【製品レビュー】弾き心地を追求した61鍵MIDIコントローラーとDAWのパッケージ

ROLANDA-800Pro
最初の一台としても長く使えるMIDIコントローラーとDAWのセット

ROLAND A-800Pro オープン・プライス(市場予想価格/35,000円前後)


普段はDAWとROLAND MC-909、シンセなどでトラックを作ったりライブを行ったりしていますが、これまでMIDIコントローラーを使った作業は経験がありませんでした。しかし、約16年間ROLANDの機材を使い続けた私にとって、A-Proシリーズは大変興味深いセットになっています。鍵盤数違いで32鍵のA-300Pro(オープン・プライス/25,000円前後)、49鍵のA-500Pro(オープン・プライス/30,000円前後)、そして81鍵のA-800Proというラインナップ。今回はそのA-800Proをレビューしていきましょう。


ア程良く負荷があり指にフィットするツマミソフト音源とDAWソフトもパッケージ


a800_1

▲写真1 コントローラー部。中央部から右側にかけての9つのツマミとフェーダー、そして8つのパッドにプラグイン・エフェクトやソフト音源のパラメーターを自由に割り当てて制御できるほか、ツマミ下に並ぶトランスポート系のボタンを駆使すれば録音や再生などをA-800Pro上でコントロール可能。これらのマッピングは一番左のactボタンを押せば簡単に設定できる


a800_pic1

▲画面1 付属DAWソフトのSonar LE。最大8トラックのオーディオと、64トラックのMIDIを駆使した曲作りができる。オーディオ録音は最大24ビット/96kHzとなる


a800_pic2

▲画面2 今回試した付属のソフト音源群。シンセのPSYN I(I 上)やDropZone(下)など強力なソフト音源があらかじめ搭載されている


外観は黒いボディで、無駄が無くシックでシンプル。9個のツマミとフェーダー、8つのパッド、録音/再生などを操るトランスポート・セクションと操作子が豊富に搭載されています。すっきりしたとても分かりやすいデザインです(写真①)。ディスプレイも必要最小限の大きさで紛らわしさも無さそう。ツマミに触れると、単にプラスチックに凹凸の加工が施されているものとは違い、滑らずにしっくり指にフィットする加工が施されていて、ミス・タッチもかなり軽減されるのではと感じました。ツマミとフェーダー(特にツマミ)の操作性は個人的に程良い負荷と重量感があり、操作していて心地良く、操作に気持ちが入ります。


鍵盤は、私自身約16年間ROLANDっ子なので、若干丸みを帯びた優しい感じの鍵盤の形や長さもとてもしっくりきます。鍵盤の重さもちょうど良く、これまで使っていた従来の同社の鍵盤と比べると左右のガタつきも少なく滑らか。しばらく演奏していて感じたのですが、鍵盤自体のカチャカチャ音がかなり抑えられています。静かで小さい空間での演奏では気になったりするので、楽器という意味でも優れていると感じました。


本機には“Cakewalk Production Plus Pack”が付属。Windows専用のSonar LEというDAWソフト(画面①)とソフト音源で構成され、買ったその日から音楽作りを楽しめるのです。録音やミックスなど楽曲制作や録音に必要な作業はこれ1つで可能。最大32のオーディオ/64のMIDIトラックでの制作ができ、私は基本的にダンス寄りな曲を作ることが多くそれほどトラック数は使わないのですが、これだけあれば凝ったバンド・アレンジにも余裕で対応できるでしょう。また8ch同時録音/再生が可能で、多入出力のオーディオI/Oさえあれば、ドラム録音やバンドの一発録りも余裕。録音は最大24ビット/96kHz。VST/VSTiやReWireなどにも対応し、好みに合わせどんどん進化させられそう。それでは付属のソフト音源を紹介していきましょう(画面②)。


6つのオシレーターを切り替え&組み合わせて重厚な音色やオリジナルな音色が作れるRapture LE、過激な音色やシンプルで太い音や表情豊かな音色などアナログ・シンセ・ライクな音作りにも力を発揮する個性的なPSYN II、ベーシックな楽器の音色からシンセやドラム音色まで網羅しエディットが可能なCakewalk Sound Center、オーディオ・サンプルからREXファイルまで使用でき、2種類のサンプルを合成してフィルター/LFO/エンベロープなどさまざまなパラメーターでシンセ同様の音作りが可能なDrop Zone、さらにさまざまなドラム・サウンドやリズム・スタイル&パターンのMIDIデータが用意され、パーツごとのピッチ/パン/レベル全体のコンプレッションや残響まで制御可能で任意のトラックへドラック&ドロップするだけで瞬時にリアルなドラム・トラックを作成できるStudio instrumentsDrum……と、ざっとここまで本当に何でもできそう。Windows/Macどちらにも対応し、私はWindows7で使用していきました。 まずA-800ProをUSBケーブルでパソコンとつないで、Sonar LEを立ち上げると、MIDIトラックとオーディオ・トラックが生成されます。まずCakewalk Sound Centerを立ち上げ弾いてみると弾き心地も良く、サクサク作業ができます。


音色を変えてみます。この場合はDAWソフトの操作に最適化させるactボタンが便利。ソフト上のactボタンを押すと、A-800Proのactボタンも点灯。しっかりと連携されています。画面のパネル上のツマミと同じ部分のツマミをA-800Pro側でいじると、しっかりとリンクして動きます。シンセなどをコントロールする場合は自動的にデフォルトでカットオフやレゾナンス、LFOやピッチといったオシレーター系などがツマミに割り振られ、エンベロープやエフェクトはフェーダーに割り振ってあります。最初から使いやすいように制御するパラメーターの割り振りにもユーザーの目線で気が遣われているようです。ツマミやフェーダーの操作も動かした通りにシンクロしストレスが無く、Sonar LEとの相性も良いようです。やはり私も含めてMIDIコントローラーの購入に躊躇してしまう方は、“なんだか難しそう”とか“いろいろ設定が面倒臭そう”という理由が多いのと思うのですが、本機はとても分かりやすいです。


