作られているものが多かったです。「MIRAGE」は特にトラックが多い曲なので、どの楽器をどの部分で目立たせるのかという意識は大事ですし、それは分離感にもつながってくることだと思います。また、「MIRAGE」は後半にムーディな雰囲気を持つ曲で、僕らとしては最後の余韻まで楽しんでもらいたいので、曲終わりのフェード・アウト処理をどうしているのかも気になりました。バランス感が良く仕上げられているだけでなく、演奏者のプレイをどう見せるのかという作家性やストーリー性のあるミックスかどうかも重要でしたね。

 全体的には、歌やドラムの処理がしっかりとなされたミックスを作っている方が多く、サンレコ読者のレベルの高さがうかがえました。「MIRAGE」は、ビート・ミュージックという意識を持って作った曲で、縦のラインがしっかりと聴こえるということも重要だったんです。最終候補に残った方々の作品は縦のラインが見え、そこへ歌が乗っているというように聴こえるミックスになっていたと思います。

【特集】ミックスパラレルワールド