梅田 BANGBOO|音響設備ファイル【Vol.90】

2024年8月にオープンしたライブ・ハウス、梅田 BANGBOO。高い天井と、フロアを囲うように設置されたLEDパネルが印象的な大阪の新音楽拠点だ。音響面ではオランダのメーカーAlcons Audioのスピーカーを採用し、同社の特徴であるプロ・リボン・ドライバーによるクリアで滑らかなサウンドが楽しめる。早速、中を見ていこう。

6.5mの開放的な天井高と正面/左右に設置されたLEDが特徴

 梅田 BANGBOOは、JR大阪駅や地下鉄御堂筋線の梅田駅からもほど近い、大阪の中心地に誕生した。東京と大阪、兵庫でライブ・ハウスやスタジオを多数手掛けるベースオントップが、その知見を生かして作り出した新たな音楽拠点である。そのコンセプトを店長の松藤光軌はこう語る。
 「大阪ならあそこだろうと言ってもらえるような、今までにないようなライブ・ハウスを作りたいという思いがありました。ライブ・イベントとオールナイトのクラブ・イベント、両方を行います。作りとしては天井の高さと、ステージ背面およびフロア横の3面に設置したLEDパネルが特徴です」

取材にご協力いただいた皆さん。左から梅原健太郎、松藤光軌、青木茂樹

会場後方を見上げた様子。地下2階のライブ・スペースから階段を上がった地下1階にバー・カウンターがあり、窓(写真中央下)からライブが見られるようになっている

 天井高は6.5m。建物の地下1階と2階が吹き抜けになっていて、開放感に満ちた空間が広がる。システム・プランニングを担当したベースオントップの青木茂樹は「この天井高があったからこの場所を選んだ」と言う。
 「当社の系列店の中で、松藤が20年ほど店長を務めた北堀江club vijonが、やはり天井の高いライブ・ハウスで非常に評判が良いことから、天井高はこの物件を選ぶ大きなきっかけになりました。この天井高を生かす形でLEDパネルを設置し、ステージ高も80cmと高めにしてあります。フロアがいっぱいになった状態でも演者がよく見え、ステージ側からもお客さん一人一人の顔がよく見えます」

PAブースからステージを望む。3面に設置されたLEDパネルは天井の高さを生かして高い位置に設置されているため、演者やフロアの人で遮られることなく演出を見ることができる。また、照明器具も多様なジャンルに対応できる選定になっており、公演によって空間全体を使った自在な演出できるのも魅力の一つだ

ひずみなくクリアなサウンドが特徴のAlcons Audioをチョイス

 この特徴的な空間をサウンド面で演出するのがAlcons Audioのスピーカーだ。メインにLR15/90を8台、サブウーファーにBF362i MKIIを2台、インフィルにVR8を2台、モニターにVR12/90を9台、パワー・アンプにALC Sentinel 10とALC Sentinel 3を2台ずつ導入している。そのチョイスを青木はこう話す。
 「系列店である浅草 VAMPKINにAlcons Audioのスピーカーを導入しているのですが、コンパクトなのに音量、音圧があり、音質も良いと感じていたんです。今回、天井の高さを生かす意味でも大きなスピーカーで視界を遮りたくないと考えていたのでAlcons Audioに決めました。音質については、プロ・リボン・ドライバーはひずみにくく、大きな音でも小さな音でもクリアに聴こえるのが特徴だと思います」

メイン・スピーカーはコンパクトなラインアレイAlcons Audio LR15/90(写真右)を左右に4台ずつ、インフィル・スピーカーはVR8(写真左)を左右に1台ずつリギング。いずれも高域にはプロ・リボン・ドライバーを使用

