『globe tour 1999 Relation Remaster Edition』〜Dolby Atmosで蘇る、あのライブ・サウンド

globe

KEIKO(vo/上段写真中央)、小室哲哉(prog、k、syn、g/同右)、マーク・パンサー(vo、rap/同左)から成るglobe。彼らが1999年に敢行したアリーナ・ツアー『globe tour 1999 Relation』のライブ・ビデオは、2000年にDVDとVHSでリリースされたが、その後の復刻リリース含め、いずれも数曲が欠けた状態となっていた。今年8月に発売された『globe tour 1999 Relation Remaster Edition』は、その全楽曲を網羅するBlu-ray。ステレオだけでなくDolby Atmosミックスの音声も収録する上、初回生産限定盤のNeSTREAM LIVE視聴シリアル・コードを使用すれば、スマホ・アプリでもDolby Atmosのサウンドが楽しめる。ミックスを手掛けた岩佐俊秀、株式会社クープのピーズスタジオMA2で岩佐をサポートした村上智広に、全国の映画館で展開された先行上映会用の5.1chサラウンド・ミックスも含め、音作りについて聞く。

PCM-3348で録られたマルチからライブのコンセプトや音作りを分析

qooopの村上智広、岩佐俊秀

取材に協力してくださったqooopの村上智広(左)、岩佐俊秀(右)

  岩佐によると、『globe tour 1999 Relation Remaster Edition』のミックスは次のような手順で行われたそうだ。

❶素材と『globe tour 1999 Relation』(2000年に発売されたライブ・ビデオ)の照合

❷素材の分析

❸『globe tour 1999 Relation』の音の再現

❹現代的なテイストの付加

❺MAスタジオでのDolby Atmosミックス

❻ダビング・ステージでの5.1chサラウンド・ミックス

 ミックスの実作業は❸~❻の工程で、2ミックスではなくDolby Atmosミックスから着手したという。また、そのDolby AtmosミックスはBlu-rayとNeSTREAM LIVEの両方で使われることとなった。Dolby Atmosミックスの後、映画館用の5.1chサラウンド・ミックスも制作されたので、都合3種類のミックスが存在する。

MA2

『globe tour 1999 Relation Remaster Edition』のDolby Atmosミックスが行われたqooop飯倉オフィスのMA2。9.1.4chのマルチスピーカーを有し、Dolby Atmos Homeに対応する

 まずは❶について見ていこう。使用された素材というのは、もともと『globe tour 1999 Relation』の制作に使われたマルチで、1999年にSONY PCM-3348で録音されている。それをアーカイブ化した24ビット/48kHzのオーディオ・ファイルがレコード会社にあって、借りることができたという。「素材を自宅のAVID Pro Tools Ultimateにインポートして、DACのASTELL&KERN PEE51を介してヘッドホンのSONY MDR-MV1で確認しました」とは岩佐の弁だ。

 「手元にある素材と過去のライブ・ビデオを突き合わせて、両者が本当に一致しているかを確かめました。また、未発表の部分があればファンの方々に喜んでもらえます。だから、そういうところがないかな?と素材から探して、今まで世に出ていない部分をできるだけ出していこうとしたんです」

 続いては、工程❷の素材の分析。「どういうコンセプトでライブが作られていたのか、どんなふうに音が作られていたのかというのを、当時のライブに関する資料や文献を読みながらひも解きました」と、岩佐は続ける。

 「globeに関しては、僕も曲作りの段階からスタジオワークに入ってたし、このライブにも参加していたんですが、なんせ25年前なので、考古学のように調査をする必要がありました。先輩の方々から話も聞いて、なぜこういうライブにしたのかな?というのを振り返って分析したんです」

MA2の後方からデスクのほうを見たところ

MA2の後方からデスクのほうを見たところ。L/C/RのスピーカーはGENELEC 8351Bで、ワイド×2台、サイド×2台、リア×2台、ハイト×4台はGENELEC 8341Aとなっている

MA2

デスク側から後方を見たところ。写真左のラック最下段には、最大9.4.6chのDolby Atmosや8K映像の再生に対応したAVサラウンド・アンプDENON AVC-A110の姿が

