LUNA SEAが「ライブの真空パック」アンバサダー就任。ヤマハの新技術でライブ演奏をリアルに再現

 

 YAMAHAは、9月5日に“LUNA SEA「ライブの真空パック」アンバサダー就任発表会”を銀座にあるヤマハホールで開催。ロックバンドLUNA SEAを「ライブの真空パック」プロジェクトのアンバサダーに任命した。同プロジェクトは、ライブ演奏の体験を音楽/文化資産として保存し、後世に伝えることを目的とする。新たに開発された技術“Real Sound Viewing”を通じて、ライブの臨場感あふれる再現を可能にするという。

主催挨拶を行ったヤマハ代表執行役社長の山浦敦氏

 プレゼンテーションでは、ヤマハミュージックコネクト推進部、企画開発担当の柘植秀幸氏が登場。チケットが入手できなかったり、会場までの距離が遠かったりするため、世の中には“観たくても観られないライブ”がたくさんあると話し、この課題の解決作として「ライブの真空パック」を掲げた。

プレゼンテーションを行ったヤマハミュージックコネクト推進部企画開発担当の柘植秀幸氏

「ライブの真空パック」とは

 YAMAHAが提唱する「ライブの真空パック」はライブやコンサートの体験を保存し、時間と空間を超えて再現するプロジェクトで、2017年から技術研究/事業開発取り組んできた。このプロジェクトは新技術Real Sound Viewingが用いられている。

新技術Real Sound Viewingについて

 YAMAHAが開発したReal Sound Viewingは、ライブ演奏やパフォーマンスの音声や照明演出をデジタル化し、記録/再現する技術だ。多様なデータ形式を統一して扱うためのプロトコル「GPAP(General Purpose Audio Protocol)」を使用し、演奏者のニュアンスまで忠実に再現。アーティストが実際に目の前で演奏しているかのような臨場感を提供することができるという。具体的には以下の特徴がある。

  1. 楽器演奏のリアルな再現:新開発のリアンプシステムや既存技術のアコースティックサウンド リプロデューサーにより、楽器の振動や電気信号を高精度に記録/再現。ドラムや弦楽器など幅広いアコースティック楽器の再現が可能。
  2. 照明演出の再現/ライブ映像とのシンクロ:GPAPを用いて音声だけでなく、照明演出の信号も記録/再現。さらにパフォーマンス中のアーティストの姿をスクリーンやモニターに投影し、同期することで、バーチャルライブを提供する。

 発表会の後半では、LUNA SEAのメンバーであるJとSUGIZOがステージに登場。山浦氏からアンバサダー任命証の授与を受け取り、喜びのコメントを述べた。

左からヤマハミュージックコネクト推進部技術戦略主幹の安立直之氏、同部長の三田祥二氏、J、SUGIZO、ヤマハ代表執行役社長の山浦敦氏、ヤマハミュージックコネクト推進部企画開発担当の柘植秀幸氏

 発表会のあとは、同建物の地下にあるヤマハ銀座スタジオにて『LUNA SEA Back in 鹿鳴館』再現ライブの上映会。LUNA SEAは結成34周年を迎えた2023年5月29日に、東京のライブハウス目黒鹿鳴館でプレミアライブを開催した。このライブにはYAMAHAのチームが参加し、音と映像を「ライブの真空パック」技術で収録したという。今回は、その再現ライブがお披露目された。

『LUNA SEA Back in 鹿鳴館』再現ライブの様子。ステージ上にはギターアンプ、ベースアンプのキャビネットやドラムセットを設置し、それぞれマイキングされている。
© 2023 LUNA SEA Inc.

 この再現ライブにはLUNA SEAのメンバーが実際に登場するわけではなく、スクリーンに映し出される映像が流されるのみ。しかし、その場に響くサウンドは映像からの音ではなく、ライブさながらのリアルな音が再現されているように感じた。

 特に注目すべきはステージ中央のドラムセット。映像に映るドラマー真矢の演奏と完全に同期し、ステージ上のドラムが自動演奏で動いている。

ステージに設置されたドラムセット

シンバルを始め、タムやスネアなどの各ドラムパーツには独自開発の加振機が取り付けられている。これによってドラム演奏を忠実に再現できるという

 ここでは拓植氏が再び登場し、Real Sound Viewing技術の一つ“アコースティックサウンド リプロデューサー”について説明。振動伝達装置をアコースティック楽器に取り付けることで楽器の音響特性を詳細に分析し、その特性をデジタル技術で再現するのが目的だと語った。

ヤマハ銀座スタジオにて「ライブの真空パック」の技術説明を行う拓植氏

 柘植氏は“真矢さんによるドラムの打撃が強力だったため、より強力な再生装置を新たに開発しました。また、ハイハットのペダル操作も忠実に再現できるようにシステムを開発しています”と述べた。

ドラムの再現システム(プロトタイプ)

 また、ステージ上にはギターアンプとベースアンプのキャビネットが3台並び、それぞれSUGIZO、J、INORANによる演奏を再現。ドラムのみならず、これらのギターアンプとベースアンプから出力される音声は臨場感を生み出し、現場でしか体感できない圧倒的な迫力を感じた。

ステージ下手にはギターアンプとベースアンプのキャビネット、同上手にはギターアンプのキャビネットが配置されている

 ギターやベースを再現するシステムには、独自のリアンプ技術が使用されている。柘植氏にいわく“従来のリアンプの仕組みを使ってエレキギター、エレキベースの再現を試みたところ、大きな課題に直面しました。録音時にはダイレクトボックス、再生時にはリアンプボックスを使用しますが、これらを通すことで音が変化し、元の音を再現できなかったのです”とのこと。

 そこで、柘植氏は“ダイレクトボックスとリアンプボックスを統合的に設計し、元の音と限りなく同じ音を再現するシステムの開発に成功しました。それが今回使用しているダイレクトボックスとリアンプボックスです”と述べた。なお、オーディオインターフェイスには同社のRUio16-Dを用いている。

写真左に見えるのが、新開発リアンプボックスULTI-RA(上段)とダイレクトボックスのULTI-DI(下段)。いずれもプロトタイプだ。同右はオーディオインターフェイスのRUio16-D

新開発のリアンプシステムの概要図。機材による音質の変化を極力抑え、生演奏と同じクオリティで再現することを目的としている

 YAMAHAは今回の技術を段階的に市場投入し、ライブ/コンサート市場に新たな価値を提供していく計画だという。現代の音楽だけでなく、伝統音楽の保存や継承にも活用できると話している。

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