【製品レビュー】24,000個以上のサンプルで構成されたエレクトリック・ギター音源

VIR2 INSTRUMENTSElectri6ity
歴史的に有名な8種類が収録されたエレクトリック・ギター音源

VIR2 INSTRUMENTS Electri6ity オープン・プライス(市場予想価格/42,000円前後)


いやぁ、暑いですね。毎年のように“今年は暑い”って言ってる気もしますが、特に今年は暑さの質が違うような。この時期になると、やはりコンピューターの熱対策には敏感になってしまいますね。特に、ソフト音源などを頻繁に使用するようになってからはCPUにかかる負荷も増えてますし、いつもよりは排熱に気を使ってみるのも快適な作業につながるかと思われます。 さて、今回レビューさせていただくのはエレクトリック・ギター音源のVIR2 INSTRUMENTS Electri6ityです。パッケージのデザインの気合いの入り方から、並々ならぬ雰囲気を感じてしまいます。概要としては、FENDER Stratocaster、Telecaster、GIBSON “P90”、Les Paul、ES335、L4、RICKENBACKER、DANELECTRO “Lipstick”と、歴史的にも有名な8種類のエレクトリック・ギターが収録されているとのこと(編注:P90、Lipstickはそれぞれピックアップの呼称)。早速チェックしてみましょう。


歴史的にも有名な8種類のエレキギターを収録


Electri6ityのすべての音色はDIを通してクリーン・トーンで収録されており、内蔵のマルチエフェクトを使い、さらにはアンプ・シミュレーターを使うことでオリジナルなサウンドを作り出せるという仕様になっております。


エフェクターの種類は、フェイザー、フランジャー、コーラス、リバーブ、ディレイとギター・サウンドの基本的な音作りにはまず事欠かないだけの種類が収録されておりますし、またアンプ・シミュレーターの方もブリティッシュ、クラシック、クリーン、ジャズ、メタル、モダン、ロックと最低限なジャンルの要素はばっちりと網羅されています。これらの組み合わせにより、音作りの可能性は考えつくだけでも大変な数になりそうです。あまりにも果てしないセッティングに想像するだけでクラクラしてしまいそうですが、まずは自分の好きな音色、良く使いそうな音色を思い浮かべることにしてひとまずはそこにたどり着けるように進んでいこうかと思います。


まず最初に確認すべきは、動作環境かと思われます。コンピューターのCPUパワーにおいては現行の機種でも問題なく動作するだろうと思われますが、OS、RAMに関しては多少の制限がある模様です。特に推奨メモリーが4GB以上となってますので、スタンドアローンで使用する場合などはまず大丈夫かとは思いますが、プラグインとして使用する場合、結構メモリーを食いそうなのでご注意を。と言いながらも、DFD(DirectFrom Disk)機能というハード・ディスク・ストリーミング再生ができ、サンプルをRAMに読み込まずハード・ディスクから直接再生することでコンピューターに搭載された容量以上のサウンドを扱える機能もありますので、その点も覚えていていただけると安心かと思われます。プラグイン規格に関してはVST、RTAS、Audio Unitsなど大体の制作環境においても使用できるようになっています。


その場に実物がないのにもかかわらずまさにLes Paulの音を再現


まずはインストールから。本ソフトの起動にはNATIVE INSTRUMENTS Kontakt Player 4を採用しておりますので、インストールしていない方はまず初めにそちらから入れましょう。インストール・ディスクの1枚目にインストーラーが収録されております。Kontakt Player 4のインストール後にサウンド・ライブラリーをインストールしていきます。ライブラリーはDVD-ROM4枚組26GBとかなりのボリュームですので時間は多少かかりますが、1枚ずつインストールが完了するたびに次のディスクを入れるよう指示が表示されますので、起動するまでのお楽しみとして気長にいきましょうね。今回はCPUの使用具合もチェックするということで、まずはプラグイン音源として起動してみました。


Kontakt Player 4を立ち上げると、画面左側にElectri6ityのライブラリーを確認することができますので、その中からLes Paulの音源を選択して読み込むことにしました。少しして立ち上がったその音はまさにGIBSON Les Paul。いやぁ、ギターの実物が無いのにLes Paulの音が。なぜか笑いが込み上げてしまいました。ギターに詳しい知人に音を聴いてもらう機会もあり、その方も納得のサウンドでした。それぞれのギター・サウンドには24ビット/44.1kHzのサンプルが計24,000個以上使用されているということで、とにかく数字の多さにクラクラしてしまいがちですが、冷静に考えたら生演奏でのギター・プレイは人それぞれですし、ピックアップのポジションなども好みによって違っていたりもするのでそれらを再現しようとなるとやはり膨大なサンプルを使用するのは当然かなぁと。もちろんピックアップもフロント、リア、ミックスと選べますので、聴き比べながら好きな音を選んでいけます。


デフォルトでも十分なサウンドが出てくるのには驚くばかりですが、立ち上げの際、初めに表示されるパフォーマンス・ページにてアーティキュレーションのアクティブ具合を確認したりそれぞれの操作を視認することができますので細かい調整などを進めてみましょう(メイン画面)。こちらでの調整は14種類。先ほどお話ししたピックアップの位置やピックのポジション、ビブラートの長さやスピードなどまで細かくエディットしていけるのはスゴいですね。