GENELEC 7370A

サブウーファーはGENELEC 7370Aを2台用意

当時と今では低域の捉え方が違うから、EQやLFEチャンネルを活用した

 次の工程は、❸『globe tour 1999 Relation』の音の再現。その話へ入る前に、岩佐はライブとライブ・ビデオについての考えを語る。

 「ライブのサウンドって、まずはスタジオ録音の音源の再現をしなきゃいけないと思うんです。ファンの方々は、音源を聴き込んでからライブに来ますよね。だから、その再現をしたうえで、ライブとしての体験価値が高まるような工夫をする。もちろん、最終的には音源と違うバランスになるのですが、そういうことをしなければならなくて。次の段階は、ライブに来た人がライブ・ビデオを見て追体験をすること。だから、会場で体験してもらった音と作品の音が全く違うバランスだと良くないと思っています。そうならないように、当時なされていたことを可能な限り忠実に再現したかったんです」

 「だから、楽器隊の定位はL/C/Rだけにしました」と、今回のミックスに言及する。ミックスのベーシックは、自宅でAVID Pro ToolsやDOLBY Dolby Atmos Renderer、MDR-MV1などを使って制作した。

 「アプローチの仕方はたくさんあると思うのですが、Dolby Atmosだからといってアトラクション的にいろんな方向へ音を散りばめても、ライブ会場では違いましたよね?ってなると思うんです。でもリアやハイトに定位させた素材もあって、特にオーディエンス・マイクやリバーブ成分を上方に配置すると、格段にライブ会場っぽくなります。それが、より当時のライブの追体験につながるのかなと。こんなふうにしてDolby Atmosの定位を作っていきましたが、過去のライブ・ビデオを見た方々が違和感を覚えないよう、いかにバランスを取るかが大事でした。そのうえで今時のライブ感を足したかったんです」

 今時のライブ感とは、どういうものなのだろう? ここからは、❹現代的なテイストの付加に関してだ。

 「1990年代と今とで根本的に違うのは、例えば低域の捉え方です。現代のライブは低域をものすごく上げているから、過去のライブ・ビデオの音を聴いていると“足りない”ってなる。そこで今回は、EQでしっかりローを持ち上げたり、LFEチャンネルに送ったりして量感を増やしました。ただ、素材の音そのものは、どのパートも素晴らしくて……当時のライブでPAを担当していらしたスターテック志村明さんの音作りが光っています。KEIKOさんやマークさんの歌も仕上がった状態で、小室さんの演奏もピカイチだし、バンド・メンバーも一流なので、特別なことをする必要は全くなかったんです。並べただけで良い感じだったから、不要な部分をカットしていくような処理がメインでした」

会場の空間の響きを再現するためにLIQUIDSONICSのリバーブを駆使

 ライブ本番では、PAチームによる音の演出もあったそうだ。

 「演者の心の動きに合わせてリバーブを深くしたり、何かを左右に大きくパンニングしたり、いろいろとやっていたようです。オーディエンス・マイクの音には、なんでこっち側の歓声だけが大きいんだろう?という部分があります。分析していくと、PAチームが演出を加えたときに、お客さんが反応しているから音量が上がっているんですよ。そういうところに手を加えるべきか加えないべきかは、よく考えました。例えば、リバーブを追加してデフォルメしたほうが伝わりやすいと判断したら、元の雰囲気を保ちつつプラグインのリバーブを追加したんです」

 当時のPAにはアナログ卓やアウトボードが使われていたが、それらで作られた音に現代のプラグインはマッチするのだろうか?

 「そこも、入念に選びました。リバーブに関しては、楽器隊にLEXICON 480の再現版RELAB DEVELOPMENT LX480を使っています。何種類ものリバーブを試したんですが、結果的に“やっぱりLEXICON、雰囲気が出るよね”ってなって。あと、会場の空間の響きを再現するためのリバーブを別途、用意しました。Cinematic Rooms ProfessionalというLIQUIDSONICS製のマルチチャンネル対応リバーブで、“スネアをたたくと、これくらい響く”という設定を作ってから、あらゆる楽器にかけました。すると、全員がその空間で演奏していることになるので」