18インチのウーファーを2基搭載するサブウーファーAlcons Audio BF362i MKII。ステージ中央下に2台設置している

ステージ・サイドに設置されたモニター・スピーカーAlcons Audio VR12/90。こちらも高域にはプロ・リボン・ドライバーが使用されている

ウェッジ・モニターはAlcons Audio VR12/90を使用。格子状のカバーはスピーカー保護のために取り付けている

 プロ・リボン・ドライバーはAlcons Audioの独自技術。一般的なプロ・オーディオ・スピーカーで高域に用いられるコンプレッション・ドライバーは構造上、音を一度圧縮してから出すため音が大きくなるとひずみが生じる。プロ・リボン・ドライバーはそれがないため、小さな音から大きな音までひずみなく再生できるのだ。
 「また、パワー・アンプをPAブースに設置しており、ステージ下のサブウーファーまでのケーブルの長さが40mくらいあります。この長さでケーブルを這わせると低音がボワッとしてしまうことが多いのですが、Alcons Audioのパワー・アンプは、SIS(Signal Integrity Sensing)という、長いケーブルを使ったときのダンピング・ファクターを補う機能が入っていて、そのおかげで40m引き回しているとは思えないくらい低音がタイトに締まっています。実際に音を出してみて、一番大きく実感したのはそこですね」

DM7の下にあるメイン・スピーカー用パワー・アンプAlcons Audio ALC Sentinel 10。スピーカー・ケーブルを長く引き回した際の補正を行うSIS(Signal Integrity Sensing)のおかげでPAブースに設置でき、ステージを広く活用できるという利点もあるとのことだ

ステージ下手側に配置しているモニター・スピーカー用のパワー・アンプAlcons Audio ALC Sentinel 3。ディスプレイには眼球が映し出され、一定時間が経過するとスクリーンセイバーとして、写真上のようにまばたきをする仕様となっている

 PAを担当する音響チーフの梅原健太郎も、やはりプロ・リボン・ドライバーの恩恵を感じたという。
 「音量が小さいときでも大きいときでも再現度が変わらずクリアに聴こえるのでオペレートしやすいです。繊細なニュアンスも、アグレッシブなサウンドも、さらにはメタルのように重厚なジャンルにもしっかり対応できる良いスピーカーだと感じました。モニター・スピーカーもAlcons Audioなので、演者もソトオトを聴いているような感覚でモニタリングできるのではないかと思います」
 Alcons Audioのスピーカーは、専用ソフトALControlを使って音のチューニングが行える。青木によると「スピーカーの型番を選ぶと出てくるメーカー推奨のセッティングでしっかり鳴っていた」とのこと。
 「あとは箱独自の鳴りに合わせたチューニングを少しするくらいでOKです。野外とか、開けた場所ならグラフィック・イコライザーを使わなくてもいけるんじゃないかという印象ですね」

FOHコンソールはYAMAHA DM7を採用

LEDと照明/レーザーのコンビでビジュアルの演出も充実

 ビジュアル面の設備を見ていこう。先述したとおり、梅田BANGBOOの大きな特徴となっているのが、ステージ後ろとフロア横のLEDパネルだ。青木は言う。
 「ライブ・イベントだけでなく、DJイベントやダンス・イベントも行うので、ビジュアルでも楽しめる空間にしたいという思いがありました。オープン前のレセプションでVJに入ってもらって映像を出したところ、フロアの反応も良く、手応えを感じました」
 照明についても、天井高を生かす灯体が選ばれている。
 「天井の高さをより引き立たせるために、光の線の重なりが奇麗に出せる灯体を選んでいます。ステージの上だけでなくフロアの上にも灯体をつって、ステージとフロア一体で演出できるようにしていて、その空間の中にLEDの映像も入ってくるような形を想定しています。レーザーも、この店の大きさでないと入れられないサイズのものを入れたので、ビジュアルの演出にも期待してください」
 2フロア吹き抜けの天井高が生み出す開放的な空間に、音、ビジュアルともにハイ・クオリティな機材をそろえた梅田 BANGBOO。メジャー、インディー問わず良質なライブを届けていくとともに、クラブ・イベント、ダンス・イベントも積極的に打ち出していく予定とのこと。今後の展開が楽しみだ。

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