また、そのページ中で“おおっ”と思ってしまったのは、鍵盤で和音を演奏した際にコードの種類が画面に表示されたことでした。コレは素敵。厳密にコードから作っていくというよりは、どちらかと言えば音の響きから流れを作ったりしている自分としては、後々“このコード何だっけ”と調べなくてもダイレクトに押さえた瞬間にコードが表示されるのはちょっとうれしいし、助かります。Les Paul以外にもTelecasterやRICKENBACKERなどを立ち上げてみましたが、その音はまさにそのまま!といった感じでした。とりあえず音を聴くだけでもテンションがアガリます。


実際にギターを触れたことがない人でも大まかな部分を理解できる

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▲画面1 各種エフェクトやスクリーマー、ディストーション、バーチャル・ギター・アンプを設定可能。実機を模したインターフェースで視認性もいい


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▲画面2 演奏に応じてどの弦の何フレットを選択したかを確認できるフレットボード・ページ。ギターを全く触ったことが無い人でも一目瞭然(りょうぜん)だ



パフォーマンス・ページをはじめ、調整用のページは4つ。セッティング・ページはElectri6ityのパラメーター、CC、キースイッチなど100種類以上もの設定を納得がいくまで追い込むことができるようになっています。先のパフォーマンス・ページと併せて設定することで、よりオリジナルな音色や自分なりの演奏方を作り出せるかと思われます。


続いてエフェクト・ページは各種エフェクトやスクリーマー、ディストーション、アンプのシミュレートを選択、設定することができます(画面①)。こちらでのエフェクトの種類も先にお伝えしたようにギター系では問題なくそろっており、そのかかり具合などもバーチャルという言葉で済ませられないほどの充実ぶりです。アンプ・シミュレーターの方もそれぞれの個性がしっかりとしており、さまざまなジャンルの音楽でキャラクターを使い分けることができそうな感じです。思う存分いじってみて、好きな音色、セッティングにたどり着いてほしいと思います。


4つ目はフレットボード・ページ(画面②)。このページは鍵盤での演奏に対してElectri6ityがギターとしてどの弦の、何フレット目を押さえているのかを表示してくれます。これは自分にとってスゴく頼もしい機能。併せてギターの勉強もできちゃう感じです。ストロークの方向(アップ/ダウン)やスライドなどの演奏テクニックも表示してくれますので、鍵盤で弾いた演奏がギターではどう演奏されているのかが分かりやすく視認できると思います。これらのページを駆使すれば、ギターに触れた経験のない人でもギターの大まかな部分を理解できそうな感じです。


また、Electri6ityには“アーティキュレーション・モーフィング・テクノロジー”と“ベロシティ・モーフィング・テクノロジー”と呼ばれる機能が搭載されています。これはサステインのないミュート・ギターからサステインの長い音への変化、または優しいタッチの演奏から激しい演奏への変化をスムーズに行うことも可能になります。さらには、“アドバンスド・ストリングス&フレットボード・ポジショニング”という機能が人工知能によって演奏のスピード、タイミング、音程などを自動的に解析し、演奏に最適な弦やフレットを選択してくれるそうです。もちろんマニュアルでの指定も可能です。もはや情報量の多さに意味も無く戸惑っておりますが、こちらからの演奏情報をいかに素早くギターとして鳴らしてくれるかという機能なわけですから、まずはお任せでどういった形のモノを提示してくれるのかを認識した上で、さらに自分の好みのポジションに移行できると考えると、なるほど良くできているなあと感心せざるを得ません。


ほかにも、コード識別エンジンなど鍵盤での演奏を自動的にギター用のボイシングに変換してくれたりと、あまりにも多機能過ぎて現時点では正直完全に把握できておりませんが、とにかくあらゆる機能が演奏をスムーズに再現してくれるように搭載されております。ここまでギターを実機に近い状態まで再現してくれるソフトはこれまで無かったんじゃないかなとも思います。サクッと使ってみたいですし、じっくりと納得のいくまで機能をいじり倒してみたい気にもなりました。


しかし、コンピューターの中でギターの演奏ができてギターの音(しかもアンプ込み)がするってあらためて考えると面白いですね。アンプの設定って実物ではツマミの位置などを決めていても、その日によって微妙に変えないといけなかったり、違う現場ではまるで音が変わったりとなかなか大変だったりするのですが、コンピューターの中でなら、一発で設定を呼び出すことも可能ですし、後は楽曲に併せて調整すれば良いのですからね。とにかく、また一つ自分にとってお気に入りの音源が増えたことは確実のようです。


『サウンド&レコーディング・マガジン』2010年9月号より)


VIR2 INSTRUMENTS
Electri6ity
オープン・プライス(市場予想価格/42,000円前後)
こ▪Windows/Windows XP SP2/VISTA/7、Intel Core Duo 1.66GHz以上、4GB以上のRAM、VST2.4、RTAS、スタンドアローン対応、29GB以上のハード・ディスク空き領域、DVD-ROMドライブ、インターネット接続環境 ▪Mac/Mac OS X 10.5以降、Intel Core Duo1.66GHz 以上、VST2.4、RTAS、AudioUnits、スタンドアローン対応、29GB以上のハード・ディスク空き領域、DVD-ROMドライブ、インターネット接続環境