今年も7月26~28日の3日間、新潟県湯沢町苗場スキー場にて開催されるFUJI ROCK FESTIVAL(以下、フジロック)。開催を記念して、2022年に弊誌で公開したWHITE STAGEのPAシステムをWeb記事として公開! 2024年は各日のヘッドライナーとしてPEGGY GOU、GIRL IN RED、TURNSTILEを迎え、そのほかにも国内外の注目アーティストが多数出演する。同ステージのPAを手掛けたトライオーディオの東雅明氏による解説を中心に、サウンド・システムの紹介や運営チームのスタッフによる裏話などを紹介していこう。※PAシステム、セッティングなどは2022年10月号掲載時のものとなります。
チームで支えるフジロック〜100%のパフォーマンスを満足してやれる場所を提供するように
チームワークが不可欠なフェス運営。WHITE STAGEの運営を手掛ける人々にそれぞれの立場から話を伺った。
PAの仕事は記録には残らないけど記憶に残る
まずは1997年の初年度からフジロックのPAを手掛けるトライオーディオの代表、東雅明氏に業務の流れを尋ねた。
「ヘッドライナーが決まって、1カ月前くらいに機材リクエストの資料が届くから、機材を手配して、運ぶ段取りをする。あとは設営してデータを入れてバンドを待って、という流れです」
続いて、FOHのコンソールDIGICO SD7で作業を行っていたトライオーディオ向井武将氏に作業内容を伺った。
「データの移行とパッチの管理を3日分行っています。データは出演者から事前に送ってもらうので、それをオペレーターが送ってきた回線表通りになっているか見て、こちらで設定したアウトプットに合わせてパッチし直しています」
東氏はPAの心構えとフェスの機材についてこう語る。
「PAの仕事は記録には残らないけど記憶に残る。失敗も残るから毎回が勝負です。フェスの機材にはポリシーがない方がいい。料理で言うと、どのリクエストにも応えられる鍋を用意します。おいしいラーメンを作ってくれるって言うのに、用意したのがラーメンが入らない鍋ではかわいそうですよね?」
東氏には、印象深いオペレーターが国内外にいるという。
「1999年のアンダーワールドは専属のジョン・ニューシャムがオペレーターで、彼が開発に関わったMIDASの卓とTURBOSOUNDのスピーカーでしたが、音が空に溶けるような感覚はいまだに忘れられません。あとアコースティックの佐々木(幸生)は天才。伝説的なのがゆらゆら帝国やBOOM BOOM SATELLITES。それと、FUNKTION-ONEを導入した年のブライアン・イーノでオペした音はすごかったです」
機材だけでなくやり方も含めて世界基準で戦う
東氏に案内してもらい、舞台監督の田村慎介氏に話を伺うことに。まずは舞台監督の業務内容を教えてもらった。
「タイム・スケジュールを組んだり舞台図面を作ったり、通路を分けるための柵を立てたり、本番を進行したりと、時間や人、物、場所の管理をしています。初対面の出演者でもちょっとした資料だけで本番をやり切らないといけないですし、フジロックでは言葉が伝わらない場合もあるので、コミュニケーションが大事です。あと、僕らはフェスのやり方を手探りするところからやってきたので、まだ失敗もできた世代でしたね。フジロックは主催のスマッシュの方が周りの手伝いなどをしたり、僕も足が濡れないように板を敷くとか、みんなで誰の仕事でもないようなこともして作り上げてきました」
東氏も「みんなの経験やホスピタリティの質が上がってるからこそ引き継ぐのが難しいところまで来ている」と続けた。
初年度から見てきた田村氏は、ライブの変化をこう語る。
「昔はアンプを鳴らしてスピーカーから音を出してその場で作る感じでしたが、今は事前に作り込んだものを再生する人が多いように思います。でも表現できることは増えて、映像や照明もセットで一つの世界になっていますね」
最後に尋ねたのはプロデューサーの山本紀行氏。出演者の要望の取りまとめやそれらを音響、照明チームへ伝えて調整するなどWHITE STAGEのリーダーとして活躍。出演者の満足度を高めるため、常に工夫を凝らしてきた。
「フジロックをワールド・クラスのフェスにするには機材だけでなくやり方も含めて世界基準で戦えないといけません。アーティストがストレスなく、したいことができるのが出発点で、そこにプラスαできれば“ここのフェスは良くしてくれたし楽しかったよ”って帰ってくれる。僕たちは来るものにアジャストする立場なので、最新の演出や機材をみんなが理解して、アーティストが100%のパフォーマンスを満足してやれる場所を提供するようにしています。やり取りしている僕だけでなく、動いてくれるスタッフがみんなお客さんのことを考えてくれているので、信頼して任せていますね」
音響システムの流れ
PA作業が行われるのは、モニター・セクションとFOHの2拠点。それぞれの機材とステージで演奏された音が客席に届くまでの流れを追っていこう。
モニター・セクション〜演奏者のモニター用音声を管理するセクション
モニター・コンソール センターをずらすことで視認性アップ!
ワイアレス・システム
スピーカー・プロセッサー 補正して出力
アンプ イタリアのブランドを採用
Point! 自作ケースを多用したマイク倉庫
マイクやケーブル、スタンドはモニター・セクション内の1カ所に集約。マイクはバンドのリクエストに合わせて種類や数を決めている。多くのケース類は自作していて、ふたが倒れにくいように角を加工し、片手で開けやすいようにキャッチ・ロックを1個に。積み込み速度を上げるためにサイズをそろえるなど、工夫が施されている。
FOH(Front of House)〜客席向けモニターの音声を管理するセクション
コンソール イギリスのフェスを参考に選定
コンソール ステージ間の音声を即切り替え
プロセッサー
ソフトウェア 音響測定&補正を管理
測定用マイク
音圧計
WHITE STAGEを響かせるスピーカー
WHITE STAGEのスピーカー構成と東氏によるこだわりのポイントを紹介していこう。
スピーカーは主にイタリアのOUTLINE製品を採用。ステージ左右にはラインアレイのOUTLINE GTO×12基とダウン・フィルのGTO-DFがフライングされ、その谷間をカバーするため正面にはOUTLINE LIPF-082が4基並ぶ。
ステージ下手のOUTLINE Butterfly C.D.H. 483×4基は、ステージ外の観客へ配慮して設置されたもの。
「AVALONにつながる斜面で聴く人もいるから、そこに向けて良い音で聴かせようと。あとWHITE STAGEは入場規制される場合があるので、せめてステージ横の通路を通り抜けるときだけは良い音で聴かせてあげたいんです」と東氏。
ウェッジ・モニターはトップ・クラスのフェスでも使われるというD&B AUDIOTECHNIK M2を使用。サイド・フィルはTURBOSOUND Floodlight TFL-760HS。左右に3段×2列で並び、中段を上下逆に積むことで中下段のウーファーからの出音が放射状になり、ローエンドが伸びるという。
木々に囲まれたWHITE STAGE。その環境ならではの音の変化を東氏は「自然ってすごいですよね」と話す。
「5年くらい前にここの客席の周りの木が少し伐採されて音が変わりました。以前まではハードにガッと来たのが、少しふわっと広がるようになったんです。でも今年はいい具合に枝が増えたようで、またいい感じに戻ってきたのがうれしいです」