 こうした演出的な音作りは、自宅で仕込んだPro ToolsセッションをクープのピーズスタジオMA2に持ち込んで行ったそう。工程❺MAスタジオでのDolby Atmosミックスである。MA2はDolby Atmos Homeに対応した9.1.4chのマルチスピーカー環境で、「ヘッドホンだけでは聴こえなかった音がたくさん聴こえてきました」と、岩佐は言う。

 「ですので、普段からMA2の音を聴いている村上さんに逐一“どうですか?”とか“ほかの人はどのくらい出していますか?”って尋ねて、アドバイスをもらいつつ調整しました。ただ、全体の流れや定位感を含め、ベーシックから大幅に変えるようなことは、あまりなかったと思います」

TACSYSTEM VMC-102 IP

MA2のモニター・コントローラーはTACSYSTEM VMC-102 IP。先代のVMC-102にDanteインターフェースを追加したバージョンだ

MA2のラック

MA2のラック。最下段のAPPLE Mac ProはメインのAVID Pro Tools用で、2台のPro Tools|MTRXとつながっている。ラックの上部にあるMac MiniはDOLBY Dolby Atmos Rendererをインストールしており、RME MADIface XTのMADI回線でMTRXとコミュニケーションを取る

AVID S1

コントロール・サーフェスのAVID S1

 「Dolby Atmosミックスを映画館用の5.1chサラウンド・ミックスの基準にできたら良いですね、と話していました」とは村上のコメントだ。❻ダビング・ステージでの5.1chサラウンド・ミックスについて振り返ってもらおう。

 「映画館用のサラウンド・ミックスは、松竹映像センターさんのダビング・ステージに入ってバランスを決めました。Dolby Atmos Rendererで7.1.2chにたたみ込んだ6本のステムを書き出し、ダビング・ステージに持ち込んで5.1chにダウン・ミックスしたんです。ステムの内容は、楽器隊とボーカル、オーディエンス、それぞれのリバーブ成分。ホーム環境のMA2で5.1chに落とし込むよりも、7.1.2chの状態で持って行ったほうが調整の幅が広いだろうと思っていました」

 5.1chサラウンド・ミックスの仕上がりは、Dolby Atmosミックスとはまた違ったバランスだ。「オーディエンスの音量感やリバーブの印象などが変わっています。やっぱり、映画館だからこそ表現できるライブ感というのを加えたかったので」と、岩佐は語る。

 “ライブの追体験”を現代の技術で高度に実現した『globe tour 1999 Relation Remast
er Edition』。冒頭で述べた通り、Dolby Atmosミックスの臨場感あふれるサウンドは、初回生産限定盤に付くNeSTREAM LIVE視聴シリアル・コードを使って、スマホ・アプリでも聴くことができる。お好みのメディアで、ぜひ1999年のあの感動をスロー・バックさせてみてほしい。

ショートバージョンをNeSTREAM Liveで見られます!

 NeSTREAM LIVE(エヌイーストリームライブ)は、Dolby Atmos(ドルビーアトモス)に対応した高臨場感・高画質を特徴とした会員登録不要の映像ストリーミング配信サービスです。スマホ・タブレットにアプリをインストール、二次元コードを読む、またはNFCカードをタッチするだけで臨場感のある映像が楽しめます。Apple TV・Fire TV・Android TVがあればDolby Atmos対応のサウンドバーやAVアンプでもお楽しみいただけます。株式会社クープではDolby Atmos作品の制作・スタジオワークから配信までトータルで対応できますので、イマーシブオーディオにご興味ある方は、是非ご相談下さい。

お問い合わせ窓口

NeSTREAM LIVEでDolby Atmos が試聴できるシリアルコード

globe 1999 Relation -Remaster Edition-より「wanna Be A Dreammaker」

イベントコード:RJ4G
シリアルコード:BNEGEVJ8

QRコード

Ch-1:Dolby Atmos
Ch-2:STEREO

※スマホでご視聴ください

 

Release

globe tour 1999 Relation Remaster Edition

『globe tour 1999 Relation Remaster Edition』

globe
エイベックス:AVXG-72064(Blu-ray/Dolby Atmos)
7,480円(税込み)

商品はこちら:https://avex.jp/globe/relation-remaster/

 

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