打楽器の打ち込みにも使えるパッドピッチ/モジュレート・ベンダーも便利


私は普段の制作時、4〜8小節ほどのループのパターンを組んでリアルタイムでトラックの抜き差をしたり、シンセサイザーのツマミやエフェクト操作で展開を作っていきます。さらに鍵盤弾きとして、ほかのアーティストのライブをサポートしています。その両方の視点から使ってみました。


まず4小節のドラムのループを作ります。ハイハットを小刻みに生っぽく打ち込みたいと思い、A-800Pro上のDYNAMIC PADをたたいて打ち込んでみました。生っぽいトラックの場合アクセントの強弱がキモになってきます。A-800Proには鍵盤やパッドを押さえたときのベロシティの変化が12種類設定できます。単に弱く押せば弱く、強く押せば強くだけではなく、“弱いときの変化は少なく、強いときの変化を大きく”などが設定可能。非常に地味な機能ではありますが、これはさまざまな楽器の表情を豊かに表現するのに役立つもので、重要。しかもアフター・タッチの感度のバリエーションまで用意されています。MIDIで制御したいのはシンセの音色やエフェクトだけではないので、演奏者の視点での機能が盛り込まれていることは非常に重要だと思います。


続いて80'sっぽいシンセ・ブラスを弾いてみたのですが、この手の楽器はピッチ・ベンドやモジュレーションがキモ……というわけで、ピッチ・ベンダーとモジュレーションが一体になった独自のベンダーを駆使してみました。気持ち従来のものよりバネの張りの具合が良いなぁと思ったのは気のせいでしょうか? こちらも適度な負荷があり心地良く弾けます。


エフェクトやシンセのツマミを仕込んで自分なりのライブ・セットを構築!


パーツもそろったところで、Sonar LEと本機を使いライブ・ミックスをしてみました。EQだけでも5つのタイプから選べ、ゲイン、帯域、Q幅を設定可能。1トラックにつき4つのポイントを設定でき、ざっくりした作りの分かりやすい効きで、私は好きです。Sonar LEにはほかにも、定番から飛び道具まで十分なエフェクトもあります。空間系はテンポに同期するディレイ、リバーブ、コーラス、フランジャー、フェイザー。特殊系ではビット落とし系のAlias Factorなど。さらにコンプ、パラメトリックEQなど、シンプルですが、組み合わせ次第でさまざまなサウンドを作れます。各トラックのエフェクト・セクションに並べるだけで、複数つないだ後でも、かける順番を自由に変更可能。さらにバス・トラックを作ってセンド/リターンもできます。実際に異なるタイムや質感のディレイを数種類と、深めのリバーブをバス・トラックに用意。このときA-800Proのツマミにはディレイのフィードバックとレベル、リバーブのパラメーターをアサインし、フェーダーには各トラックのレベル、パッドにはセンドのオン/オフ、数トラックのミュートをアサイン。A-800Proをミキサー的な使い方をして、80'sっぽいディスコ+トロピカルな感じのトラックを、抜き差しと空間系エフェクトでダブ的に……さらに外部音源をつないで鍵盤の手弾きも交えて展開を作るライブ・セットで試してみました。30分も遊んでいたら操作にも慣れ、楽しく演奏することができました。ツマミをグイィー!っと右に回すと操作性と音が完全にマッチするように残響音が伸びていきます……私はこんな使い方でしたが、ソフト音源の膨大なパラメーターをアサインしまくって、あたかもアナログ・シンセのような使い方をしたり、録音/再生などを設定して快適な録音環境を作るなど、ユーザー次第でいろいろな使用法が考えられるでしょう。


今回A-800Proを試してみて、これまであまりMIDIコントローラーを使ったことがありませんでしたが、“これを機に導入しようかな”と思ったほど。最初の1台として手に入れても末永く付き合えると思います。毎月10本前後のライブを行っているので、鍵盤の持ち運びが非常に負担ですが、本機は重量も軽くコンパクトなので、ライブなど頻繁に行う方にも、音源やパソコンと本機だけあれば体力的にも負担にならずに済むでしょう。


a800_rear

▲左からDC9V入力、電源スイッチ、USB端子、MIDIマージ・スイッチ、MIDI IN/OUT、ホールド・ペダル入力(フォーン)、エクスプレッション・ペダル入力(フォーン)


『サウンド&レコーディング・マガジン』2010年12月号より)


撮影/川村容一


ROLAND
A-800Pro
オープン・プライス(市場予想価格/35,000円前後)
▪鍵盤数/61鍵(すべてベロシティ、チャンネル・アフター・タッチ対応) ▪電源/DC9VまたはUSBバス・パワー ▪外形寸法/1,002(W)×91(H)×251(D)mm ▪重量/4.5kg

▪Windows/Windows XP/Vista/7、INTELプロセッサー1GHz以上のCPU、512MB以上のメモリー、100MB以上のハード・ディスク空き容量、USBポート、1,024×768ドット以上のディスプレイ解像度(1,280×1,024ドット以上推奨) ▪Mac/Mac OS X 10.4以上、PowerPC G4 またはINTELプロセッサー1.0GHz以上のCPU、512MB以上のメモリー、100MB以上のハード・ディスク空き容量、USBポート、1,024×768ドット以上のディスプレイ解像度(1,280×1,024ドット以上推奨)