古賀健一が語るDolby Atmos制作のポイント「Dolby Atmosのスピーカー空間のさらに外へ」

古賀健一が語るDolby Atmos制作のポイント「Dolby Atmosのスピーカー空間のさらに外へ」

 自身のXylomania StudioにDolby Atmosルームを設け、Official髭男dismのライブ映像作品をはじめライブ配信でのDolby Atmosミックスも多数手掛けてきた古賀健一氏。Official髭男dismのアルバム『Editorial』(CD+Blu-ray)に収録された2作目のDolby Atmosライブ映像作品を仕上げたばかりだ。今、最もDolby Atmosを手掛けるエンジニアとしての見地から、さまざまなポイントを語っていただいた。

アーティストの要望をより形にしやすい

 まず、古賀氏にとってDolby Atmosの魅力はどこにあるのかを単刀直入に聞いてみた。

 

 「エンジニアは、アーティスト寄りと技術寄りで結構考え方が分かれますが、Dolby Atmosはそのどちらにもフィットしやすいフォーマットだと思います。アーティスト寄りのエンジニアはよりアーティスティックに作れる。技術寄りなエンジニアは、アーティストやディレクターからの要望を、より具現化しやすいと思います」

 

 つまり、Dolby Atmosは、アーティストのイメージを形にするためのツールであると語る。具体例を挙げてもらった。

 

 「ステレオのときは、苦労してボーカルやスネアを少し上に定位させたり、キックやベースの重心を下げたり、ボーカルをもう少し前に出したいといった要望に応えてきました。Dolby Atmosなら、それがパンニングでできる。LFEもあるし、ボーカルをはっきりさせたいならハード・センターもある。これまでやりたかったけどできなかったことが、比較的自由にできるようになります。実際に、こういうことができる、あそこに音が置けるよとアーティストへ聴かせると、次から次へとアイディアが出てくるんです」

f:id:rittor_snrec:20210907195042j:plain

Official髭男dism『Official髭男dism FC Tour Vol.2 - The Blooming Universe ONLINE -』(『Editorial』(CD+Blu-ray)に収録)のミックスで活躍したプラグインの一部。左上がAmbosonicsマイクの音を7.1.2chに展開するRODE Soundfield、その右と下はDolby Atmosをはじめとするイマーシブ・フォーマットに対応したTONEBOOSTERSのEnhancerとReelBus。右上はDSPATIALのIRモデリング・リバーブReverb。右下はTHE CARGO CULTのサラウンド・パンナーSpanner 3。なお本作のDolby Atmosミックスについては連載「DIYで造るイマーシブ・スタジオ」でも触れている

マイキングの重要性を再度見直す

 古賀氏がポイントを置いているのは、平面にある7ch、ないし9chの使い方だという。

 

 「5.1chはこれまでやってきましたが、ワイド・スピーカーがあるのが大きな違いだと感じています。ワイド、サラウンド、バックのそれぞれの間の空間をうまく使うことで、没入感が出せるし、バイノーラル化したときにも生きるのではないかという手応えを持っています。特に横から後ろにかけての演出は重要。広がっているという感覚を作るには、ハイトと同様に後ろの使い方が鍵になっていると感じています」

 

 一方で、ハイト・スピーカーの使い方にも工夫を加えているそうだ。

 

 「人間は上からの音を感じにくいし、トップ4chの間隔は思っている以上に狭い。だから、トップ・チャンネルは逆相を使ってハイト・スピーカーのさらに上や横に音を作るイメージでミックスしています。通常のステレオで逆相を使ってスピーカーの外に定位させるように、ハイトのさらに上を作る。バックも同様で、バックの後ろを作るイメージですね。最初はDolby Atmosのスピーカー空間の中で表現することを考えていましたが、何作か手掛けているうちに、それよりもっと広い空間を作るべきではないかと。その方が、バイノーラル化したときにより映えるミックスになると感じています」

f:id:rittor_snrec:20210907195217j:plain

Xylomania Studio。モニターはPMC製で、Twotwo.6&5とTwotwo Sub2×2基で9.1.4chを採用している

 そもそも古賀氏がサラウンドに興味を持ったのは、スピーカーを感じさせないサウンドを作りたかったからだという。

 

 「Dolby Atmosに早くから注目していた理由もそれだったんです。ある業界関係者に、スピーカーでDolby Atmosミックスを試聴していただいた後に、APPLE AirPods Maxで聴いてもらったら、“ヘッドフォンから鳴らしてください”と言われて。その方は、まだスピーカーから鳴っていると思い込んでいたんです。そういうことが実際に起こり、今回のヒゲダンは僕にとって5作目のDolby Atmosミックスですが、手応えを感じてきています」

 

 また、オブジェクト・ベースであることによって、録音方法を見直す必要があるのではないかとも氏は指摘する。

 

 「ステレオ・ミックスだと、例えばアコギ1本を録るにも2つのマイクをうまく併用することが多いですが、Dolby Atmosで点として置きたいのであれば、オンマイクはあらためて1本のマイクで良い音を録った方が、ピントが合うのではないかと感じています。昔のアナログ・テープのトラックが少なかったころのマイキングの重要性を再度見直す形になりますね。広げるものは空間をキャプチャーし、点で置くものは1本でちゃんと録る。その両方の意識が必要かなと思っています」

 

 ところで、冒頭で古賀氏が挙げたエンジニアの2タイプ、氏はどちらかと尋ねたら笑いながらこう答えてくれた。

 

 「僕は技術者寄りが好きですが、同時にアーティスティックな遊び心を忘れないエンジニアでありたい。常に何かトライして、誰に何を言われても、実現できるようなエンジニアでいたいと思っています」

古賀健一インタビュー 〜Dolby Atmos Music Creator’s Summitより

 

古賀健一
【Profile】青葉台スタジオに入社後、フリーランスとして2014年Xylomania Studioを設立。これまでにチャットモンチー、ASIAN KUNG-FU GENERATION、Official髭男dismなどの作品に携わる。2020年、自身のスタジオを9.1.4ch Dolby Atmos対応に改修

 Works 

Editorial (CD+Blu-ray)(特典なし)

Editorial (CD+Blu-ray)(特典なし)

Amazon

『Editorial』(CD+Blu-ray)
Official髭男dism
(ポニーキャニオン)

 

特設サイト「Dolby Atmos Music Creator‘s Summit」

【特集】Dolby Atmos Music〜空間オーディオの潮流

www.snrec.jp

www.snrec.jp

www.snrec.jp

www.snrec.jp

www.snrec.jp

www.snrec.jp

www.snrec.jp

www.snrec.jp

www.snrec.jp